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わからないことを伝える大切さ

フランス人はお喋りが大好き。ランチタイムはみんなでワイワイ雑談に花が咲きます。いろんな冗談も飛び出し、語学学習では出てこないような単語も。ある日、同僚のひとりがとあるフレーズを口にしたら、周囲がドッと爆笑。わからないなりにも、雰囲気を壊してはいけないと、つられて愛想笑いをしていました。それを見逃さなかったのは、職場のみんなの肝っ玉母さん的な存在の人。

「今なにが面白かったのか、説明してみなさい!」

それまで和気あいあいとお喋りしていた同僚達は、水を打ったように静まり返り、一斉に私の方をみます。一気に注目を浴びてしまったこと、本当はわかっていないのに、周囲に合わせてウンウンうなづいていたことを見抜かれていた恥ずかしさに、泣きそうになりました。モゴモゴ言いあぐねていると、彼女は「わからなかったら、聞いていいのよ? 日本人は場の空気を重んじるから難しいかもしれないけど、わからないままにしていたら、ずっとそのままよ?」と。

もしかしたら彼女は、前から私の知ったかぶった愛想笑いが気なっていて、機会を伺っていたのかもしれません。この話を日本人の友達にすると「フランス人は意地悪だから」という人も。私はこの荒療治から、フランス人らしい優しさを感じました。
それ以降、勇気を出して「Je ne comprends pas bien(よくわかりません)」といえるように。フランス人同士の会話でも、お互い聞き取れなかったり、理解できなかったときは、このフレーズを多用しています。それに気づいてからは、日本人で発音が悪いから聞き返されたんだ…、とネガティブに思わなくなりました。

また、「Comment on dit en anglais ?(英語ではなんと言いますか?)」という質問で、英語への言い換えを聞くようにも。これらのフレーズは、「語学学校で教えない近道フランス語学習法」でも書きましたが、語学学校の初期に習ったものでした。それ以降、フランス人達の会話の合間をぬって、質問できるようになりました。同僚達は冒頭の場面に居合わせていた人も多く、状況を理解してくれていたということも大きいのですが。
この繰り返しのお陰で、ちょっと難しいひねった言い回しの語彙が増えました。そして、後日タイミングを見計らって使ってみるとウケるのです! この快感! 聞いてよかった、と思えるようになりました。

仕事においても「わかりません」

それから気をつけていると、フランス人の同僚達は仕事をしていて、「Je ne sais pas(知りません)」という言葉を連発してることに気づきました。「J'en sais rien !(んなこと、まったく知らん!)」という強い言い回しも。日本では、仕事をしていて業務上「わからない」と答えることは、責任放棄に思われてしまうけど、フランスでは、問い合わせた返事の第一声が「わからない」ということも少なくありません。

フランスでの生活に慣れ、日本に帰ったときに、東急ハンズに行きました。そこでの一番の驚きは、どの店員さんに聞いても、自分の持ち場以外の商品の位置も正確に把握していることです。例えば、8階の文房具売場で働いている店員さんに「お風呂用の目地材はどこですか?」と聞いても「6階のDIYコーナ入って右側の柱の裏の棚にあります」というように。すごいプロ意識。東急ハンズの社員教育のレベルの高さなのか、個々人の意識の高さなのか。両方かもしれませんが、働いている人達の日々の学習と努力を感じました。

パリ在住の日本人の間で「パリの東急ハンズ」といわれているBHVという店がありますが、そこではこのようなことは全く期待できません。商品の場所について店員さんに聞いても「知りません」を連発され、広い店内をたらい回しに。最終的には聞くことも諦め、商品が見つかる頃には青息吐息。売り場を担当している人自身は、ちゃんと専門知識を持ってはいるのですが、そこに行き着くまでが大変なのです。いわゆる横のつながりがない状態。

一方で「わからない」ということで、自分の守備範囲を明確にしているという意味もあるような気がします。日本で働いていた頃は、自分の担当範囲を超えて仕事することをよしとされていました。その分、ダブリ仕事も発生しがちではあるんですけど、ヌケモレは防げます。フランスでは、自分の専門外だと思う部分には手を出しません。
日本にいた頃の上司は私の仕事を全部把握していましたが、今のフランス人の上司は、私が不在時の問い合わせには「知りません」と答えていることでしょう。

かくして、「わからない」「知らない」と連発する人達が多い環境で、私はフランス語の単語をわからないと主張するだけでなく、仕事の範囲も日本にいた頃よりも狭くしてしまっているような気がします。フランス人は「わからない」という返事で済ませて、労働時間を短くできているんじゃないかしらと疑う今日このごろ。

「わからない」を伝える、ひとことフランス語帳

Je ne comprends pas bien.(よくわかりません)
Je ne sais pas.(知りません)
J'en sais rien !(んなこと、まったく知らん!)
Comment on dit en anglais ?(英語ではなんと言いますか?)
Est-ce que je peux vous demander quelque chose ? (ちょっと、お尋ねしてもよろしいでしょうか?)

発音がわからない場合は、Google翻訳に文章を入力しスピーカーマークをクリックすると、簡易的ではありますが確認することができます。

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フランス語学習法に関する記事は、こちらにまとめてありますので、もしよろしければ。


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