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希望

去年の秋頃、アメリカに行く1時間ほどのフライトで、穏やかな笑みをたたえた、白髪をゆるく一つに束ねた女性と隣合わせになった。

フライトアテンダントが飲物とクッキーを配りに来て、たしかその時にどちらからともなく話し始めた。

彼女はワークショップのためにカナダに来て、その帰りだという。

そのワークショップというのが、もうこの世にいない人と交信するというようなもので、それなりの数の人達が参加して貴重な時間を共有したとのことだった。

どう返答していいか困って頷いていると、彼女は会ったばかりの私に、自分の家系は早くに亡くなる人が多く、息子も若くして銃弾に倒れたと普通に聞いたらかなり重い話を淡々と静かに語った。

私はちょうど帰国してお墓参りをする予定だったので、それを伝えると、彼女は自分のことのように喜んだ。

そして、アメリカで起きる多くの問題の根源は、人々が土地との繋がりを持たないことによるものだと言った。先住民を除けば、たかだか数百年前からそこに住んでいるだけ、それで心が不安定なのだと。

つまり、北米の人々は根なし草なのだ、と理解した。先祖が長く暮らした土地を離れて、遠いこの地にやってきて、何代か経た今も宙ぶらりんなのだと。

たしかに日本では氏神様に守られているという感覚はあって、お参りにも行っていた。

それが何千年も脈々と受け継がれてきて、知らず知らずのうちに心の平穏が保たれているということはあるのかもしれない。

今、アメリカは大いに揺れている。人々の、もうこれで終わりにしてほしいという願いが大きな力となって、国境を越えて伝播してきている。多くの人が感情を露わにし、涙を流している。もう見て見ぬ振りはできない、一人ひとりが声をあげなければならない、とかつてない規模でデモが起きている。

土地との繋がりが生まれるまでは、人々が恐れや緊張を解き放ち、お互いを癒すための人一倍の努力を続けるしかないのかもしれない。

彼女はいまどこで何を思っているだろうか。





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