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ウクライナ戦争の今後         キエフ包囲戦はあるのか?       2022年3月4日時点での私見メモ  Twitterへの投稿まとめ

2022年2月24日、ロシア軍が国境を越えて隣国ウクライナへの侵攻を開始した。以下の本文は、それから1週間が過ぎた同年3月2日〜3日にかけて、個人的な備忘録として書いたものだ。一部をTwitterで公開した。

僭越ながら、私はコロンビア大学の国際公共政策大学で修士課程を終了していて、国際安全保障論の心得が多少ある。昨年12月に「世界標準の戦争と平和」(悠人書院)という初心者向けの国際安全保障の本を復刊したばかりだ。自己紹介代わりにアマゾンの著者ページをリンクしておく。

これまでTwitterで、ウクライナ戦争について考えたことをそのつど公開してきた。が、バラバラな投稿では全体像が見えない。現時点でいったんまとめ、シェアすれば、みなさんの何らかの役に立つかもしれないと思った。

私は現地取材をしていない。東京にいて、ネットで世界のメディア情報を収集している「アームチェア・ディテクティブ」にすぎない。それゆえ浅薄を免れない。ご海容をお願いする。

(冒頭の写真:冬のキエフ市の風景 撮影:Dmytro Kosmenko

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「ウクライナでは市民が火炎瓶を用意しています」というニュースが流れているのを見て、私はびっくりしました。

そこまで武器弾薬がないのか。非戦闘員が戦闘に参加することを奨励しているのか(下は2022年2月28日のANNニュース)。

もしウクライナ市民の非戦闘員がロシア軍に火炎瓶を投げたら、敵と見なされ反撃されます。立てこもる建物は砲撃されます。一方、火炎瓶と小火器程度では敵の損害は軽微です。


これまでニュースやネット映像を見ている範囲の知見にすぎませんが、ウクライナ市民に供与される武器は自動小銃でした。下の動画でもPRG(肩に担いで発射する携行型ロケット弾発射機)が加わる程度です。

これで戦車、重火砲、対地攻撃ヘリなどで重武装したロシア正規軍に抵抗しても、玉砕戦くらいにしかなりません。マスコミはこんな自殺行為を「英雄的」「勇敢」などと美談にしてはいけません。

ウクライナ国防省は「火炎瓶を作り、ロシア兵をやっつけろ」とツイッターで呼びかけているそうです(2022年2月26日のANNニュース)。

当たり前のことですが、近代軍の第一の責務は自国民を守ることです。戦闘に自国の非戦闘員を巻き込むのは近代軍として失格です。もちろん非戦闘員を戦闘に投入してはいけません。

近代戦では、戦闘員と非戦闘員は厳密に区別して、非戦闘員を攻撃してはいけないと国際的に合意されています。

都市戦で市民が抵抗すればするほど、敵軍は掃討戦に入ります。どこに武装した兵士が隠れているかわからない限りは、しらみつぶしに建物を襲います。制服を着ていなくても(民兵やゲリラ)公然と武装していれば正規軍兵士と同じとみなしてよい、と1910年の「ハーグ陸戦協定」は述べています。つまり攻撃されます。

特に首都はその国を制圧するための戦略的要衝ですから、治安回復のためには容赦しません。市民と都市の犠牲を最小限にするには、戊辰戦争の江戸、第二次世界大戦のパリのように、組織的に抵抗しない「無血開城」が最も賢明な選択になります。

パリの美しい市街が今日も残っていて、世界の人々に愛される観光資源になっているのは、ナチスに占領された時に抵抗せずに無血開城する選択をしたゆえであることは日本ではほとんど知られていません。

ウクライナのゼレンスキー大統領は「抵抗する」とポピュリスト政治家らしく勇ましい発言をしていますが、抗戦すればするほど自国民の犠牲は増え、生産施設は破壊されます。「愛国心」とか「祖国防衛」とか、マスコミ(あるいは国際世論、敵国)向けに勇ましく聞こえる発言が、自国民や国土を守るための賢明な戦略とは限りません。

