見出し画像

旅館に舞い降りた八重垣姫の野望-旅館物語2

八重ちゃんと甲さん!当時居た女中さんの中ではっきり名前を覚えているのがこのお二方、今考えてみてもキャラが濃い人が集まっている「女中部屋」だったなぁ。

玄関は上がり框になって居て、そこから入って左に黒いピアノが置いてある部屋があって、その奥がすぐ一つ目の女中部屋で皆んなが火鉢を囲んで屯ろしている所だった。その奥に大きめの台所があり、簡単な夜食を出して居たような、あっ朝食はお部屋に御膳で出していた!大きなブリキの缶に入った大量の味付け海苔があったし!そうか、当時から朝食は充実していた旅館だったのか、、確か 味付け海苔、卵焼き、お味噌汁、焼き魚、お漬物だった気がする。

あっ、話は八重垣姫、八重垣姫、と。

八重ちゃんは女中部屋の中で派手で目立つ存在だった、細身で背も高くて髪は一際目立つ明るい色に染めていた。かと言って器量が良かったという印象はないのだけれど 高めのハスキーボイスでよく喋り 明らかに女中部屋の中心になっていたなぁ。派手だけれど下品とはまでは行ってなくて、けれど決して垢抜けてもいなかった。八重ちゃんに睨まれたら、きっと あの女中部屋で新人さんはやっていけなかっただろうな。女社会だし24時間近く一緒だし、そこは今より厳しいよね。

甲さんはというと、静かなんだけど存在感があって 貝の中に入ってた小さな蟹を貝殻の中にお酒に漬けて見せてくれたり、蟹のお腹の白い部分が柔らかそうでプニャプニャしてて、絵がものすごく上手くて、ちょいちょいと黒いペンで一筆書きみたいにいっぱい書いてくれた。なんか漫画家くらい上手かった記憶が、、、取っておけば良かった。太ってはいなかったけれど 前かがみになった丸い肩のラインといつも黒いニット帽を被っていたのを覚えている、八重ちゃんとは対照的にお化粧っ気がなかったっけ。おばあさんではないけど、おばさんの後半のようなイメージがあったけど、もしかしたら、今の私と同じくらいの歳だったのかもしれない。私は甲さんが大好きでくっついて歩いてたのだけど(きっと仕事の邪魔いっぱいしちゃってたんだろうな)、どこかミステリアスな部分もあった。母が私が大きくなってから、「甲さんは もしかしたら服役とか大変な苦労が過去にあった人かも知れないわよね、、わからないけど そんな気がする」と独り言のように呟いていた。もしも、そんな過去があったとしても、甲さんは私が喜ぶような玉手箱みたいな技をたくさん持っていた。あれ、もしかして陰で牛耳っていたのは甲さんだったのかな?

夜になると、台所を抜けた奥にあった部屋で布団を引きながら、八重ちゃんが「八重垣姫のショー(本人曰く)」を繰り広げていた。大体のお題が八重垣姫が若旦那さまに見初められてお妾さんになるストーリー。絶対 私がわかってないと思って繰り広げてたよねぇ。

甲さんが 舞台(こたつ)の上に立っている八重垣姫に華やかな衣装を着せた絵を描いていたのをはっきり覚えている。それを演じている時の八重ちゃんはとても嬉ししそうだった。そうしながら、6畳くらいの部屋に2ー3組の布団を敷いていた。

下世話な話を良しとしない母であったが、最近になって

「若いお運びさん、綺麗な人達をたくさん入れて、皆んなパパ狙ってたのよ。だから どんな時も私は手を抜くわけには行かなくて誰よりも華やかにしてないと。って気が張ってたのよ。」と言っていた。母がそんなことを言ったのは父が亡くなってから 5年経った最近である。なんだ、知らないと思ってたら、知ってて大変だったんだ。。

85歳の母は今も行き付けの美容院で綺麗に髪を結って着物を着ている。髪を結わない日は近くのローソンにも行かない。ふーん、その頑ななポリシーはそういう日々の積み重ねから習慣となったんだ。

画像1


一番上の写真は若旦那と若女将、結婚式をする費用がなくて写真館で記念撮影をしたとか。

下は現在の母 寛永寺 根本中堂にて

==============================

*コロナの影響で#ホテル悲鳴 で存続を賭けて全力で宣伝するつもりが、なぜ私は私小説を書き始めてしまったのだろう。。。あれ??

#上野ターミナルホテル #老舗旅館 #創業100年のお宿 #上野駅

#日本料理水車 #猫 #cakesコンテスト2020


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?