らくごハローワーク 第11職

落語にはさまざまな職業が登場します。演芸評論家の相羽さんならではの切り口で落語国の仕事をみてみると……。

関取は大きく見えるが『半分垢(あか)』

 プロスポーツの中で、独自の“社会”を形成している大相撲(日本相撲協会)。そこに所属する競技者を相撲取(とり)又は力士と呼ぶ。中でも、十両以上の力士は関取(せきとり)と言う。本来は最高位であった大関を指す敬語だった。
 歴史書『古事記』には、建御雷(たけみかづち)神と建御名方(たけみなかた)神が、力競べをして国譲りをしたと書かれている。
 その後、『日本書紀』の第11代垂仁天皇紀に、出雲の野見宿禰(のみのすくね)と奈良県葛城市の当麻寺あたり出身の当麻蹴速(たいまのけはや)が力競べをして野見が勝ったと記されている。これが相撲の始まりとされる。
 奈良期の第45代聖武天皇が全国から相撲人(びと)を集め、宮中で「節会(せちえ)相撲」を催した。室町期に入り職業力士が誕生し、江戸期に隆盛を見せた。
 当初は名誉の地位だった横綱の初代は明石志賀之助。さらに、谷風梶之助や小野川喜三郎ら名横綱が誕生した。1909年に国技館が建造され、国技として現在に至っている。
 落語の世界にも『相撲場風景』『佐野山』『花筏(いかだ)』など、相撲がテーマの噺は多いが、その中から、少し珍しい『半分垢』をご紹介しよう。
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旅興行から久しぶりに自宅に帰ってきて休息している関取の所に、贔屓(ひいき)客が訪れる。関取の妻は、ここぞとばかり、夫を大きく見せるために法螺(ほら)を吹く。それを聞いた関取は、妻に「もっと謙虚になるように」と諭す。次に訪れた客が「関取は大きな体ですな」と誉めると妻「いいえ、大きいようでも半分は垢です」。
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 水死体のことを“土左衛門(どざえもん)”と呼ぶのは、江戸期の力士、成瀬川土左衛門の顔が水死体にそっくりだったことから付いた、ありがたくないニックネームだ。いや似付(につ)くネームである。


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