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木原という僧侶の話

わしの知ってる、一人のハゲ
…違う、初老の僧侶の話をしようと思う。

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仮にこの記事では、彼の名前を「木原浩一(仮名)」としよう。同姓同名の麻雀プロが存在するが、そちらとは関係ない話として読んで欲しい。

もっと言えば、この先の話は、ある一件をモデルにしたフィクションだ。

さて、この木原浩一。
協会宗という宗派では、かなり名の知れた尊いお坊さんである。

この協会宗、仏を学びたいという人たちにはとても優しくフレンドリーで、仏教徒には人気のある宗派だ。

このわしも、名の知れぬ売れない漫画家の頃から、かなり優しく仏の道を教えてもらった。何も知らないわしが、一番偉い大僧正を指差して「あっ! 空き地に車が埋まったデブの人ですか!」と言っても、「そうです、あのデブです」と笑ってくれるような、優しい坊さんの集まりだ。

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しかし仏門に入った僧侶たちは、ものすごく厳しい修行と戒律の中で生きている。「人に優しく、自分に厳しく」それが協会宗のモットーである。

葬儀の最中に無駄話するのはもちろん許されないどころか。お寺の外でも厳しい生活態度が徹底されている。かつて酔っ払ってツイッターに、尼さんのゴシップネタを書いた若い僧侶は、一晩で破門にされてしまった。それくらい戒律が厳しい。

厳しさに耐えきれず、すぐに辞めてしまい「俺は元僧侶だぜ!」なんて肩書きで、中途半端な宗教活動をする者もいる。ただの根性のない落ちこぼれである。


しかし木原浩一は、そんな厳しい仏門の世界で、過酷な修行を20年以上も続けており。鍛え抜かれた本物の僧侶にしか達成できないという「仏王回峰行」を成し遂げた、第14代・仏王である。信徒たちからは、もちろん尊敬の対象だ。

されどこの木原浩一、いっさい偉ぶることもなく。

みずからを「クソオタクハゲ」と証して笑い、まわりの信徒たちも親しみを込めて「はげちむ」もしくは「天鳳にハマりすぎてAリーグ落ちたハゲ」と呼び、そのほがらかで、素朴な人柄を愛していた。

誰とトラブルを起こすこともなく。
自虐して笑っても、他人を馬鹿にして笑うことはなく。
底抜けの良い人である。

さらに近年は、youtubeを使って仏の素晴らしさを、若者たちに伝えよう!と頑張っていた。誰よりも早くyoutubeの世界に飛び込み、若者に頭を下げて学び、ジジイのくせに必死に頑張っていた。

そんな木原浩一が、ある日。

あるトラブルに巻き込まれて、youtube活動を自粛に追い込まれたのだ。

(なぜ、あの仏のような木原が? 何があった?)

仏門の世界がざわついた…!!


・仏門Vチューバーの世界


3年前、仏教界隈を驚かせる興業が立ち上がった。

日本一最強の僧侶を決める、お布施5千万円の大会。
「仏リーグ」開幕!

このビッグニュースに、全国の仏教徒が歓喜し、熱狂した。

宗派の壁をこえ、鍛え抜かれた人気の僧侶たちが集まり、世界平和を願って木魚を打ち鳴らす。徳が一番高い僧侶は、誰だ!?

開幕したばかりの仏リーグは、鎌倉中期以来の、大きな仏教ブームを巻き起こそうとしていた。古くからの敬虔な仏教徒は、すでに「ありがたや、ありがたや」と涙を流している。

しかし、それを眺めていたわしは

敷居が高すぎねえかな。仏教徒以外は、今から入りづらくねえか?」

…と思っていた。仏リーグに選ばれた僧侶たちが、あまりにも神々しすぎて、下手な批評もできなそうな堅苦しい空気。何より選抜された、僧侶たちがガッチゴチに緊張していた。

わしはあえて、その僧侶たちを「面白おかしく茶化しまくる漫画」を大量に描き、ツイッターで公開をし始めた。もう今では300本を超える、仏リーグ漫画だ。

尊い僧侶をこれでもかと茶化し、いじり倒すギャグ漫画に、仏教徒の大勢が凍りついた。(これは笑ってもいいのだろうか?)(ウヒョ助あいつ、謎の神通力で消されるんじゃないのか?)

