ブレーキ役がいない組織は崩壊する

ブレーキ役がいない組織は崩壊する

前回のおさらいからいこう。

元警官のミゲル・フェリクスは、メキシコの各麻薬組織を統合し、「グアダラハラ・カルテル」というひとつの巨大な帝国を作り上げた。当初はマリファナの販売で利益を得ていたが、コロンビアでコカインの生産が行われたことを知ると、コロンビアのカルテルとパートナーシップを結び、コカインの流通業にも手を染めるようになる。

一方、アメリカの麻薬捜査官であるキキ・カマレナは、メキシコ政府の腐敗っぷりに手を焼きながらも、粘り強い捜査によって、グアダラハラ・カルテルのマリファナ畑を焼き払うことに成功する。

しかし、キキの行為はグアダラハラの幹部の怒りを買ってしまう。そしてキキはカルテルによって誘拐されてしまう。

アメリカの介入をできるかぎり避けたいと考えていたフェリクスは、当初はキキへの報復に慎重だった。だが、部下が独断専行でキキを誘拐してしまったため、もはやあとに引けなくなり、しかたなく拷問と処刑を命令する。

キキが殺害されたことにより、案の定、アメリカは激怒した。メキシコ政府を焚きつけ、フェリクスへの本格的な捜査が開始される。そこでフェリクスは、側近の部下たちをかわりに差し出すことで自分の身柄を守る。ぎりぎりの場面を乗り切り、再びボスの座に君臨するフェリクス。

メキシコ政府が頼りにならないと悟ったアメリカは、捜査官の増員を決定。グアダラハラ・カルテルを壊滅するための「レジェンダ作戦」を発動する。作戦の現地指揮官に任命されたウォルトは、キキの仇を取ることを胸に秘め、メキシコの地を踏むのだった──。

ここまでが、『ナルコス メキシコ編』シーズン1の流れだった。そしてシーズン2が先月、Netflixで一斉配信された。今回はシーズン2の感想を述べよう。

現実のメキシコ麻薬戦争の史実をなぞっていることから、各キャラクターの最後はすでに明らかになっている。今回のシーズンで言えば、最後はフェリクスが逮捕され、グアダラハラは各カルテルに分裂する。

この当時のメキシコはまだおとなしかった段階であり、コロンビア編に比べると血みどろ感は薄い。だが中盤、コロンビア人との駆け引きでフェリクスが窮地に立たされたあたりから、一気に面白くなっていった。

大量のコカインを一度に運ぶ。大統領選挙で自分に有利な候補を勝たせる。このふたつのミッションを同時にこなさなければフェリクスの人生は終わってしまう。フェリクスは基本的に悪役だが、一方で主人公でもあるため、彼がピンチになることでストーリーが動くのだ。

それに合わせて、各キャラクターの個性も生きてくる。たとえば、後の麻薬王であるエル・チャポが、彼の十八番である「地下トンネル掘りの術」をこの当時に編み出しているところは面白い。

もうひとりの主人公であるウォルトも、誠実な男として描かれていて、約束を守るために命を張る姿には熱いものがあった。

ストーリーを通して、フェリクスはふたつの困難なミッションを成功させ、ウォルトに対しても実質勝利を収めた。しかし、ここから彼は失脚してしまう。カルテルの仲間さえも恐怖で支配しようとしたため、各地域のボスたちから反旗を翻されてしまうのだ。そもそもフェリクスの権力は、各ボスとのパートナーシップあってのものだ。そのボスたちに見放されてしまったとき、フェリクスの逮捕を止める者は誰もいなかった。

結局、フェリクスは自滅ですべてを失ってしまい、ウォルトは棚ぼた的に勝利を拾った。

フェリクスは誰も信用していなかった。古い仲間や家族さえも。それがこの結果につながったのか?

いや、それは結果論だろう。コロンビア編のパブロ・エスコバルは家族を大事にする人物として描かれていたが、結局、彼も失脚してしまった。

仲間や家族を大切にしていれば大丈夫、という価値観ではないのだ、このドラマは。

フェリクスとエスコバルに共通点があるとすれば、彼らにブレーキをかけるポジションの人間がいなかったことだろう。エスコバルの場合は従兄弟のグスタボがブレーキ役を担っていたのだが、途中でコロンビア軍の頭のネジが吹っ飛んだ大佐に殺されてしまった。その後からエスコバルの失脚がはじまった。

つまりこのドラマは、ブレーキ役がいない組織は崩壊するという、リアリスティックなビジネス感に基づいて作られているということだ。

さて、グアダラハラ・カルテルが分裂したことにより、いよいよメキシコ麻薬戦争が本格化してくる。知名度的に有名なのは、エル・チャポだが、その前に、「空の王者」ことアマド・カリージョ・フエンテスの時代が来ることを予感させてシーズン2は幕を閉じる。

アマドは日本のWikipediaではほとんど情報が薄い人物なので、この男がどのような活躍をしていくのか、とても楽しみだ。

その後は生ける伝説、エル・チャポの時代。ほかにも残忍さと戦闘力の高さで知られる組織「ロス・セタス」の登場など、まだまだ描く要素は残っている。

今のところシリーズ更新の情報はないが、ぜひ順調に続編が作られていってほしい。


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