ゼレンスキー大統領の勇ましい発言のようにウクライナが徹底抗戦すれば、巻き添えになるウクライナ国民の犠牲は増えます。殺されなくても家や職場が破壊されます。住宅や生産施設は破壊され、日常生活や経済が復旧するには長い時間を要します。難民化して欧米を流浪するウクライナ国民も多数出るでしょう。

国民一人あたりGDPが3720ドル程度で世界121位、スリランカと並ぶ程度の貧しい国である(日本:40089ドル=24位。ロシア:10115ドル=66位。IMF2020年統計)ウクライナにとって、未来の発展がまた奪われます。

同じ日本国民が数万人国内難民(IDP)化した福島第一原発事故をすぐに忘れたように、ウクライナ戦争も戦闘が終われば、日本のマスコミや世論はすぐに忘れます。しかし、その犠牲と損害、心の痛みを背負って生きていくのはウクライナ国民です(注:IDP=Internally Displaded Persons=国内難民)。

愛国心は生きて実践するものです。政府や軍が国民に自殺行為を奨励したり、非戦闘員を戦闘に参加させたり、巻き込んだりする行為を、私は愛国心と呼ぶことができません。

●市街戦は難易度が高い
キエフ市の人口は288万、周辺部計400万人です。名古屋市から横浜市くらいの規模がある。市民の大半は避難すると思いますが、完全に避難が完了するまでロシア軍が攻撃を待ってくれるとは限りません(下は2022年3月4日のTBSニュース。2回目の停戦交渉で、ロシアとウクライナが市民の避難のための回廊を作ることに合意したと報道)。

正規軍同士が都市部で戦闘を始めたら、非戦闘員が間違いなく巻き込まれます。都市部は遮蔽物(隠れる場所)がたくさんあります。突入前に空爆や砲撃で徹底的に破壊しておくのが定石です。そうしないと、待ち伏せされて自軍の犠牲が増えるからです。

ロシア軍が市内に入ると、次は抵抗する残存兵力をつぶす「掃討戦」が始まります。制服を着ていない市民が火炎瓶や小火器で抵抗すると、非戦闘員と戦闘員の区別ができませんから、抵抗しない市民も撃たれます。

都市掃討戦は時間がかかり、自軍の犠牲も増えます。通常の軍ならやりたくありません。非戦闘員の誤射も当然のように出ます。

まして、キエフには世界のマスコミが残っています。シリア内戦でアレッポの市民がそうしたように、市民がスマホとネットで世界に市街戦の惨状を伝えるでしょう。世界に凄惨な映像が流れます。

注:市街戦の内側の悲惨さを詳しく伝える映像作品として、シリア内戦のアレッポ包囲戦(2012〜2016年)を、市内に残った市民が撮影したドキュメンタリー映画『娘は戦場で生まれた』(2019年)があります。アマゾンで視聴できます。後述しますが、アレッポを空爆したのはアサド政権を支援していたロシア軍です。


ロシア軍にとっても、キエフ市街戦は最後までやりたくない選択肢でしょう。

それでもウクライナ軍(民兵や私服のゲリラ兵も含む)が立てこもって徹底抗戦するなら、包囲して補給路(水・食料、燃料、弾薬、電気、医薬品など)を遮断するのが定石です。市民と軍は飢えて自滅します。いわゆる兵糧攻めです。

包囲して補給路を遮断した後は、市民・軍が飢えて自滅するまで、交渉の時間が稼げます。市民の窮乏の映像が世界に流れると「市民を見捨てている」とウクライナ政府を非難する論調も現れるでしょう。

これは暴力的な心理戦です。ロシア軍はキエフの市民を人質に取り脅迫する形になります。

都市を包囲戦で陥落させた例としては、1948年の中国・国共内戦で、国民党軍が防衛する長春市(かつての満州国の首都新京)を共産党軍が150日間包囲した長春包囲戦があります。「軍・市民30万人が餓死した」と言われます。共産党統治下の現代中国では秘密にされています。参考文献として、中にいた日本人・遠藤誉さんの回顧録「チャーズ」が読めます。


