簿記を通じてビジネスの構造を理解する力を得る

本学は、授業開始がやや遅く10月1日から、です。

秋学期開始、間もなくです。

さて、秋学期では会計学総論という会計学の総論の授業を受け持ちます。

会計学の総論。

会計学に興味を持ってもらい、その後の学習にもつなげてもらおう、という意図があります。興味を持ってもらうにはいろいろなアプローチがあります。

ですが、ここで考えたいのは簿記の位置づけ、です。簿記をどのように会計の教育に位置付けていけばいいのでしょうか?

多くの会計学初学者は簿記を学び会計に入ります。それはなぜでしょうか?

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私なりにはこのように整理しています。簿記を理解することで会計の理解にも助けになります。

簿記あっての会計。会計あっての簿記、ですね。

簿記の仕組みを理解しておくことで、P/LからB/Sの流れをつかむことが出来ますし、損益の整理などを通じて発生主義会計の考え方を体感することが出います。

初学者が、簿記からやる、ということは意味があると思います。

一方で、基本的な簿記の仕組みはともかくとして、日商簿記検定に出題されるような複雑な問題を解けるようになったから、といって実際の現場で役立つでしょうか?こうした問題を解いていくのはどんな意味があるでしょうか?

日商簿記検定やその他の検定試験、資格試験で出題される簿記は、実務対応というよりは簿記の処理能力を問うているといってよいでしょう。

簿記の処理能力、つまり多くの情報を整理して、簿記の仕訳、記帳ができる能力といってよいでしょう。

実は現場ではパソコンに入力していくことになります。実際に紙では記帳することはもうないでしょう。

そうした観点から、実際のソフトウェアを利用した会計スキルを培うことを目的とした検定試験もあります。興味があればこうした資格に挑戦してみるのもよいと思います。

では、紙でやる簿記は意味がないのでしょうか?

こねくり回した、いじわる問題はさておき、多様な角度から問題を解いていく、ということには意味があると思います。

簿記の処理能力は、用語、仕組みを理解したうえで、適切に処理する能力、といえるでしょう。

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簿記の試験を受けるにあたっては、上記のようなサイクルで、各単元の用語、仕組みを理解し、問題を解き、見直していく、ということを繰り返していかなければなりません。コツコツと積み重ねていくのが大事ですね。

では、簿記はすぐに役立つのでしょうか?

おそらく、すぐには役立ちません。

簿記とプログラミングの違いは、プログラミングはやった結果が明確であるのに対して、簿記は不明確、身に着けたとしてもその成果が実感しにくいというところにあるでしょう。

プログラミングを覚えて、様々な処理方法を身に着けられれば、作業が楽になるはずです。その結果、仕事が早くなる!とうことが期待されます。

例えば、今、私が少しずつ学んでいる、エクセルのVBA

学び始めでも「こんなことが出来るようになりたい!」

と思える項目が多くあります。そうした意味で学習目標が明確です。

一方で、簿記はそうした効果はすぐに実感できません。

簿記の難しい問題が解けるようになったからといって、日常、仕事において、こんなことできるようになった!ということはまぁないのではないでしょうか?

にも拘わらず、なぜ簿記を学ぶ必要があるのでしょうか?

ひょっとしたら簿記は必要ない!とする考え方もあるのではないでしょうか?

そうした話をされる方も増えてきましたが、私はそうは思いません。

繰り返しですが、こねくり回した意味のない問題、はさておき、ビジネスの基本的な構造や仕組み、パターンというのが簿記の問題の中に込められています。

ビジネスの日常、とでもいいましょうか。

それを簿記の問題を通じて疑似体験をする、ということが大きな意義、でしょう。

たとえば、連結の会計処理が把握できるようになれば、会社に勤めてから、どのように子会社間の決算が統合され、どういったことが問題なのか、ということに気づくセンスを得ることが出来ます。

どんなに実務経験を積んだとしても簿記を学んでいないと連結の基本的な構造を、簿記を通じて理解しておかなければ、感覚的に問題点を掴むことは難しいでしょう。

繰延税金資産、退職給付会計、リース、収益認識などなど・・・。

会計×簿記、の複合の領域といってもよいかもしれませんが、セットで理解を深めていけば将来誰にも奪えないものを体得できていくでしょう。

簿記は、ビジネス取引を帳簿の中に落とし込んでいくための技術、です。その技術を学ぶことを通じて得られるものは、ビジネスの仕組み、構造に気づく力なのではないでしょうか。

ですから、注意してください。資格を取るは手段です。そこに捉われるあまり、ビジネス取引の本質や構造をイメージしないで学習し続けると資格を取っただけ、になってしまいます。

それをイメージできるようになるためには会計学の理論的な本やビジネス取引に関する本、経営学なども合わせて学習しておくとよいですね。

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