日本語教育推進基本法(仮称)について考える研究会

アカデミック・ジャパニーズ・グループでの講演

先週、ある程度の方向性が見えた「日本語教育推進基本法(仮称)」。

土曜日(6/2)は「日本語教育推進基本法で何が変わるのか〜あなたの現場とのつながりを考えよう」というテーマで、アカデミック・ジャパニーズ・グループ研究会で講演をさせてもらいました。

実は、この企画、半年前からこの日にこのテーマということで決まっていました。29日火曜日に議連総会があり、それを踏まえて少し議論を整理した上での開催ということで、これ以上ないタイミングでした。当日は以下1〜4のような手順で会が進みました。

1 「日本語教育に推進基本法は、私の学生によい影響を与える」というお題について、質問づくりワーク

2 日本語教育推進基本法(仮称)のポイント(僕が政策要綱についてレクチャー)

・2005年〜の自民党外国人材交流議員連盟からの流れ

・日本語教育推進議員連盟の発足の問題意識とその後の議連での議論

・「日本語教育推進基本法(仮称)政策要綱」のポイント解説

・今後の動きの方向性

3 質疑応答

4 法律ができるという現状について「現場の声」の意見出し

非常に活発な意見交換をもとに、議論が深まっていった感覚がありました。特に、レクチャーの前に、「質問づくり」ワークをやるというのは、認知的な活性化という点でとってもいいなあと思いました。

日本語教育推進基本法のポイント

すでに、田中宝紀さんが5月30日に「外国人との共生社会に向け、進む体制整備〜日本語教育推進基本法案で注目すべき5つのポイント」という記事を書いてくださっています。

今回のレクチャーでは、その議論も踏まえ、僕なりに、以下の5つのポイントに整理してみました(5つのポイントってところで宝紀さんのパクリみたいですみません…)。

1 「基本的施策」を盛り込み具体的な方向性を示したこと(第三 基本的施策)

2 日本語教育の推進の目的として「共生社会の実現」に言及したこと(第一 総則の一 目的)

3 責任主体として国、地方公共団体、雇用している企業の三つを明記したこと(第一 総則の四 国の責務等)

4 日本語教育を推進する上で、地域社会や外国人に、その意味や重要性を訴求することに触れたこと(第一 総則の三 基本理念の5と6)

5 「日本語教育の質の保証」に関して教師の資質向上に加えて待遇の改善にも言及したこと(第三 基本的施策の三 日本語教育の質の保証)

参加者からの意見・反応

参加者の関心は、やはり、この法律ができたときに、現場にどのような影響があるのかということでした。

・そもそもこの法律の目的はなにで、なにを実現しようとしているのか

・法律の影響が及ぶ範囲はどのあたりまでのなのか、具体的な教育内容や教師の待遇に本当に影響があるのか

・この法律が目指すことの実現可能性はどの程度あるのか

・この法律によって困る人が出てくることは考えられないのか

などなど、いろんな方面から、影響に関する質問が出てきました。

目的は、移民受け入れを進めるための第一歩にするというのがもっとも大きなものだと言えると思います。現在、技能実習の職種増加、建設・農業・宿泊・介護・造船という5分野を対象とした在留資格新設の議論などがあります。このような小手先の対応をやめ、受け入れの大方針を明確にした上で移民問題に取り組んでための第一歩といえるでしょう。

法律の影響範囲については、これから基本法の下にどのような法律や施策がつくられるかによって変わってくると思いますので、現段階ではなんとも言えないと思います。ですが、たとえば、大学の日本語教育の内容を、この法律で縛るというようなことは考えにくいと思います(大学にはすでにそれに関する法律があるため)。今、法的に整備されていない日本語教育機関(=日本語学校)への影響がもっとも直接的なものになるのではないでしょうか。

実現可能性については、法律をどう運用するかということで、法律を作る側ではなく、使う側の問題でしょう。

困る人については、そういう人が出ないことを願うとともに、留学ビジネスや技能実習ビジネスなどで、人権を無視した送り出し・受け入れを行なっている業者が困るような仕組みになるといいと思います。

課題

人口減少による経済的な停滞を回避するために外国人に頼らざるをえないというのは明白です。裏口のような入国管理政策を改め、移民について正面から真摯に議論する必要があるでしょう。そのことが、社会不安の軽減や社会の安定にもつながっていくはずです。

より多くの人が日本語を学び、それを通して自己実現を図るというのは、義務ではなく権利であるという軸をブラしてはならないと思います。

法律はあくまでも枠組みです。法律を作ることが目的ではないというのは自明なのですが、従来の日本語教育界における議論では、法律を作ることを目的とするような風潮がありました。日本語教育に携わる人たちは、枠組みとしての法律に目玉を入れるのは自分たちであることを強く認識する必要があるでしょう。そのために、日本語教育や隣接領域の「研究」、教育「実践」、そしてなんのために日本語教育をするのかという「哲学」という三つの側面で、本質的な議論を行なっていく必要があるのではないでしょうか。

うまくいくまでやり続ければ失敗なんてありえない/今日も笑って過ごそう


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?