Mリーグで一番タフな選手は誰か?
最強のタフを見つける方法とは?
Mリーガー29人、全員が抜群の技能と経験を持っている。
麻雀がもっとも強いヤツは誰なのか?
それはなかなか答えが出せない。
強い者同士がぶつかれば、あとはメンタル勝負である。
半年間の長いリーグ戦、身も心もタフなヤツが勝つ。
それだけは間違いない。
ならば一番タフなヤツは誰なのか?
これには簡単に答えを見つける方法がある。
早い話「無人島」に送り込めばいいのである。
誰が最後までリタイアせずに、島にしがみつけるか?
わかりやすい勝負だ。
最後の一人になった選手には、賞金300万円が入る。
麻雀最強戦の優勝賞金と同じ額だ。
さっそく選手たちに伝え、参加意思があるかをたずねる。
きっと、こんな感じなるであろう。
瀬戸熊「フフフ…ボクはいいよ。…え? だからやだって。」
萩原「んんんーっ! 俺、撮影あるんだよなー、硫黄島で。」
黒沢「そんな小銭はいらないですぅー。」
園田「あ、コーヒーとタバコがないとボク死にますので…」
鈴木「や、マカオなら行くけど……」
村上「ハイッ!行きません! 咳がまだ止まりませんッ!」
岡田「紫外線を浴びたくないし、事務所的にも〜〜〜」
沢崎「ハハ、歳だしねえ。それに明日ガースが家に来るし」
高宮「……おめえら、おらの乳に視聴率頼りすぎだベ?」
藤崎「ヒサトが代わりに頑張るんじゃないのかな? なっ!」
亜樹「だるい」
勝又「あの…裁判があるので…」
小林「何のメリットもないですよね?」
瑞原「子供の送り迎えが。あと、何のメリットもないですよね?」
石橋「うん、何のメリットもないよ。お腹すくし。」
朝倉「…あ、じゃあボクも。」
オファーの段階で、Mリーガー29人中16人が消えた。
そう、ヤツらはタフじゃない。
ただの常識人だ。
しかし目立ちたがり…違う、エンタメ意識の高いアベマズとフェニックスの選手たちは全員参加である。さすがだ。一人、白鳥プロだけは浮かない顔をしているが。あの魚谷プロが行くならば、そこは男を見せねばならない。ここで強さを見せねばどこで見せる。卓上では圧倒的に魚谷が強いのだ。
全員がデジタルに参加を拒否したパイレーツだが、朝倉・石橋は直前になって参加することになった。両者とも、嫁から「行って来い」と強く言われたようだ。片方は強制的なダイエット目的、片方は嫁の軽いノリである。
そして咳がとっくに治っているのがバレている村上は、一人じゃ心細い丸山を助けるお守役の爺として、越山監督から島へ送られた。
無人島に上陸
16人が乗った船から、選手たちはゴムボートで島へ。
いよいよサバイバル生活の開始である。
選手は自分が着ているユニフォーム以外、所持品は藤田晋・著「仕事が麻雀で麻雀が仕事 」しか持たされていない。正直、ここでは邪魔である。
参加選手たちはそれでも胸を踊らせていた。
このサバイバルはアベマで放送される。
ここでタフさを視聴者にアピールできれば、ファンが増えるに違いない。
しかし上陸早々、リタイアが出た。
村上である。
砂浜に降りた一歩目で、肉離れと捻挫の2翻である。
スタッフからの「頑張れそうですか?」の質問に、彼は元気な声で「ハイッ! 無理です!」と答えたそうだ。村上がまず脱落した。
そしてすぐに、別の選手からリタイアが申し出があった。
上陸15分後のことである。
茅森だった。
麻雀でいえば、配牌を取り始めたところだ。
配牌オリである。
エメラルドグリーンの南国の海に、高くて青い空、ジャングルには美しい花々、そして舞い踊る蝶。日向がいきなり大声で「天国じゃなくても〜〜〜楽園じゃなくても〜〜〜〜♪」と、THE BOOMの「 風になりたい」を歌い始めたが、歌詞はそこしか覚えてなかったようだ。
そんな時に悲鳴が聞こえた。
丸山である。
鈴木たろうの顔の大きさくらいの蝶である。
いや、蛾だ。
しかし頼りの村上がすでにいない。
そして他のメンバーもまだ、新人の丸山とそこまで親密な関係ではない。もっといえば、たろうサイズの蛾は誰も触りたくない。誰も近寄らない。
「もう帰りますぅ…」