もちろん、ロシア軍がキエフを包囲して兵糧攻めにしても、ヘリなどで食糧や燃料、弾薬を補給する方法はあります。しかし見つかれば撃墜されますし、成功しても少量ですから、劣勢を覆すほどにはならない。ジリジリと長期化します。

ユーゴ内戦におけるサラエボ包囲戦は1992〜96年まで4年続きました。下は1995年5月のAP通信のニュース映像。包囲軍の狙撃兵がサラエボ市民を無差別に銃撃する様子です。包囲されたあとも、市民は日常的に砲弾や銃弾の攻撃を受けました。

キエフがロシア軍に包囲されて市民が飢餓状態に陥った場合、凄惨な映像が世界に流れ、NATOやアメリカには「食糧や弾薬を運べ」という国際世論の圧力がかかるでしょう。

しかしそれを、ロシアは敵軍に物資を補給する行為とみなします。欧米がロシアとの軍事対決に踏み切るエスカレーションを意味します。

こうした包囲された都市に敵国が物資を空輸した例としては、1948年のソ連によるベルリン封鎖があります。

この時、ベルリンを包囲したソ連のスターリンは鉄道と道路は封鎖しましたが、空路は遮断しなかった。ベルリンの空港も生きていたので、英米仏が食糧や燃料を軍用機で大量に運べました。西ベルリンが生き残ったのはそのおかげです(サラエボ包囲戦でも、空港はかろうじて空輸に使えました)。

しかし、今回のキエフでは、空港をすでにロシア軍が占領しています。当然、キエフ包囲戦を念頭に置いて占領したのでしょう。ベルリン封鎖のような持久戦でウクライナ側が粘り勝つシナリオはほぼ絶望です。

加えて、冷戦初期の東ドイツの飛び地・西ベルリンと、ウクライナのキエフでは、欧米にとっての戦略的重要性が違いすぎます。欧米がそこまで踏み切る可能性は低いと私は考えます(国連が人道的支援として食料を空輸するシナリオはありえます)。

つまり、このままロシア軍がキエフを包囲したとすると、キエフは「第二のサラエボ」になる可能性が高い。加えて、空港からの補給は絶望なので「第二の長春」と呼ぶのが適当かもしれません。

もちろん、ロシア軍が包囲などせず、一気にキエフ市内に突入して大統領府を制圧してしまうシナリオもありえます。

ウクライナが抵抗を続け、戦闘が長期化した場合、ゼレンスキーが退陣あるいは親露政権が成立することがなければ、どこかで停戦ラインが引かれて戦闘終結、ウクライナは分割されます。

元々ロシアは隣接国が分割・分裂して不安定化すると自国防衛にプラスと考える国ですので、それだけでもロシアは政治的な目的を達します。

もしこの停戦ラインがキエフの市内に引かれると、キエフかつてのベルリンのように分断されることになりますが、今回のウクライナ戦争では、市街戦・掃討戦になるよりは包囲戦で時間を稼ぐシナリオが現実的ですので、最後は陥落し、キエフ分断の可能性は低いと私は考えます。

ちなみに、市民の避難や軍の抵抗が終わらないうちに敵軍が首都を攻撃・侵入し、最悪の市街戦になったのが、1937年の日中戦争における南京(当時の中国・国民党政府の首都)戦です。その結果、大日本帝国軍がどのように行動したのかは史実でみなさんご存知のことと思います。

●キエフにはまだ市民が多数残っている

先日キエフのテレビ塔がロシア軍のミサイル攻撃で破壊されたニュースで私が驚いたのは「近くを歩いていた市民5人が巻き添えで死亡した」という記述でした。つまりキエフにはまだ市民が避難せずに多数残り、平常の生活をしている。ここで市街戦をやると、悲惨なまでの破壊と死者を出します。

ロシア軍がキエフを包囲して兵糧攻めにしない場合は、市街地に突入する前に徹底的に空爆と砲撃を加え、できるだけ抵抗勢力を潰してから入るのが軍事的には定石です。

ロシア軍が市街戦を戦って制圧した都市として、チェチェン戦争(第一次:1994〜96年 第二次:1999〜2009年)におけるグロズヌイ(現在のチェチェン共和国首都)があります。下は1995年2月のAP通信の動画です。

