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はじまりのステーキ

高校1年のとき、思いがけないところで中学の先生に会った。

先生は、3年間で1度もクラス担任になったわけではなく、隣のクラスの担任だったけれども、僕は、先生の授業を受けていたし、課外活動などでも時々お世話になっていた。

卒業以来だったので、挨拶をすると、「ステーキを食いに行こう。おごるから」とのことだった。

まさか、先生と食事に行くとは思ってもみなかったけど、誘ってくれてありがたかったので、お言葉に甘えた。

さらに、容赦なく、お言葉に甘え、僕は、400gのステーキに挑戦した。

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先生は、気さくでやさしかったけれど、筋の通らないことは厳しくダメと教えてくれる先生だった。先生が導く道理の判断軸は、大人としてブレることはなかった。だから、先生のことをキモいといっていた一部の女子グループだって、結局は、言うことを聞いていた。

先生は継続の人だった。

学級通信を毎日書き続けていた。クラスでの出来事、行事の話題、勉強の仕方など、B4用紙に文字数多めの手書きのプリントが、隣のクラスでは、毎日配られていた。

並大抵のことではないと思う。当時、先生はそれを1年間やり遂げた。

「継続は力なり」

何事においても、その言葉を体現する先生だった。継続したことは積み重なり、その積み重ねが自信になる。その自信は、自分の判断軸を支え、周囲に影響を与える。そういうことを行動で教えてくれていた。

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400gと悪戦苦闘している僕に、先生は、新しく始まった高校生活のことを気にかけてくれた。

そういったやさしさもうれしかったけれど、何よりも、この前までは教師と生徒という関係だったのに、この日は、僕のことを1人の人間として、同じ目線で話をしてくれたことが、うれしかった。自分が少し大人になったようで、誇らしい気持ちになった。

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あれから数十年が経った今でも、先生は変わらず教壇に立ち、多くの卒業生を輩出している。

先生は、年齢を重ねてから、フルマラソンに挑戦し、毎年、タイムを縮めている。常に新たなチャレンジをし、物事を継続する姿は、今でも僕を導いてくれる。

あのとき以来、僕と先生は、1年間の挑戦と継続を、年賀状で報告し合っている。

それは、数十年が経ち、僕が400gを遠慮するようになった今でも、ずっと変わらずに、続いている。






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