クララとお日さま
『クララとお日さま』カズオ・イシグロ 土屋政雄訳 早川書房
ある日クララはお店のショーウィンドーに座ることになりました。クララたちAFはお日さまの光りを吸収し栄養にしているので、とても良い気分です。それにクララはお日さまだけでなく、外を見ることが大好きなのです。観察すると〈色々な行動や、色々な感情が見えました〉。ケンカしている人を見ました、隣にいた同じAFのローザは、その人たちは遊んで楽しんでいたと言います。外の世界に興味もないみたい。〈よく気づいて、よく学ぶAFなのね〉と店長さんが驚きました。〈人は幸せと同時に痛みを感じるものなの〉だと伝えます。クララは人の感情の不可解さを理解しようを思うのでした。
ショーウィンドー越しに、話しかけてきた少女がジョジーです。クララが14歳半と推定した彼女は、浅黒い肌にショートヘアーのクララを気に入り遠くから見ていたこと、必ず迎えに来ることを約束します。ジョジーの寝室からはお日さまが沈んで行くのが見えると言います。言動の明るいジョジーですが、歩き方に奇妙なところがあり、笑顔の中に孤独があるとクララには感じられました。ジョジーとの約束のを待つクララに、子供の約束は破られる、と店長さんは言いますが、約束通りにジョジーは母親とお店にやって来ました。一つ不思議なことは、母親がクララにジョジーの歩き方を真似させたことです。クララは完璧にこなしてみせたので、ジョジー家に行くことになりました。
ジョジーと母親と家政婦のネラニアさんとの生活が始まりました。メラニアさんは〈あっち行けAF〉と邪険にしますが、邪魔にならないよう精一杯礼儀正しく接するクララ。ジョジーの寝室の〈ボタンソファ〉に2人並んで、野原の向こうに沈んで行く夕日を見ます。お日さまは〈マクベインさんの納屋〉に隠れて行き、そこが休息所なんだ、そこに行けばお日さまに会えるんだと思うクララ。ジョジーのためになることに一生懸命なクララ。しかし、ジョジーは病気だったのです。日々、衰弱していくジョジーのためにクララは、〈納屋〉へ行きお日さまと、ある約束をします。自身の一部を犠牲までしたクララですが約束は果たせませんでした。〈でも、もう一度だけ親切をくださいませんか。ジョジーに特別の助けをお願いできませんか〉。ジョジーは命を取り止め、成長し大学生活へと歩み出す日が訪れたのです。クララの一心な思いが通じた心温まる物語。なのでしょうか?
この小説の語り手はAFであるクララだ。クララの視点が通過した断片から見えてくるものとは何か?ジョジーにはサリーという死んだ姉がいる。死んで2年後にサリーと母親が一緒にいるのが目撃された。死因に関わる、ジョジーや他の子供も受けている〈向上処置〉とは。母親がジョシーの肖像画と称して作らせたジョシーの等身大の人形は。離れて暮らしているジョジーの父親が、〈置き換えられた〉とは。成長した子供たちが所有していたAFの末路は。この小説の世界で当たり前のことは説明されていないか、クララの関心の外にある。
重要な登場人物にジョジーの幼馴染ニックがいる。元女優を母親に持つ彼は、ジョジーとの小さな約束をお互いに破りあいながら成長してきた。14歳時点では、淡い恋心を抱きあい、病気のジョジーに不器用ながら寄り添い、クララにも優しく〈納屋〉に行くのを手助けする。だが彼が〈向上処置〉を受けていないことが〈ずっと一緒〉の約束を反故にする原因となる。子供の約束は守られないのだ。
AFとは〈人工友人〉のこと、流行りの玩具であり、一時の寂しさを埋める物。皆がクララをそう扱っている。
終盤の〈ありがとうございます。選んでくれたこと感謝します〉〈できるサービスをすべて提供して、ジョジーがさびしがるのを防ぎました〉という言葉が虚ろに響いた。
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