グロズヌイは激しい空爆と市街戦の結果、数千人の非戦闘員が巻き添えになり殺された。グロズヌイは「地球上で最も破壊された街」と国連に呼ばれました。チェチェン戦争が終わったあと、シリア内戦でアサド政権に味方してアレッポを空爆したのも、実はロシア軍です。

現在のキエフで市街戦・掃討戦をやれば、悲惨な破壊と殺戮になり、ロシアの国際的信用は回復不可能になるくらいは、プーチン大統領も認識しているでしょう。そのリスクを敢えて犯す覚悟はあるのか?これはプーチンの胸中とクレムリンの内部政治力学からしか予測できません。

キエフに限らず、ゼレンスキーがウクライナ全土での徹底抗戦を叫び、ロシア軍との全面戦争が始まった場合、ウクライナ全土の破壊と殺戮は悲惨なことになります。ゼレンスキーに対して「お前が退陣さえすれば人命が助かるのだ」という非難が始まる可能性も消えません。無論、ロシア側はそういうプロパガンダをするでしょう。

こうした「抵抗すればするほど、非戦闘員が犠牲になり、国は破壊されるぞ」という恐怖を相手側に与え、屈服させる戦略は、チェチェン戦争でロシアが存分に展開しました。ウクライナ戦争でも、その手法を取る可能性が高いと私は考えます。

こうした惨劇を、日本のマスコミや対岸の火事を見物しているだけの野次馬は活劇映画のように喜ぶでしょうが、人命を救うという観点では最悪です。私はそんな現実は起きてほしくありません。

●プーチンは米欧に不信感
私見に過ぎませんが、プーチンもゼレンスキーも、何か口実を見つけて戦闘を停止したいという動機があります。それは双方の政権の「『メンツ』=『国家としての威信を守る大義名分』が見つかるかどうか」が大きいでしょう。それができるのは交戦当事国以外の国の外交努力であり、経済制裁や軍事力行使ではありません。「圧力に屈した」という事実を残すと指導者のメンツや国家の威信は崩壊します。

「振り上げた拳が降ろせなくなる」ことは現実の政治や戦争初期ではよくあります。自分から兵を引っ込めると、国内で叩かれる。自分の権力基盤が崩揺らぐ。

そんな時は第三者の国が仲介に入って「まあまあ、コレコレで大義名分は立ちますから、矛を納めてはどうですか」と介入・提案・交渉するのが外交の定石です。軍事介入ではもちろん、経済制裁でも停戦の仲裁にはなりません。「経済制裁は、国民を犠牲にしても世論を意に介しない非民主主義的な国には効果がない」は昨今の国際安全保障では定説になっています。

戦争という究極のクライシスで、交戦当時国の指導者が話を聞き、心を動かされるには、その提案国に長年の信用があること、提案者を信用していることが重要です。長年、プーチンは日本やアメリカに猜疑心を向けていますので、日米に仲裁は無理でしょう。

●中国の沈黙は何を意味するのか
ウクライナへの侵攻直前の2月4日、プーチン大統領は北京冬季五輪開会式に出席し、中国を訪問して習近平主席と会談、共同声明に署名しています。そこにはこんな文言がありました。

「中ロ両国はNATOの拡大継続に反対し、NATOが冷戦時代のイデオロギーを放棄し、他国の主権、安全保障、利益などを尊重し、他国の平和的な発展を客観的・公正に見るよう求める」

これは明らかにウクライナのNATO加盟問題を指しています。中国はロシアに賛成している数少ない大国です。

 中露の首脳二人が会って何を話したのか、私は強い興味を持ちます。

 侵攻が始まると、国連総会での非難決議への投票(3月2日)を、中国は棄権しています。つまり賛成とも反対とも態度を示さなかった。

実は中国は、ロシア・ウクライナ両国にとって最大の貿易相手国です。ウクライナは2017年に中国の「一帯一路」構想にも参加しています。つまり両国に経済的な発言力がある。

