【創作大賞2024エッセイ部門】 心に種を蒔くということ。
山田洋次監督の映画『男はつらいよ』シリーズの第18作『寅次郎純情詩集』は、シリーズで唯一、ヒロイン役のマドンナが亡くなる作品です。
_人間は、なぜ死ぬんでしょうね
とは、マドンナ・柳生綾(京マチ子)の言葉。
『寅次郎純情詩集』のテーマは、『愛と死』です。
この作品には、
生きることの尊さと、人が人を想うことの尊さ
が描かれています。
冒頭を飾るのはデビット・リーン監督の大名作アラビアのロレンスを彷彿とさせる寅さんの夢です。
続く劇中、男はつらいよシリーズではお馴染みの旅芝居・坂東鶴八郎一座が、徳富蘆花の「不如帰」を演じます。
ご存じのように、「不如帰」は、日本のメロドラマの原点といえる物語。作中、悲運のヒロインである浪子は問いかけます。
_ああ、人間はなぜ死ぬのでしょう?
生きたいわ。千年も、万年も、生きたいわ。
『寅次郎純情詩集』は、これら二つの大名作に対する山田洋次監督の回答とも受けとれます。今風に言えば、Answering Movie。
この作品のマドンナ・綾も、不如帰のヒロイン・浪子と等しく、余命幾許もない悲運な運命にあります。そんな綾に、寅さんが出逢ったら、、、
ハイライトは、ラストの寅さんが再び旅に出る場面。
いつものように、柴又の駅まで見送りに来ている妹・さくらに、寅さんは言います。
「俺、あの時からずうーっと、考えていたんだよ。いい店あったぞ。花屋よ。良いだろう。え、あの奥さんが花ん中に座っていたら、似合うぞ!」
向かいのホームには、ねんねこ半纏に包まれ母親におぶられた、赤ん坊。
命の、終わりと始まり、が対照的に描かれています。
この作品で感じたこと、
それがわたしの本業である心理カウンセラーとしての仕事に活かされています。
人を想う、とはどういうことか。
人の心に寄り添う、とはどういうことか。
寅さんは、ずうーっと、考えていました。
マドンナ・綾にぴったりの仕事を。
でも、答えが出たとき、綾はもう、そこにはいませんでした。
それでも、ずうーっと、考えていた。
寅さんの心の中で答えが、芽生えるまで。
心理カウンセリングは、草花や木を育てることに似ています。
種を蒔き、花を咲かせ、実がなるまでには、時間が掛かります。
わたしは、日頃、相談を聴いた人の悩みに、どう答えたら良いのかを考えています。でも、草花や木と同じように、すぐに、言葉にならないことばかりです。
それでも、自分の心のなかに蒔いた相談者の悩みの種から、芽が出ることを待ちます。ずうーっと、待ちます。
大切に育てたその種がいつか芽を出すとき、咲く花が、実る果実が、まだ生きている相談者の心の滋養になることを信じて、ずうーっと。
寅さんと同じように、たとえ、答えが出たとき、相談者が目の前にいなくても、ひっそりと咲いた花や実った果実の香りが、風に運ばれ、相談者の元へと届くことを願って。
こんな風に、
相談者の悩みの種を無下にせず、不要なものとして片付けるのではなく、その種に含まれている相談者の可能性の芽を育てることが、心理学カウンセラーの営みのひとつ
であったりします。
あなたの命という名の時間を使って、
最後まで読んでいただいたことに、
心から感謝します。
どうか、
あなたのこころが、からだが、いのちが、
すこしでも、楽になりますように。
✎_心理カウンセラーU
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