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J-Quantsの切り拓く個人投資家の運用の未来

はじめに

2022年4月5日からKaggle(※世界最大のデータ分析コンペティションプラットホーム)にて、東証の株価を予測して運用パフォーマンスを競うJPX Tokyo Stock Exchange Predictionが開催されている。このコンペティションの主催者は東証を運営する日本取引所グループ(以下JPX)そのものであり、ファンドやリサーチ会社の主催するコンペティションよりも「公式・公認」的な感覚がより一段強いものとなっていると言えるだろう(公式プレスリリース)。

JPXは本コンペをJ-Quantsデータ分析コンペティション第3弾と呼称している。昨年にSignate(※日本国内のデータ分析コンペティションプラットホーム)で開催された2つのJ-Quantsコンペに続く、3番目のコンペティションとなる。

ハッキリと言及するが、このコンペティションは現在資産運用を行っている個人投資家達、特に普段はデータサイエンスに馴染みのない方達にも多大な影響を与えると考えている。このことについて、本記事にて説明してみたい。

留意事項

・本記事は、コンペティション未登録の状態でも参照できる公開情報に基づいたものです。
・Private Sharingの規約違反となるため、本記事ではコンペティションの解法や検証内容、ソースコードについては一切触れません。
・本記事の内容は全て筆者の個人的見解によるものです。

個人投資家の資産運用

東証の株価予測であるため、国内株式への投資を前提として話を進める。「米国株ガー」と言う反論はナシだ。

デイトレーダーのように場中にモニタに張り付くような人はさておき、一般的な個人の資産運用では、NISA枠などを使い自身で個別銘柄を選定して購入するか、投資信託を購入することが殆どである。
昨今はFIREを謳ってインデックスETFの積み立て購入を推奨する主体が多いが、実のところETFの購入者というのは比較的リテラシーとリスク許容度の高い限られた層のみであり、一般層へは殆ど浸透していないのが現状である(ETF投資家調査2021、野村アセットマネジメント)。

マーケットからの利益

ETFの積み立てを行うということは、いわば予測スキルを持たない人達が、自己資産をマーケットリスクに晒すことで対価としてプレミアムを獲得するという行為である(さらに個別銘柄や投信を購入するということは、それに加えて銘柄を選定するための目利きが伴う)。しかし、現在の日本において、本当にこのようなリスクプレミアムを享受できるのだろうか?

株式投資はプラスサムゲームであると言われるが、それは健全に市場全体の時価総額が成長していく場合であって、現在の日本のように停滞している場合は当然であるがゼロサムとなる。局所的に見た場合、新規上場株の価格が急上昇して保有者全体に含み益が乗っていることもあるだろうが、基本的には「アイツの損失はオレの利益」ということになる。

国内株式市場で利益を得るためには、どうにかして他者よりも優れたスキルを持つしかないのである。

J-Quantsの目的と成果物

J-Quantsの目的は、個人投資家によるデータサイエンス活用の可能性を検証することだ。これは、昨今のような不安定な世界情勢下においてもデータに依拠した理論ベースの投資を安定して継続できるよう個人投資家のリテラシーを向上させるためのものだと筆者は解釈している。

過去のJ-Quantsでは、APIによるデータ提供や金融データ分析のチュートリアル(学習コンテンツ)の提供が無償にて行われ、参加者にはリテラシー向上の機会が与えられた。そして極め付けとして、入賞者のモデルは全て公開された。
これは通常のコンペでは非常に珍しいことだ。企業のコンペティション主催には、データサイエンスモデルのアウトソースという側面もある(懸賞金を掛けて参加者にモデル提出してもらう)。入賞者のモデルはコンペを主催した対価であり、このため主催者自ら全ての入賞モデルを公開すると明言することは稀である(※上位入賞者が自主的にソースコードを公開することはよくある)。

今回のJ-Quants第3弾でも、入賞者のモデルは全て公開されることになっている。コンペティションが終了すれば、世界トップクラスのデータサイエンティストが構築したモデルを誰でも閲覧可能となる。

