フランスBLアンソロジー

『特別な友情』—フランスBL小説セレクションー(新潮文庫)

〈君が来るとわかってたら、真っ赤なネクタイを締めてきたのに〉

〈気をつけろよ!〉〈火の色だぞ。火傷するのが怖くないのか?〉ジョルジュは少年の手を指先で愛撫していた。(俺ニ近ヅクト火傷スルゼ?)

全寮制の神学校に転入してきた14歳のジョルジュは、一目で黒髪青い目の溌溂とした同級生リュシアンに魅了されてしまう。ジョルジュを同級生として信頼するリュシアンは、互いを傷つけその血を混ぜ合わせる儀式に及んだ特別な友人、年長のアンドレとの関係を打ち明ける。神学校では寄宿生同士の特別な友情には厳かった。チクったりはしないと誓うジョルジュだったが、偶然手に入れたアンドレからのリュシアン宛の愛の詩を利用して、アンドレを放校処分に陥れてしまう。(チクっテルジャン!)泣崩れるリュシアンにジョルジュの良心は痛むことはない。(オイ!)

次に彼の目に止まったのが、2つ年下の金髪の巻毛で可憐な佇まいのアレクサンドルだった。(リュシアンハ?)髪にラベンダーの香りをつけ、神体にひざまづく少年の膝をさり気なく触り、時には小突いたりして気を引くジョルジュ。(オヤジカ?)想いは通じ、ある日アレクサンドルはジョルジュと同じ赤いネクタイをつけて姿を見せるのだった。金髪を一房貼りつけた手紙や愛の詩を贈り〈君を愛している。自分の命よりずっと〉と一心にジョルジュに想いを寄せるアレクサンドル。(ケナゲ。推セル!)しかしジョルジュは思う。〈この幼い男の子は、まだ友情の言葉だけ話している気でいるんだろうか?〉(モシモーシ!)

彼は、侯爵家の出自で成績もトップクラスであること、そして自分の容姿の良いことを十分に自覚した少年らしい傲慢さを持っている。他人を思い通りに動かすことに躊躇いがない。寄宿生にふしだらな行為を仕掛ける1人の神父もお得意のチクリ芸で学校から追いやった。(マタカヨ!)一方で自身がチクられる事を怖れている。この点ではアレクサンドルの方が大人びて見える。そんなジョルジュの身勝手さとアレクサンドルの一途な想いとの落差が、小説「特別な友情」(ペールフィット著)の萌えポイント。ラストには悲劇が待っているのだが、最後までアンドレの事で裏切られたとは知らず、ジョルジュに同級生として真摯に向き合う心優しきリュシアンが萌え萌えポイント!(推シ!増シ増シ)。

中年男 (1907年時)も萌えるのが「ラミエ」(ジッド著)。30代後半のジッドが一夜を共にした、愛の営みの時くーくー鳴く少年フェルデナン。ジッドの友人は〈私の話にひどく夢中になって、とくにフェルデナンにかんする話に激しく萌えていた〉。ふたりは彼を森鳩(ラミエ)くんと呼んで萌えまくる。

印象的な萌えシーンが「灰色のノート」(マルタン著)で描かれる。秘密の交換ノートが教師に見つかり家出した、ヤンチャなジャックと生真面目なダニエル14歳は潜り込んだ宿で、ある戸惑いに襲われる。ベッドに入る前にはお互いの前で服を脱がねばならないのだ。覚悟を決めたジャックにダニエルがとった行動は、2人の表情、動き、感情の揺れの一瞬を切りとるような名シーンとなっている。

本書は12作家の12作品が収録されたBLアンソロジー。「尻の穴のソネット」(ヴェルレーヌ/ランボー著)のように著者や題名からして推しはかるべきものもあれば、男女が逆転する純愛物「ムッシュー・ヴィーナス」(ラシルド著)など、BLの世界観を大きく捉えようとする名作揃い。プルースト・コクトー・カサノヴァ・ジュネ・ユイスマンス・サド。名だたるフランスの作家たちの作品が、多くは抄訳で紹介されているのも、あとで原作にあたって小説の全体を読み通す楽しみになっているのだ。必ずや推し作品に出会えるはずです!

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