しかし、その緊迫感を解いてくれたのは、海賊宗の大僧正・小林剛住職だった。彼は仏リーグに選ばれた人気僧侶の一人だった。自分がネタとしていじられているその漫画をすぐにRTし、好評価をしてくれた。それを見て大勢がやっと安心し、漫画を読んで素直に笑い始めた。今では真似してたくさんのファンアートがあふれ、仏リーグ界隈は、楽しげな笑顔で満ちている。

本物の僧侶は懐が広いのだ。慈愛に満ちている。

実は、そんな小林剛住職よりも先に「面白い!」と褒めてくれた僧侶がいた。
3000人いると言われる大勢の僧侶の中で、一番最初に寛容な声をわしに投げかけてくれた、その優しいお坊さん。

木原浩一である。

木原とは、そういうお坊さんなのだ。

僧侶は厳格な空気の中で日々、仏と真剣に向き合っている。しかし、その厳しさを一般の信徒たちにも押しつけたくない。もっと子供にも老人にも、最初は気楽に仏の世界へ飛び込んでもらいたい。木原がyoutubeへ自然に飛び込めたのも、そういった希望があったからこそだ。


さて、盛り上がり始めた、仏リーグブーム。

そのブームの波紋は、若者たちがハマっていたVチューバーの世界にも届いた。仏門に特化した、僧侶Vチューバーが人気になり始めていたのだ。それまでは「仏教、なんか暗そうだ」と、見向きもされなかった仏教の世界が、仏リーグやVチューバーのおかげで、若者に受け入れられ始めたのである。

可愛い女の子のVチューバー。素人のはずなのに、まるで本物の僧侶のように学が深く、仏を愛し、メジロのような美しい声でお経を読む。

この若さでまさかもう悟りを開いているのか…!?

そう注目され、特に大きな人気を得ていた、一人の尼僧Vチューバーがいた。



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クスノキ政子である

わしに画力を求めるな。
もう一度言う、求めるな。

このクスノキちゃん、あまりの人気に「これが我々の仏じゃ!観音様じゃ!」と、たくさんのファンがつきはじめた。仏リーグの人気僧侶よりも、求心力が高いくらいである。

彼女が演じ、彼女が作り上げる、youtubeの仏教バラエティ番組で「仏教って面白い!もっと知りたい!」と願う若者が急激に増えてきたのだ。その様子に連盟宗・総本山の森山大僧正もニンマリ。彼女はある意味、本当に仏様くらいありがたい存在になっていった。

そんな彼女の人気に舌打ちしていたのは、天邪鬼なこのわしか、もしくは…

クスノキアンチだけである。

僧侶たちは皆、彼女のことを応援していた。


・大炎上、比叡山焼き討ち



ところが…

そんなクスノキ政子に、ある疑惑が持ち上がり、かなりの大炎上になった。

「お経のぞき読み疑惑」である。


仏教に精通しているクスノキちゃん。お経は全部暗記して、意味も理解して、それこそ僧侶に匹敵すると噂されていた彼女が。

ライブ番組中、実はこっそりカンニングペーパーで、般若心経をイッキ読みしていたのではないか…と言う疑いである。視聴者をだましていたのか、ひどいやつだ、まったく聖女なんかじゃないやんけ!と、特にアンチがここぞとばかり彼女を責めあげる。

しかし疑惑は疑惑のまま。
真実はわからず、いまだザワザワと絶賛炎上中である。

わしはその騒ぎを眺めて、素直に思った。

まずその番組。
「誰が一番、立派な葬儀を上げられるか?」
設定は、そんな僧侶Vチューバー4人の対決である。

ただ、僧侶役を演じるそれぞれが、番組中とにかく楽しくふざけている。
棺の中の遺体人形を眺めて騒ぐ人、笑うひと、いじる人。未亡人にセクハラトークをかます人。歌う人、踊る人。脱ぐ人。

視聴者ほぼみんなが、わかっている通り。
これは大真面目な葬儀ではない。
葬儀のコントである。

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実際、本物の僧侶がこんな葬儀をやったら、即破門である。クビだ。

誰が一番、徳の深い僧侶なのか?…なんてもちろん比べ合いはできない。
そこに真剣勝負などはない。
出演者全員が「番組作りの仕事として」真剣にふざけておるのだ。
そういう舞台である。

結局は「誰が一番、視聴者を楽しませてあげられるか?」
の、タレントとしての勝負である。
視聴者も理解して、楽しんでいる。わしも楽しんだ。

もちろん本職の僧侶たちもやさしい目で眺めている。
そりゃそうだ、まったく別の世界だ。

僧侶の目からすれば、バラエティ番組の人たちが、自分たちの業界のネタを、コントのネタとして使っているだけだ。そこはわしが描く仏リーグ漫画と一緒である。ファンアートの延長。

そもそも「仏教を見て楽しんでもらうなんて無理だっつーの! それを仕事にするなんて冗談だろ、笑えるぜ!」と馬鹿にされていた大昔。それをコロンブスの卵で、見事に成し遂げたのは、今や伝説の開祖。小島武夫・大僧正である。

見てもらうことを仕事にしている全ての人が、小島が開いた道を歩いておる。
仏リーガーも、僧侶Vチューバーもである。

クスノキちゃんたちが作る番組は、エンタメ商売のプロのお仕事。
それで敷居の高い、仏教の世界を楽しくのぞいてみようと言う若者が、実際いっぱい増えているのである。とても素晴らしい。

