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なぜ十代の頃はあんなに徹夜していたのか?

初出:『真顔日記』2019年

なんだかんだで徹夜をしなくなった。年をとると徹夜がキツくなるなんて話を、むかしは他人事のように聞いていた。十代後半から二十代にかけて。しかし三十歳をすぎた今、たしかに徹夜はつらい。意味もなく夜更かしなどしたくない。夜は寝るための時間だ。

そもそも最近は徹夜などする意味もない。徹夜する場合、それは単純にスケジューリングの失敗を意味する。当時はなぜ、あんなに意味もなく徹夜していたのか。大学のテストがあるから徹夜、友達とカラオケに行けば徹夜、酒を飲むときもだれかの家で徹夜。眠くなったやつから脱落して雑魚寝。

マンガ喫茶のナイトパックで朝までマンガを読むという行為もひんぱんにしていた。あれはなんだったんだ。なぜあんなことが可能だったのかわからない。最後はいつもボロボロになっていた。そう、ボロボロになってはいたのだ。十代だろうが、徹夜でマンガを読めばボロボロになる。ピンピンしているわけではない。夜どおしマンガ喫茶の狭いブースでマンガを読み、朝の七時頃に店を出ると、朝日の強さで目が潰れそうになる。身体はこちこちになっている。その記憶はある。

カラオケで徹夜というのも、いまいち意味がわからない。昼から歌えばよくないか? 昼はそれぞれ学校やバイトで忙しかったのか? それとも単純にうれしかったのか? 自分の判断で朝まで起きていられることが? ああ?

過去の自分にメンチを切っていても仕方ないが、徹夜に対するモチベーションは本当に分からなくなっている。絶対に徹夜などしたくない。何度でも言いたい。夜は寝るための時間だ。

高校生のとき、ドラクエ5をブッ通しの徹夜でクリアした。ぼんやりとエンディングを眺めていると、旅立ちの村の神父に、「あなたが旅立ったのが、まるで昨日のことのように思えます」と言われた。

旅立ったの、マジで昨日なんだけど。

コントローラー片手に、しょぼしょぼした目で思っていた。「昨日のことのように」とかじゃなく、ガチの昨日。私は昨日旅立ち、今日魔王を倒した。このスピード感、もっとほめてほしい。クリーニング屋に出したシャツが戻ってくるほどの時間で世界を救う男が他にいるか。

まあ、神父に言っても仕方ないことではあったが。あの人、完全にドット絵だったし。

めしを食うか本を買います