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パリから中国に出張して、ハイテクのスキマの落とし穴にハマった話

私はフランスの現地法人でサラリーマンデザイナーをしているのですが、仕事の関係で、昨年は中国へ2回ほど出張で行きました。コロナがなければ、今年もあと何度か、中国の地方都市にも行く予定でした。
 
実は最初に中国出張に出かける前に、私はとても強い不安を感じていました。中国へは観光なら、もう何度も行ってるし、夫も上海に住んでいたことがあるので、まったく知らない国ではありません。学生時代はアジア旅行もたくさんしましたし、今も欧州圏の旅行なら特に不安もなく気軽に行けます。ですが、このときの中国出張は何かが違いました。
日本から初めて欧州の英語圏じゃない国に行った時も不安だったのですが、それに近いものがありました。中国では英語併記はなさそうだし、Googleも使えないし。どうやら、すっかりフランスでの生活に慣れてしまったようです。
 
フランス人の同僚達は、私がアジア人だから中国語を多少喋れると勘違いしているのも困ります。
確かに、ヨーロッパの人達は、近隣諸国の言語を第二外国語として、義務教育期間中に身に着けているんですよね。私の周りでは、ドイツ語とスペイン語が2大多い言語で、イタリア語、古典ラテン語がチラホラ、といった感じでしょうか。文法や単語も似ているので、ある程度、推測できるらしいです。ヨーロッパ人と比べたら、私は漢字は読めますけど、フランス人が他の欧州の言語を理解するよりも、はるかに理解度は低いと思います。
 
さて、いよいよ中国出張。フランス人の同僚達からは中国語がわかっていると思われるだけでなく、初対面の中国人の仕事相手には、中国語で話しかけられます。ひとこと話せば、日本人だと即座に理解してくれるのですが、たぶんフランスに長く住んで欧風になった中国人にみえているのでしょうね。こんなに周囲から中国語を喋ることを期待されている状態で、喋れないってツライ…。申し訳ない気持ちにすらなってきます。あぁ、ここで中国語のひとつでも喋れたらカッコイイのになぁ。
 
中国出張の目的地は上海でした。フライトは、日本に帰るのと同じぐらい時間がかかるのに、着く先は日本じゃないのが残念。
エアーフランスのエコノミーの預け荷物の数、パリ発上海行きは2個なのに、上海発パリ行きは1個なんです。不思議に思っていたけど、上海行きの飛行機に乗って納得。パリで爆買いする中国人をターゲットにしているんですね。そういえば、出張で上海から来ていた同僚達も、上司、友人、遠縁の親戚の分まで、たっくさんお土産を買っていました。
航空会社の預け荷物の個数まで変えるほどの購買力!おかげで私はスーツケースめいっぱいに試作品を持っていくことができました。

飛行機から降りた途端に押し寄せるアジアな空気。一番心配していた携帯電話のSIMカードは、手荷物検査場を通る前に、グレートファイヤーウォールを乗り越えられるVPN付きで売っていました。私の前にいた、フランス人のビジネスマンっぽい人が、中国語で値切った様子だったので、フランス語で「値切れるの?」と話しかけてみました。「この国には、定価はないんだ」とのこと。私もマネして、空港内で市場のようなやり取りをし、無事にお安くSIMをゲットできました。
 
その後は、タクシーでスイスイ無事にホテルに着き、仕事では英語が通じて滞りなく。以前、日本で勤めていた会社の人達が、ちょうど上海に来ていたので、落ち合って楽しく食事しました。夫の友人にも会ったり、全然問題ない!と上海を大満喫。

調子にのって、大好きな鼎泰豊にも、ひとりで小籠包を食べに行きました。鼎泰豊は、台湾に本店がある、世界で約160店舗ほどチェーン展開している小籠包屋さんで、日本にも20店舗ほどあります。まだパリには店舗がなく、数年前にフランス人が営業権を買ったという噂がありましたが、いまだに実現せず。アジア通のフランス人の間でも有名なお店です。うちから一番近くのお店はロンドン。ちょっと遠いですねぇ。大好きすぎて、旅先でも、鼎泰豊があると行かずにいられないのです。
鼎泰豊が好きだというと、中国人の同僚達からは観光客だと馬鹿にされます。「鼎泰豊は台湾だもんねー」とウッカリ口にしてしまったときは、場が凍てつきました。真顔で「台湾も中国だよ」と諭されました。
 
