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「交通インフラ創造社会」:ファブリケーションと交通

今回話題にするのは、私が研究テーマの一つとしている、ファブリケーションと交通である。この論考では、現在の交通がどのような考えのもとに発展を遂げようとしているのか、その基本的な考えである「MaaS」に関して述べる。そのあと、そのコンセプトに合わせた交通発展において、どのような思考が必要かについて述べたいと思う。

現在の交通において一番ビビットであり、私も取り組んでいるMaaS(Mobility as a Service)というコンセプトは、交通をサービスとして提供しようという考え方、概念である。これは今まで自動車でしか提供されてこなかった、ポイントからポイントへの交通を公共交通機関の組み合わせで提供せんとする、フィンランド発の運動である。具体的には2014年に博士課程のヘッキーラ氏が執筆した論文「Mobility as a Service – A Proposal for Action for the Public Administration Case Helsinki」において、通信業界のモデルを下敷きに提示されたものである。現在我々が使っている通信サービスと同様、多くのサービスを繋げて利用する形でサービスを提供すべきとしており、これが現在へ至るMaaSの基本となる。

現在のところ展開されているMaaSは、主に既存のインフラへ「タダ乗り(フリーライド)」する形で、様々な交通モードを統合したサービスを提供している。MaaS Global社による定義では、MaaSには4つのレベルがある。「MaaSレベル1」は、同一のプラットフォーム上で経路検索が可能なものであり、Navitimeやジョルダンなどの乗り換え案内サービスが代表的である。レベル2になると予約や支払いの手段が統合され、利用するごとに支払いをする形となる。GoLAあたりが代表例だろう。さらに複数交通モードの交通で定期券のようなものを発行できるようになる(サブスクリプション)ものをレベル3として扱う。これを都市計画や交通流調整まで高めたものがレベル4として扱われ、これが最終形とされる。

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MaaSの目標は、自動車にしかできなかった、ポイントからポイントへの交通(p2p交通)の代替である。複数の交通モードを統合することで、自動車交通からの脱却と公共交通機関への移行、所有して利用されていない交通資源(例えば、自家用車は95%の時間を使われずに過ごす)の活用で、p2p交通を担保するのである。例えばフィンランドのWhim(https://whimapp.com)は極めて先進的な事例だが、バス、トラム、鉄道などに加えてタクシーや自転車などのシェアリングを交通全体に採用し、またサブスクリプションを導入して自動車の代替性を高めている。

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様々な交通モードを統合する必要性は理解していただけたと思う。だが、それに合わせて進化する我々人間は、何も加工を施されなくても良いのだろうか?情報は、インターネットの時代には常に、パケットの中身を加工する形で運送された。同じように交通モードは、全ての参加する人間が、自らの意思で加工できないだろうか?その問題意識が私にとって、MaaSとファブリケーションを組み合わせようとの研究動機となる。

インターネットを見てみよう。インフラによって送られるのは情報である。「1995年、コンピューターを操る井庭崇さん(現SFC総合政策学部教授)」が話題になった時から、発信主体が大手ポータルサイトに大きく移ってから、そのままであったか?答えは否である。大手ポータルサイト提供のサービスへのフィリーライド、つまりSNSという形で、我々はコンテンツを送信できるようになった。このような、誰でもコンテンツを提供できるサービスの存在が、制約となって創造性を生んだ。だからこそ発展した。常に発展するからこそ、サイバー空間は持続可能的であった。我々のそうぞう(想像、創造)余地が残っているからこそ、絶えず発展し、社会へ適合できるサービスインフラが成立したのである。

交通はどうだろう?公共交通を利用するだけで、我々はインターネットと同じような仕組みの中で、インターネットと同じような発展可能性を持たせ、持続可能性を担保できるのだろうか?答えはNOだと私は考える。交通モードへフリーライドする形で、何らかのモード作成・実装手段を担保しないのであれば、社会適合とそれによる持続可能性担保は達成できない。現在、交通にはそれ自体をサービスとして捉える、MaaSというフレームワークが存在する。そしてサービスは、社会へ適合しなければ、崩壊する危険性すらある。このギャップを超えるには、何らかの形で公共交通以外の交通モードを新たに生成する、それも一人一人が生成できるレベルのレジリエンスが必要ではないだろうか。ここで私は、交通の持続可能性を担保するには、一人一人が道具(ファブリケーション)を利用して交通を設計できる未来こそが必要だと考える。

その第一段として、ドローンは非常に有益だろう。まずドローン自体、都市計画の中での規則制定やインフラ整備において、発展途上である。であればこそ、それらに何らかの規格を制定する、また制作ツールを提供することで、実装へ向けた機運は高まる。あと一歩なのである。ただ、全員がドローンポート(発着場)を持とうとする事態になると、需要と供給はマッチしせず、明らかに供給過多へ偏る。このギャップを埋めつつ、限られた中で創造性を担保するのがファブリケーションである。ツールさえ用意すれば、地域ごとに合わせつつ、規格にあったポートをそれぞれが設計し、展開できるようになるだろう。ただ安全を担保する設計に必要な基礎装置に関しては、最低限にとどめつつも、中央からの供給が必要となる。加えてインフラはいったん整備すれば一定期間保存するのが原則であり(水道管など)、専用の工具類は利用できない。多目的ファブ施設での製造が可能なよう、設計しなければならない。

加えてインフラだけでなく、交通モードに使われるツールそれ自体について、製造が可能な未来についても思考すべきと考える。小型の車(いわゆるパーソナルモビリティー・ツール)は、小さい分手を加えやすい点で、また個人スペースを確保できる点で、その格好な材料である。パーソナルモビリティー・ツールそれ自体が、より居住地域へ近いゾーニングを付与される点も、そうぞう力が働きやすい環境要因と言える。例えば自動車のうち、居住部分をカスタマイズできれば、今まで経済学的には無駄とされてきた移動時間へ新たな価値を付与できる。またスクーター系の小さなツールも、法制度に会う設計ができれば、どんな設計をしても法的に咎められることはない(制限が変わる可能性はあるが)。このような設計のデータをインターネット上に公開すれば、それを出発点としてまた、創造的なツールを生み出す土壌となる。将来的には、車メーカーより容量が下の部分で、「分散的な車メーカー」を実現し、小さな交通をもっと社会に合った存在にできると考えている。

このように、これからの交通社会がインターネットへ迎合すると考えるのであれば、それぞれのユーザーがそれぞれのモードを創造できる社会が到来するだろう。私はこれを「交通インフラ創造社会」として定義したい。私自身、そのようになってほしいと願うばかりであるし、そのような社会へ進むために、しかるべき検討を行って参りたいと思う。

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