さらに彼女の頭上には、園田くらいチャカチャカ動く巨大なバッタがとまっている。泣きはらした目の丸山が、か細い声でリタイアを宣言した。
虫が少ない北海道で育った道産子は、虫は苦手なのである。
案の定、丸山が3人目の脱落者となった。
「ヒサト、海はいいな」
「ヒサト、あの鳥のようにどこまでも羽ばたけよ」
「ヒサト、あの灼熱の太陽のように燃えていたいものだな」
「ヒサト、ここ暑すぎないか?」
上陸から1時間後。
大自然の雄大さを気持ちよく語っていた前原が、ゆっくりとメガネをはずし、それを愛する息子に手渡した。
体力には自信があった前原だった。しかし早稲田の頭脳は、かなり早いうちに(やはり還暦には、熱帯でサバイバルは無茶だな)と気づいたらしい。ヒサトが行くからと喜んで着いてきたが、そこまでの船旅で満足してしまったようだ。
息子に笑顔で手を振り、前原は船に戻っていった。
さすがベテラン、ヒキの判断が抜群である。
4人目の脱落者が出たところで、島に残ったメンバーはこの12名となった。この中から「最高にタフなMリーガー」の称号を手に入れる者が現れるのである。
1日目
「セトも来れば良かったのになあー。あいつそういうとこ、昔からノリ悪いよなあ。どこか都会人気取ってるっていうの? 岡山育ちの田舎者のクセにさあ。 ボクなんか東京を1歩出たが最後、1秒で野生に帰っちゃうよ? そっそっそ。多摩川こえた川崎あたりで、もうクロマニヨン人に先祖返りしちゃうんだから。こんな無人島に来たらもうボク、人類が両棲類だった頃に戻っちゃうかもよ? ねえ翔ちゃん、ボクをイクチオステガって呼んでよ。 もう、たかちゃん、やっちゃうよん? ここに文明作っちゃうんだからっ!」
たかはるノリノリである。
しかし上陸から2時間後。
「ねえ見てよマッツ、あそこにヤシの実があるよ。高いねえ。マッツの身長なら取れるんじゃないのかな。マッツ木登り得意? ボクが登るとヤシの実テンパイに届くまで12巡かかるけど、マッツの背丈なら4巡で仕掛けられるんじゃない? マッツ、ひなちゃん、お腹空いてる顔してるよ。ねえマッツ。マッツ聞いてる?」
30分後。
松本は、パーソウの形で地面に横たわっていた。
念のため、打ち付けた頭部の精密検査をするべく、日本へ戻ることになった松本は、その船の中「あいつ殺す、東京で会ったら、控え室で瞬殺する…」と、うわごとのようにベッドで繰り返しつぶやいていたという。
パーソウの姿勢のまま。
「俺たち長野県民に、サバイバルさせるとか笑っちゃうよね!」
そう、はにかんでいたメガネが、見た目で(絶対、毒あるなコイツ)と誰でもわかるようなヘビに「わあ綺麗だな!」と手を伸ばしたのは、日向が見ている前であった。
(所詮、長野県でも松本市育ちは都会っ子よね…)
と、諏訪育ちの日向は思った。
内川が蛇に噛まれたのは、生涯で4回目。
長野でアオダイショウに2回、マムシに1回、サンゴヘビに1回である。
これで6人目のリタイアとなった。
その頃、白鳥は魚谷に「ボクと二人で水を探しに行かないかい? 水を確保することがサバイバルの基本だよね!」と誘いをかけていた。
しかし新潟は柏崎の海で育った魚谷は、上陸から20分後に、真水を求め泳ぐウミヘビの後を追って、すでに沢を見つけていた。
「いや、いい」と、2種4牌の短い言葉で断られた白鳥。
その頃、フェニックスのチームメイト、近藤はというと。
すでに自分だけの住居を完成し、居心地よさそうに寝そべっていた。
自宅のたった1畳のフローリングの床を「リビング」と呼んだ男である。そう、近藤にとってはこれもリビングだ。6畳あったら公民館だ。
そしてその頃。
もう一人のチームメイト、和久津。
「日サロいらなーーーーーーいっ!!」
脱いでいた。
滝沢も同じく脱いでいたが、下半身には1枚の葉を貼り付けていた。スタッフが理由をたずねると「プロは所作が大事」という言葉が返ってきた。
こうして1日目の夜がふけていった。
残り10人。
(つづき)↓
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