アメリカ移住の第一歩・ソーシャルセキュリティナンバーを取得しに行くとある雨の日の話

SSN(ソーシャルセキュリティナンバー)の申請に来た。
日本で言うところのマイナンバーのようなものだ。
これがないととにかく何も始められないのがこの国である。

今日は雨が降っていたのと、朝携帯に突如現れた「誘拐速報」に慄いて行きも帰りもLyft(最近はもうUberをみな使わないようである)を使い往復40ドル程消費してしまった。シアトルのタクシーは東京もびっくりなくらい高い。

行きのタクシーでBack Street Boys のAs long as you love meが流れてきて、運転手と「まじでクラシックは永遠だね・・」とか言いながら、楽しく世間話をしていたらすぐにソーシャルセキュリティオフィスに着いた。
ぱっと見、よくある大きな役所のような建物で、エントランスもちゃんとしている。

荷物検査を通ってエレベーターに乗り、目的地の9階へ。
すると小柄な黒人女性が向かい側のエレベーターから降りてきた。
左を見ると目的地らしきオフィスのドアが見えた。
彼女が先に歩き出し、オフィスのドアに向かって私の前を歩きはじめた。
たくさんの張り紙の貼ってあるドアには、「事前予約のみ」の表示。

黒人女性が狼狽えた様子でドアの前をうろうろし始めた。
すると即座にドアの向こうから2人の警備員のような格好をした小太りの白人男性が様子を伺いに来てドアを開けた。

その瞬間だ。
男性達がドアをあけた瞬間、
黒人女性は子供のように泣き、叫び始めた。

「おばさんに会いたい
SSIが欲しい
毎日来てるのになぜSSIがもらえないのか」

SSIとは、SUPPLEMENTAL SECURITY INCOME の略で、
いわゆる障害があり収入が限られている人への毎月給付の社会保険のことのようだ。
対象者として認められれば、医療や食糧の援助も受けられるらしい。
https://www.ssa.gov/ssi/text-over-ussi.htm

「ここには入れてすらくれない
話すら聞いてくれない
ここは間違ってる
あなた達の仕事は何か
SSIが欲しい
不安と怒りの治療薬が必要なの
私は不安で怒っていて
おばさんに会いたい
SSIが欲しい」

エーンエーン!!
という、まさに子供のような泣き声で彼女は叫び続けた。
廊下はとにかく音が響く。


1人の警備員がすっと私の方にやってきて、小声で「IDはあるか」と聞いてきた。
私は鞄からパスポートを出して見せると、1人の男性がそれをオフィス内に持っていってコピーを撮っていた。
コピーが終わると、泣き叫ぶ女性の横から私だけをオフィス内に案内した。

女性は、ずっと同じように泣き叫び、
「今オフィスは電話予約がないと入れないんだ、予約をしてくれ」
と警備員の男性達は落ち着いた様子でなだめていたが、私が見ていたときに彼女が落ち着くような様子はなかった。

私は中に案内され、指示通り必要な書類やIDを用意されていた黄色い封筒に入れて封筒の上に名前を書き、指示された緑のファイルボックスに入れて暫く名前が呼ばれるのを椅子に座ってしばらく待っていた。
あの女性はどうしたのだろうか。
オフィスの中では、外の音は全く聞こえない。

数分後、警備員たちがオフィス内に戻ってきて雑談を始めた。
アメリカ人にしては随分控えめに、小さな声での雑談だ。

「全く困ったもんだよ この六日間毎日来るんだもんな」


え?6日間??

6日間も、朝9時のオープン時間に並んでは泣き叫んでいると言うのか。

ふと、何故彼女は予約をいれないのか、もしかして、電話を入れることができないのではないだろうかと考えた。

たしかにソーシャルセキュリティオフィスは、電話をすれば予約は取れる。
ただ、私も経験しているが通話料無料の電話番号では中々繋がらないのだ。
音声案内を聞いて電話を繋げようとしても、人手不足なのか全く人が出る気配がない。
そしてずっと着信を鳴らしていると数分後にぶつっと切れてしまう。
仕方なく私は2回トライしたのちにダメだったので、通話料のかかる方の電話にかけたところ電話が繋がりその2日後に折り返し電話がきて初めて予約が取れた。

この、電話でしか繋がることができない、というのは割と不便で日本人的感覚でいくと謎が多い。
旦那に
「まずネットでソーシャルセキュリティオフィスの電話番号調べて、電話してみて。そしたら名前と電話番号と要件聞かれるから話して。するとその電話はそこで切れて、数日後にまた電話がかかってくるから。」
と説明されたとき、一瞬どういうことか分からなかった。

(え、その電話で予約すぐできないの?電話しかだめなの?なんで名前と電話番号伝えるためだけに電話するの・・?)

しかもなんなら公式ページがいかんせんわかりにくい。
コロナ前とコロナ後の対応が変わっているのだが、あまりわかりやすくは説明されておらず、まさか電話でしかルートがない、などとは思い辛い。
ネットに転がってる情報はほとんどがコロナ前の情報だと言うのもある。

まずそもそも電話番号が無いと詰む、というのは私も旦那に聞いて初めて知った。
一般的な認識は、そもそもソーシャルセキュリティナンバーがないと携帯電話の契約ができない。
※アメリカではクレカを作るのも銀行の口座を作るのもソーシャルセキュリティナンバーがないとできない

詰んでるじゃないかと思ったら、プリペイドカードや格安SIMはソーシャルセキュリティナンバー無しに購入する事ができたのでなんとかなったが、
住所がないひと、
プリペイドカードがかえないひと、
そもそも携帯がない人、
はどうしたらいいのだろうか、とふと不思議に思った。
この国の最低補償の社会保険は、最低限を持つ人にしか開かれていないのだろうか・・

などとつらつら思いながら自分の名前が呼ばれ、想像していた数倍スムーズに申請が受理された。
帰り際スタッフに、
「あの黒人女性は6日も来てるようだけど、電話予約は確かにとても大変だったよ。好奇心できくんだけど、電話も持ってない人たちはどうしたらいいの?」
と聞いてみた。
すると、どうやらこの国にもちゃんと、シェルター内に電話があったり、所謂ソーシャル相談所のようなものがあってそういうところに物理的にいけばそこで電話を繋いでくれるらしい。

日本もアメリカも、そこまで行く気力とそこに行けばいいという知識があれば、なんとかなるようである。
とはいえそれでもこれだけホームレスが多いのは、多くの人たちが何かしらの理由で「詰んでる」と言うことなのだろうか。

毎日毎日悲しい思いをしながらオフィスに出向く彼女が、
正しく助けを享受できる場所に足を運んでくれることを祈るばかりである。
廊下に響く悲痛な鳴き声が、まだ頭の中をこだましている。

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