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【49】日本昔話・おかしな話・奇妙な話:「ハマグリ姫」 2022.7.17

「ハマグリ姫」
これは私が小学校低学年の頃に読んだ絵本のお話です。友達の家に遊びに行ったときにその家の本棚に「金太郎」「桃太郎」「一寸法師」などの日本昔話の絵本と一緒に並んでいたものです。他のお話はもう大体知っていたので、知らないお話だ、どんなお話だろうと思って手に取って読んでみたのです。
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昔々、ある所で、おじいさんが一人暮らしをしておりました。
ある日、おじいさんが海岸に行くと大きなハマグリが鳥に突つかれて、今にも運んで行かれそうになっているところに出会いました。
おじいさんは鳥を追払い、ハマグリを海に返してやりました。
その夜は嵐になりました。
ふと、おじいさんの家の戸を叩くものがありました。
「どなたじゃな。」
とおじいさんが戸を開けると立っていたのは雨に濡れて疲れ切った様子の若い娘さん、
「両親に死に別れ、遠くの親せきを頼っていくところなのですが、道に迷って難渋しております。どうか一晩泊めていただけないでしょうか。」
「ああ、それはお困りでしょう。何もありませんがどうぞ。」
と、おじいさんは娘さんをこころよく泊めてあげたのです。
次の日も、また次の日も嵐は続き、
「危ないから急がず今日も泊まっていきなされ。」
娘さんはせめてものお礼にと家の隅々まで掃除をする、洗い物、繕い物をするなど、くるくる実に良く働きます。
おじいさんは、なんて気立ての良い娘さんじゃと
「もしも遠くの親戚とやらに行くのが大変で不安だったりするなら、このうちの娘にならんか。」
「できますものならば」
ということで娘さんはおじいさんの家に住むことになったのです。
そんなある日、娘が言います。
「私はとても美味しいおつゆをつくることができるのです。しばし台所をお貸しください。」
「けれど料理しているところは絶対に見ないでくださいね。」
といって、しばらく台所にこもると、大鍋一杯のお出汁を作ったのです。
そのお出汁の美味しいことといったら、ほっぺたが落ちるとはこのことで、味噌汁にしても煮物にしてもこのお出汁を入れるとびっくりするほど美味しく変身するのです。
近所の人に自慢したことでこれが評判になり、「是非売ってくれ、金に糸目は付けん」などというものまで現われ、おじいさんは結構なお金を手にします。
「すまんがまた作ってくれかのう。」
「わかりました。でもつくっているところは絶対に覗かないでくださいね。」
二杯目の大鍋もあっという間に空になり、
「すまんが、また」
「ええ、覗かないでくださいね」
というやり取りが繰り返されるのですが。
おじいさんは、何もないところからどうしてあんなに美味しいお出汁が取れるのだろうと不思議でならず、
「ちょっとくらいならいいじゃろう。」
と隙間から覗いてしまうのです。
そしてびっくり仰天するのです。
一体何が有ったのでしょう?考えてみてください。
・・・
・・・
正解は、なんと娘さんは着物を全部脱いで全裸になり、鍋のなかに入って体をじゃぶじゃぶ洗っていたのです。

そして、しばらくして出てきた娘さんは、おじいさんのまえにピタと座ると頭を下げ、
「私はあの時おじいさんに助けられたハマグリでございます。このままずっとおじいさんの娘として暮らしていけたら幸せと思っておりましたが、つくっているところをみられてしまったからにはお別れしなければなりません、今まで有難うございました。」
といって去ってゆく。
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というお話なのです。
当時私は前述のように小学校低学年であり、何しろ数十年前のことなので、記憶があいまいなところや辻褄の合わないところを補足したりしていますが、大筋はこの通りで間違いないと思います。
ストーリー自体は、浦島太郎や鶴の恩返しなどの助けた動物が恩返しをするという類型的なお話なのですが、若いおなごが鍋の中で自分の体を洗って出汁をとっちゃうという恩返しの方法の奇天烈さには強く印象を受け、いまだに覚えているというわけなのです。
大人になった今の目で見ると、ちょっとエロスな匂いがするような気もして、でもやはり奇妙奇天烈で斬新な発想には感銘を受けます。

今思い出すと、湯浴みのシーンですが、鶴の恩返しでは鶴の姿に戻って機を織っていますが、ハマグリ姫の入浴シーンの絵ではハマグリには戻らず、女の人の姿のままでジャブジャブしていたような気がします。そうなると本体を見られたからもう一緒にはいられないという法則からはずれてしまうのですが、ビジュアルの問題なのでしょうか。

ところで、このお話ですが思い出すたびに、この話は一体何だったのだろうと疑問になり落ち着かなくなるのです。今回もググってみましたがやはり何も出てこず、どういう素性か全くわからないのです。
ほんとにどこかの地方にこうした民話があるのか、それとも誰かが創作したものなのか。
もしも知っている方がおられましたら教えていただけると有難く存じます。

教えていただけたら夜分恩返しにうかがって老体に鞭打って鍋の中で湯浴みをしてもよい覚悟にござりまするが、まあ湯浴みする前に鞭で打たれて追い出されるのが関の山でしょうね。理不尽な世の中です。

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