悲劇はひとり鼎泰豊の帰り道。巨大なショッピングモールで、たらふく小籠包を食べたあとのことです。そろそろホテルに戻ろうかと、大通りでタクシーを拾おうしました。全然止まってくれません。空車のタクシーはたくさん走っているのですが、こちらには目もくれず通り過ぎていきます。仕方がないので、ホテルを探しました。ホテルの前にはタクシーがいるものなので、これまでも、ホテルの前からタクシーに乗っていたのです。来るときのタクシーも、ホテルで呼んでもらったものでした。でも、徒歩圏内にはホテルはありません。
もう時間もだいぶ遅かったので、同僚に助けを求めるのもはばかられます。周りを歩いている人に声をかけても、立ち止まって聞いてくれようとする優しさはあれど、英語は喋れないので困り顔。いつもはGoogle Translateを使っているのですが、なぜかこの時はVPNが機能せず。
小籠包天国から一転、ホテルに帰れず途方に暮れました。私が出発前に感じていた嫌な予感は、これであったか…。
 
タクシーが止まってくれなかった理由は、中国のハイテク化にあります。今の中国は、支払い、レストランの予約、タクシーを呼んだりはスマホのアプリWeChatで行われます。そう、流しのタクシーがいないのです。
そのアプリには個人情報、中国の銀行口座を登録しないと使えません。タクシーの運転手さんにしてみたら、アプリで素性がハッキリしている人を乗せたいのでしょう。
同僚たちとの会食の支払いでも、海外のクレジットカードは全く使えず。同僚に現金を借りるという大失態を犯しました。
鼎泰豊には、その現金を持って行ったんですけどね。バチがあたりました。以前までは、中国に来るときは、ちゃんと現金を持ってきていましたが、このときは、中国のハイテク化がすごいという話を聞いて、現金無一文でした。

中国出張の少し前に、スペイン1泊2日の出張に、財布を持たず、スマホとパスポートに挟んであった50€だけで行ったことがありました。車に財布を置き忘れてしまったのです。いざ空港に向かうときになって、車にあることを思い出したのですが、時既に遅し、夫が車で出勤。夫の職場は遠く、戻ってきてもらうには到底間に合いません。財布を諦めて、空港に向かったのでした。それでも、行き帰りのタクシーはUber、支払いはApple payと、特に問題なく、行って帰ってこれたのです。パスポートの50€も使わずに。
 
この経験から、ハイテク中国もなんとかなるだろうと、甘く見ていました。
閉店作業が始まり、徐々に照明が落ちていく巨大ショッピングモール。人もまばらで閑散としはじめた店内を、半泣きになりながらとぼとぼ歩いていると、親切な人が受付まで連れて行ってくれました。まるで迷子の子どものように。
受付嬢だったら語学堪能かしら?と期待したのも束の間、ダメでした…。でも、さすがに彼女たちは慣れているようで、サッとスマホの翻訳アプリ起動して、私に渡してくれました。それは、中国の翻訳アプリBaidu Translate。これがなかなか精度が高いのです。帰ってから、ポケトーク、Google Translateそして、このBaidu Translateの3つを同時に使って比較したのですが、文章によっては、Baidu Translateが一番自然だったことも。中国アプリを見直しました。今でも、時々使っています。

Baidu Translateで「タクシーを探している」と伝えると「WeChatで呼んだら?」とスマホの画面に日本語翻訳されたものを、みせられました。「外人だからWeChatが使えない」というと、お姉さんは少し考えてから、どこに行きたいのか聞いてきました。ホテル名を告げると、なんと、自分のスマホでタクシーを呼んでくれたのです。あぁ、ありがたい!感謝!謝々!
こうして私は無事にホテルに到着したのですが、支払いをしようと思ったら、運転手さんは「もう支払いは済んでいる」というのです。どうやら、支払いは呼んだ人のスマホに課金されるようでした。あのとき助けてくれたお姉さんに、充分にお礼をいえなかったことが、ずっと気がかりです。

中国はハイテク化がすすみ、キャッシュレスが基本だけれど、外国から来た人へのサービスが追いついていません。特に上海は国際的な都市になったイメージが強いので油断していました。このようにして、私は中国ハイテクのスキマの落とし穴にスポッとはまってしまったのでした。
みなさんもお気をつけください、という気持ちでこの記事を書き始めましたが、なんと今調べたら、既に昨年末から外国人にもWeChatの門戸が開かれたようです!
中国で感動したものについても書きたいなぁ、と思いつつ、発展スピードがとても速い中国、半年前はもう大昔なので、今回は私個人の失敗談でした。

中国に行かれる際は、WeChatBaidu Translateは必須ですよ!

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