「上町台地」名所図会 第6回
※名所図会(ずえ)とは名所の来歴などを絵も交え紹介したもの。
写真/中原文雄
文/松本正行
一心寺(大阪市天王寺区)
伝統と革新。そして、それらの調和――。一心寺は、実に不思議な空間です。
戦災で堂塔のほとんどを失った一心寺は、時間をかけて伽藍を再建しました。伽藍の中心をなす大本堂、その横に建つ日想殿。念仏堂やお骨佛堂など平成にできた建物もありますが、これらは寺院建築の様式にほぼのっとっています。しかし、仁王門(=山門)はまるで異なります。奇抜といえばいいのか……少なくともお寺の門らしくありません。
平成9(1997)年完成の鉄の骨格とガラス屋根で覆われた巨大な黒い物体。とはいえ、境内にある木造建築との間に違和感はない。仁王門は建築家でもある一心寺の住職が設計しました。極楽浄土のターラ樹の並木をイメージしたとのことですが、寺院建築と現代建築の両方を知り尽くしているがゆえにできる芸当なのでしょう。門の両脇には巨大な仁王像が立ち、参詣者を加護しています。
一心寺の創建は、浄土宗の祖・法然上人が四天王寺の僧侶に招かれ、この地に草庵を結んだことに由来します(1185年。お寺の成立は1240年ごろ)。そして、西方に沈みゆく太陽に向かって念仏を唱え、極楽往生を願う「日想観」を、法然はここで行いました。ガラスの屋根の仁王門も、日想観に基づいて設計されているのです。沈む夕陽を浴びて光り輝くガラスの門。それはとても幻想的であり、夕陽を眺め極楽を願う心は法然の時代にも通じます。
中原文雄
1948年生まれ。建築工房日想舎 主宰。NPO法人まち・すまいづくり会員。
松本正行
1965年生まれ。ライター・編集者。NPO法人まち・すまいづくり会員。
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