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【読書】世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて

本を読む動機のひとつ「びっくりするような新しい視点にふれたい」というのがあるのですが、その要望に応えてくれたのがこの本です。


柄谷行人という人は、なんとなく「すごい人」だとは知っているのですが、あまり知識はないです。

この本を手に取ったのは、「柄谷行人」という名前と「世界共和国」というキーワードでこの2006年に何を書いているのかと気になったからです。

この本に書かれている「国家の誕生から資本主義の発生まで」は下記の通りです(私の理解では)。

1.共同体は基本的には「互酬」をベースにした社会。その社会の中では自給自足が成り立つことが前提。

2.共同体が他の共同体と接するときに、「戦争による一方的な略奪」か「一定のルールに基づく商品交換」が発生する。その「外との交渉」をするために「国家」の概念ができる。

3.この延長で、「国家」が拡大し、ひとつの「共同体」(多くの場合氏族を中心とした)が他の「共同体」を支配する構造ができあがっていき、その中で「略奪」が「再配分」という形で精錬・制度化され、古代国家、封建国家ができあがる。

4.灌漑を組織的に実施することで「共同社会」を成り立たせていた社会は、文明を築き、帝国として存在。その周辺に位置づけられる国は、帝国の拡張への対抗手段として「擬似帝国」として絶対主義国家を設立する。

5.イギリスでマニファクチャアがおき、労働力が商品化される。その時に「消費者」という人たちが登場。「消費者」は生産手段として「略奪」されるだけではなく、「商品を購入する」という行為を通じて「略奪する」という2つの側面を同時にもつ。消費者の出現は、今までの王族・貴族相手であった「奢侈品」が対象であった「資本」を増やせる範囲を、消費者が消費する生活必需品まで拡大することに成功。(商人資本から産業資本へ変化。

6.「商人資本」では、基本的に「略奪」によりその資本の拡大を図った。しかし、「産業資本」では、労働者は労働力でもある反面消費者でもあるので、「略奪」での拡大は難しく、「商品の技術革新」で拡大を図る。この考え方が「資本主義」。

7.資本主義の拡大により、「今までにないくらいのスピードでの技術革新」、「共同体からの人の引き離し」、「その範囲のグローバル化」が進んだ。

8.資本主義の構造的問題点は、本来商品化できない「労働力」と「自然」を商品化したこと。「労働力」を商品化したことは、技術革新での拡大を図らず労働者を純粋な「商品」としてあつかい景気循環がおきること、人が「共同体」から切り離され、その穴埋めを宗教やナショナリズムという形で取り替えそうとし、別の問題を発生させるるという2つの問題を起こしている。「自然」を商品化したことは、生態系にまで影響をあたる環境破壊という問題を起こしている。

つまり今まで社会の流れは、

1.互酬をベースにした共同体の成立
2.共同体間の接触による国家の誕生
3.資本主義の登場による、共同体、国家からの「人」の独立(自由の獲得)
4.資本主義の進展による構造的問題の露呈(共同体崩壊による人の心の問題、環境破壊)

であり、彼はこの流れを踏まえての資本主義がもっている構造的な問題を解決するためには、すべての主権国家が主権を放棄し、世界共和国になる必要があるとしている。(あくまでも私の理解では)

この本で書いてあることを私なりにまとめてたのが下記の図です。

図

※アソシエーショニズムとは、「商品交換の原理が存在するような都市空間で、国家や共同体の拘束を斥けるとともに、共同体にあった互酬性を高次元で取り替えそうとする運動(本文抜粋)」のこと。このひとつの実現手段として世界共和国を位置づけている。

つまりこの本では、

1.理想的な社会は「個人の自由」が保障されていて、かつ「互酬性」がある社会
2.資本主義は「個人の自由」を獲得したことには意味がある。
3.しかし、互酬性を失わせる構造的な問題がある。
4.その問題点が近年顕在化してきている。

と捕らえているのではないでしょうか。(ちょっと自信はありませんが…)

資本主義にはいろいろな問題があり、その解決策のキーワードが「互酬」だということを示し理論的に説明してあるところが、この本の面白いところだと思います。

この本を読んで「連想」したのは、下記のことです。

1.「世界共和国」って、ウェブ人間論で梅田さんがいっていた「スターウォーズ」のイメージに近いのでは。
2.一部では労働者はすでに「消費者」だけでなく、「資本家」にもなっている。
3.オープンソースの世界は「アソシエーショニズム」に近いのではないか。
4.インターネットのおかげで、ボランティア、オープンソースのような「互酬的」なことをしている人は大きな力を得ているのでは。
5.日本の若い世代でボランティアやNPOへの参加などの「互酬」の意識の高まりと感じられることがある。

 こう考えてみると、ポスト資本主義的な動きはすでに個人、組織などの様々なレベルで起こっているなと感じました。(ポスト資本主義についてはもう少しいろいろと考えてみたいと思います。)
 今の社会の動きを把握する、今後の自分のことを考えるために意味のある視点が手に入った本でした。(しかし、難しい本でもありました…)

(2007-08-05 の記事を編集して再記載)


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