その中国が、ウクライナ戦争開始後は一切沈黙していることが私は気になります。もし紛争停止の仲裁に成功したら、中国の国際社会における地位は格段に上がります。中国の存在は記憶にとどめておいたほうがいいでしょう。

●ロシア軍の進軍が遅いのは意図的ではないか
私がずっと不思議に思っているのは、プーチン大統領が、国境を超えてウクライナに侵攻する前から、ロシア軍が国境に展開していることを国際世論に隠さなかったことです。

もしウクライナ全土を制圧して政府を転覆させるのが狙いなら、こうした準備は厳重な秘密にします。いきなり電撃(Bliztkrieg)的に進軍して一気に首都を陥落させてしまう。いわゆる「奇襲攻撃」が軍事のセオリーです。

すると、国境を超える前のロシア軍の展開は「言うことを聞かないと国境を越えて侵攻しちゃうぞ」というウクライナへの恫喝の「シグナリング」だった可能性が高い。

しかし、ウクライナはロシアの思う通りにはならなかった。ここでロシア側はクライシスレベルをひとつ上げて国境を越えた。

ロシア側が達成したい政治的ゴールは「ウクライナにロシア敵視政策をやめさせること」です。具体的には、ウクライナのNATO加盟は少なくとも放棄させたい。

もしかすると、最初からプーチンの戦略は

①国境に軍を展開、恫喝。
②ウクライナが妥協しなければ、国境を越え進軍。
③一気に首都キエフを制圧せず、じりじりと国土を蚕食
④少しずつゼレンスキーの譲歩を引き出す

という「平時よりややハードな軍事威嚇で政治的ゴールを達成する」つもりかもしれないと私は考えています。

もちろん、これはロシア側の「つもり」「計画」であって、現実に開戦してみたら、相手国の抵抗や他国の反応や対応がロシアの予想を超えることが多々あります。

なぜ私がそう考えるかというと、ロシア軍の進軍が遅いからです。

キエフまではベラルーシ(ロシアの友好国)国境から約80キロ、ロシア側国境からで200キロしかない。快調なら、侵攻から1〜2日で到達できる距離です。1週間経っても首都キエフを制圧していないのは、遅すぎます(ウクライナ軍の抵抗もあるとは思いますが、戦闘の報道がほとんどないので判断できません)。意図的に遅く進軍しているのではないか。

交渉の進展を見ながら、一歩一歩ジリジリと軍を進める。先にキエフ以外の主要都市を制圧しておいて、最後はキエフを包囲する。ゼレンスキー大統領への心理的圧力をかける。

2022年3月4日までに、ウクライナとロシアは2回もの停戦交渉を開いています 。下の動画は3月1日の一回目の交渉のときのロイター報道です。

もしロシアが問答無用でウクライナを軍事的に屈服させるつもりだと仮定すると、途中で停戦交渉をしたりしないはずです。しかもこんなに小刻みに話し合わない。

「進軍し、破壊し殺戮しながら話し合う」というのは、戦争のセオリーからすると、かなり例外的な進め方です。「外国との戦争」というよりは「内戦」に近いニュアンスを私は感じます。

戦争は国家が発動する「力」(軍事力)の形態にすぎません。その意味で戦争は「政治」の一ジャンルにすぎない。中でも国際政治における各国の政治的ゴールを一言でいうと「国益の最大化」です。

では、ウクライナ戦争でのロシアが最大化したい国益(ゴール)は何か。

今回プーチン大統領が明言しているのは「ウクライナの中立化と非軍事化」です(3月4日、マクロン・フランス大統領との会談での発言)。


中立化とは、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)への加盟をやめることです。NATOは冷戦時代に共産圏(東側)に対抗するためにできた軍事同盟です。冷戦は1990年代初頭に終わりましたが、プーチン大統領はNATOが今も自国に敵対的だと考えているわけです。

なぜロシアがウクライナのNATO加盟にかくも神経質になるのか、ビッグピクチャーでの説明は次回以降にしたいと思います。


(東京にて2022年3月4日記)


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