真夜中の病院のアフロのおじさん

真夜中の病院のアフロのおじさん

僕は高校3年生の時に、白血病になって半年くらい病院生活を送っていた。

入院中は、いろんな人と話をした。

僕はよく、点滴棒を押しながら夜中に病院内を徘徊していた。

今思えば、他の人から見てすごく怖いだろうなと思う。

髪の毛のない(抗がん剤の副作用で毛が抜けた)、目つきの悪い(生まれつき)、点滴棒を押す高校生がいたらちょっとビビる。

ある夜、病院のパジャマを着た、ガリガリでメガネでアフロ(多分天然パーマ)のおじさんと話をした。

芸能人で例えるなら、松鶴家千とせ、もしくはラーメンズの片桐仁に似てるかな。

どうして話し始めたかはわからないけど、病院のソファに座って1時間くらいしゃべってたと思う。

そのおじさんは、数年前に「あと5年しか生きられない」と医師に言われていて、残りはあと1、2年くらいの命だと教えてくれた。

それが愛っていうんだ

おじさんには、籍は入れてないけど奥さんのような人がいて、その話をしてくれた。

昔、仕事中にクレーン車と壁に挟まれて下半身がぐちゃぐちゃになって歩けなくなったこと。

生きる気力がなくなってたこと。

絶望しかなかったおじさんを献身的に支えてくれたのが、その女性だったらしい。

「本当に感謝してるんだ。彼女がいなかったら今のおれはないから。もうあと少ししか生きられないけど、彼女と死ぬまでずっと一緒にいるよ。一緒にいたいし、一緒にいてあげたい。キスしたいとか、SEXしたいとか、そんなのはもうどうでもいいんだよ。人のために生きるって本当に素晴らしいことなんだよ。」

高校生の僕にはちょっと難しかったけど、おじさんの言ってることはなんとなくわかったような気がした。

2枚のテレビカード

僕の白血病の治療は、抗がん剤投与だった。

治療をした後は、副作用で吐気が出たり、免疫力が低下して熱が出たり、すごくつらかった。

でも治療と治療の元気な間に、外泊をすることができた。

家に帰ると、地元の友達が遊びに来てくれた。

楽しい外泊が終わって病院に戻ると、看護師さんがテレビカード(病室でテレビを見る時に使うカード)を2枚持って僕のところへ来た。

「昨日ね、男の患者さんが、野田くんいない?ってたずねてきたんだよ。でも野田くん外泊中だったから。その人は退院する日だったみたいで、会えなかったの残念そうにしてたよ。そしたら、これを野田くんにって言われて・・・『渡せばわかる』って言ってたけど、誰だかわかる?」

そのカードには、1枚に「頑張れ!」、もう1枚に「負けるな!」って書いてあった。

ああ、あのおじさんだ。なぜだかすぐわかった。

看護師さんからカードを受け取ると、僕はおじさんが入院していた病棟に行った。

ありがとうが言えなかった

おじさんは退院してて、もう病棟にはいないのはわかってた。

けど、どうにかして会えないかと思った。

ここでお礼を言わないと、もうあのおじさん死んじゃう、と思った。

病棟から出てきた看護師さんに、声をかけた。

「あの、細くて、メガネかけてて、髪の毛がくるくるのおじさん、知りませんか?昨日退院したと思うんですけど・・・」

その看護師さんは困った様子だった。

「それだけじゃちょっと・・・それに、患者さんのことは、教えてあげられないの」と言われた。

そりゃそうだ。今考えればわかる。

でもその時はそうするしかできなかった。

しかたなく僕はあきらめた。

もう会えないおじさん

ありがとうを言えなかったのは残念だったけど、あまり悲しくはなかった。

ここで会えなかったら、もう二度と会うことはないってなんとなくわかってた。

でもおじさんはきっと、彼女と一緒の日々を過ごしてるんだと思う。

そう考えたら、残りの命が少なくても関係ないのかなと思った。

一番大切なものに気づいて、幸せな人生を送る。

70億人以上いる地球上の人たちの中で、どれだけの人がそんな風になれるのかな、と思う。

そしておじさんも、もう僕には会えないってわかってたんだと思う。

だからテレビカードをくれたのかな。

人は忘れる

僕はおじさんの話を聞いて、テレビカードの「頑張れ!」「負けるな!」のメッセージをもらって、人生頑張ろうって思ってた。

でも、やっぱり人って大切なことも忘れちゃうんだな、って思う。

テレビカードは、アルバムに入れてずっと押入れの奥にしまいこんでた。

でも、引っ越しとか大掃除のタイミングで見つけると、あの時のことを思い出す。

もう20年近く前のことだから、多分おじさんは亡くなってると思う。

いい年したおじさんが、病院で出会った高校生に真面目な顔して愛を語るなんて、ドラマみたいな話だな。

きっと僕は、この話をまた忘れちゃうんじゃないかと思う。

だから文章にしてみた。

おじさんは余命を宣告されて、残りの命がハッキリとわかったからこそ大切なことに気づけたんじゃないかと思う。

ガンジーは「明日死ぬように生きなさい」って言ってた。

死を意識しながら、一日一日を大切に生きていきなさいっていう意味だと思う。多分。

おじさんは、明日死ぬかもしれないと思って生きてたと思う。

僕もそんな生き方をしたい。

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看護師として大学病院で11年勤務した後、ライターへ転身。非常勤の看護師として重症心身障害児者施設、介護施設で勤務しながら、書籍の執筆協力、企業のWebサイトへの記事執筆、Webメディアの運営などを行う。