もしそれをキッカケに、仏教をもっと深く知りたいと願う人がおれば。
そこから初めて、僧侶の仕事だ。お寺の門はいつでも開いている。

そう、Vチューバーは、その門の外の人たちである。

おそらく木原もニンマリ笑顔で、外の楽しげな光景を眺めていたはずだ。

その光景を、真面目な葬儀と考えれば、全員が僧侶として失格。
バラエティと見れば、最高の演者たち。

バラエティなのだから、バラエティとして見るしか評価しようがない。

そこに「大真面目な葬儀なのに、お経をカンニングなんてずるい!」と言う非難の声が上がっているのである。そもそも、カンニングしたかどうかわかりもしないのに、そうだと決めつけて怒っている人たちがいる。

マジかと。
お前ら、マジかと。
これ全然、大真面目な葬儀ちゃうやんけ。

文句をつけるなら、演者全員ダメである。
僧侶が笑いながらワイワイ喋るな。葬儀の場だぞ。成り立たん。


本当のガチの葬儀にしたいのなら、最初から仏リーグの大会のように、棺の中に本物のご遺体を入れておる。ふざけるスキがない。観客も故人の死を悼んで泣いておる。

まったくそうじゃない、もはや何でもありのコントの舞台で

棺の中のドライアイスを口にふくんで、アルテマウェポンの真似をしてもいい! しかし、のぞき読みだけはダメだ! 大真面目な葬儀なんだぞ!」と怒っているのである。

マジかとw

大人の感覚で、何を言ってるんだこいつらはと。

だが、その人たちは
「すごい情報を得たぞ!」
「どこで? ソースは?」
5ちゃんねる(キリッ!)
の人たちである。

元々は5ちゃんねるの書き込みからの、別の炎上騒ぎでワイワイしてた人たちだ。

あそこに書き込んだり、書いてあることを素直に信じちゃうのは、子供か子供部屋おじさんだけだ。仕方ない。言っても始まらない。


なのでわしは、半笑いで眺めていたのだが。

うっかりその騒動に、寺の中から口を出してしまった、お坊さんがいる。

木原浩一だ。

「そもそも疑惑も本当かわかんないし、あのコントで、お経をカンニングで読んだとしても、そんなに叩かれなくちゃいけないの?」

と言う素直な感想である。
騒ぎの外にいる大人は、ほぼほぼそう思ってる。
馬鹿馬鹿しくて、口に出さないだけだ。

一言で言えば「くだらねえことで怒ってるなw」

しかしわしらと違うのは、木原は「本物の僧侶」だと言うことだ。
唯一、模範となる葬儀ができる、本職の人である。

アンチには、そこにつけいるスキがあった。
クスノキちゃんを擁護するなんて、あいつは邪魔な奴だ。

「本物の僧侶がそんなこと言っていいんですか!」
「読み上げるお経を理解してないお坊さんなんて、許されるんですか!」
「仏教のイメージが悪くなりますよ!」
「僧侶はいつもあんな葬儀してるんですか!そう思われていいんですか!」
「あんなカンニングをする女、かばうんですか!」
「安室奈美恵主演のカンニングテスト映画、ダブル主演のTOKIO山口までかばうんですか!」

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もう、できるかぎりの責め言葉がぶつけられる。しかも非難の声の見た目人数を増やしたいのか、どんどん生まれる捨て垢。どいつもこいつも安室奈美恵の話しやがって。中身一緒だろ。誰が覚えてるんだ、あの映画w

アンチに怒って言い返す言葉は、もしもわしだったらいっぱいある。
ツッコミ返しどころだらけだ。
アンチ本人たちも、そこをわかっているから、捨て垢なのだ。

しかし、木原浩一は、仏教を笑顔で伝えたいと長年願ってきた僧侶だ。
仏のまわりに集う人々には、笑顔だけがあれば良いと。

ここでモメても、決して仏様は喜ばない。

木原は、誤解を生む発言をした自分が悪いと謝罪し
YouTubeの活動をやめた。

とてもせつない姿だった。
頭髪よりも寂しい。

あのホトケの木原を追い込んだということで、何十年も木原を愛してきた仏教界の人間は静かに怒っている。クスノキアンチは大きな失敗を犯した。かなり大勢の仏法者が、今も無言のまま、情は大きく木原に、そしてクスノキに傾いている。もうひっくり返らない。

アンチ活動、下手…!!
木原叩きだけはダメだっつーの!



わしは忘れない。

木原浩一という、僧侶の中の僧侶がいたことを。
ハゲの中のハゲがいたことを…。

しかし、わしらは木原のたくましさを知っている。
長い年月を仏に捧げてきた、1本背骨の通った坊さんの強さを。

いつかまた、元気にあの地味な笑顔で。
仏の楽しい奥深いお話をyoutubeで届けてくれる日が来るはずじゃ。

ゆっくり待とう。




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