投資の知見のオープンソース化が進む可能性

トップクラスのデータサイエンティストが構築した、日本株デイリーシャープが非常に優れたモデルが全て公開される。
これは、いわばこれまで秘匿化されてきた投資の知見が、データサイエンティストを介して機械に形式的な知能として蓄積され、ひいてはオープンソース化される時代が来る、そのような可能性があると筆者は考えている。

株式投資の予測スキルを持たない人間でも、Jupyterのようなツールを触るだけのリテラシーがあれば、これらを使って利益を出せる未来が来る、ということである。そしてこのコンペの入賞モデルは、そのジェネシスコードとなるに十分であろう。

筆者の経験による試算となるが、このようなデータサイエンティストが構築したモデルをベースとした場合、年利10%~20%程度でドローダウンが極端に小さく、不確定なマーケットの値動きから解放された運用手法が得られるだろう。この運用パフォーマンスは、従来の投資商品と比べると驚くほど高い水準である。

(注)なお、今回のJ-Quantsでは入賞者のモデルは公開されるのみで、無断で改良や再配布は行えない可能性が高いので留意すること。

誰が得をして、誰が損するか

さて、前の章では日本株はゼロサムだと説いた。だとすると、このオープンソースの恩恵を受けた者の裏側に、損を被る人間がいるはずだ。

ここで、そもそもの利益の源泉を考えてみよう。
極端な話、これらのソースコードから得られた投資戦略が「当日10%下落した銘柄を買う」みたいなものであれば、即座にその優位性は消える。そのような条件に当てはまる投資対象の銘柄はごく一部であり、これを皆が買いに殺到すると下落幅は縮小していずれ投資機会は消滅する。

しかし、本コンペの仕様のように幅広く分散して買い入れする場合、自身と相対する取引相手はどのような主体となるか。これは基本的には、ETFの構成銘柄をノールックで買い付けしているような証券会社であり、最終的にはコストとしてそのようなETFを積み立てている主体に転嫁されるのだ。

つまり簡単に言うと、ETFなどを積み立てしている投資層からオープンソースを活用し運用している投資層へ多かれ少なかれ富が移っていくということだ。構図としては、国内の投資家同士が食い合っている状態であり、決して良い状態とは言えない。しかしこれは仕方がない。リテラシーのより低いところからより高いところへMoneyが流れるのは、資本主義である以上仕方のないことなのだ。

ブラックボックスな運用など考えられない?

そもそも個人投資家がAIで投資を行うことは、インデックスや投信を買うのと何ら変わりない。
乱暴に言ってしまえば、いくら投信の目論見書があったとしても、最終的にそれを購入する個人投資家の立場からすると結局のところ銘柄選定や運用自体はブラックボックスであることには変わりがない。そうであれば、自らのPCが売買銘柄を提示してくれるほうがよほど良いのではないか。


さあ、個人投資家がAIで資産運用する未来はもうそこまで来ている。

コンペ参加の勧め

先ほども述べたように、入賞者のモデルはコンペティションに参加しなくとも閲覧可能である。しかし、当然ながらコンペに参加せずに後からただ入賞者のモデルを転用しようとしても、なかなか難しいだろう。できないとは言わないが、もしもそんなことをする気があるのであれば、コンペ初期から参加して少しでも手を動かしたほうがよいはずだ。

筆者も当然コンペティションに参加する。
J-Quantsの第1弾、第2弾において、筆者は両方のコンペで2位であり辛酸を舐めさせられた。Kaggleでの開催となり難易度が上がってしまったが、次こそ1位を獲るという気概で参加する。

対戦お待ちしています。

さいごに

上記のような筆者の投資観は、ファイナンス機械学習の監訳者である長尾氏から多大な影響を受けている。もしも本記事のような内容に興味がある方は、長尾氏が昨年の人工知能学会誌No.3に寄稿した「資産運用ビジネスにおける人工知能とデータサイエンスの可能性」の一読をお勧めする。