[読書] 世界史劇場 イスラーム三國志

どんな本か?
予備校で人気の講師による非常に分かりやすい歴史解説書シリーズ。イスラーム世界における全盛期のオスマン帝国とサファビー朝やムガール帝国との3強時代についての本。イスラームシリーズは3部作で

* 世界史劇場 イスラーム世界の起源
* 世界史劇場 イスラーム三國志 (本作)
* 世界史劇場 侵蝕されるイスラーム世界


がある。本作はイスラームが世界史の中で(今のところ)もっとも力強かった時代を紹介している。

世界史劇場シリーズは章ごとに図(主に地図など)が描いているパネル図と解説文で構成されているので、中東のどの辺の話なのか位置関係がわかりやすい。また、馴染みのある三國志や関ケ原の戦いなどで出来事や登場人物を例えているのも分かりやすい。さすが予備校の講師といったところだろうか。世界史に詳しい人には物足りないかもしれないが、それほど詳しくない僕のような人間には丁度いい内容だ。コラムなどで著者の歴史観が人によってはカンに触るかもしれないが僕にとっては許容範囲でした。

オスマン帝国
中央アジアの遊牧民族がモンゴル帝国の圧力を受け、西アジアへ逃げてきて徐々に力をつける。チムールに敗れ一度は滅びるも復活。バルカン半島を支配し、東ローマ帝国を滅ぼし、エジプトからアラビア半島、黒海周辺と、まさに世界帝国を実現する。オスマン家は能力があれば血筋にこだわらず登用する柔軟さがあった。また、同時期のキリスト教世界と異なり、帝国内の人民に宗教の自由を与えた(税金は取られる)。
大砲を軸とした火力と軍の集団運用のうまさから向かうところ敵なしで領土を広げ続けた。
オスマン家の皇帝の母親はキリスト教圏の女性が多く、どんどん白人化してゆく皇帝に対しなんとも思ってなかったのか?が、長年の疑問だったのだけど、オスマン帝国そのものが血筋を気にしない集団だということが、本書におけるオスマン帝国の成り立ちや制度から分かった。

サファビー朝
学生の頃、習ったはずだが何も覚えてなかった。現在のイランあたりに巨大な帝国を作った。西にオスマン、東と北から次々と現れる騎馬民族を相手に巧みに生き抜く。
オスマンの火力の前にボロ負けしたら、すぐにそれを取り入れ騎馬民族の戦いに圧勝したり、圧倒的な規模のスレイマン大帝率いるオスマンの侵攻には焦土作戦で対抗、、逃げて逃げて逃げまくりオスマンの補給が追い付かなくなったところで政治的決着をつける。かなりの領土を譲渡したが、後の世代でオスマンが弱ったところで取り戻した。

ムガール帝国
世界史の中でだれが戦いに強かったか?という歴史IFには必ず名前のあがるチムール。そんなチムールが作り上げたチムール帝国は彼の死後は立ち行かなくなり滅亡してしまう。末期に乱立したチムール皇帝の一人が、帝国滅亡後にインドへ進出して建国した国がムガール帝国だ。西アジアで猛威を振るった大砲を中心とした火力を誇る軍隊の前には軍象中心のインドのロディー朝やメーワール王国は歯が立たなかった。
ちなみにムガールという呼び方はあくまで他称、、当人たちはチムール帝国そのものという意識だったとのこと。ムガール帝国は2代目のときに一度滅ぶがすぐに復活した。

本を読んで感じたこと
よく言われていることだけど、オスマン帝国は西ヨーロッパから見たときに歴史的な影響度が高い。

* ビザンツ帝国(東ローマ帝国) の滅亡により、ローマ時代の文化が西ヨーロッパ諸国へ流入→ルネッサンス
* 地中海を抑えられたので、希望岬回りのインド交易ルート発見、新大陸発見

などなど、、
どうしても西ヨーロッパ諸国からの視点で見がちになり西ヨーロッパ諸国vs残忍なオスマン帝国のような見方に偏ってしまうが、今回イスラーム世界を中心に読むことで別の角度で理解できることも多かった。
特に、これまで猛威をふるっていた騎馬民族に火力で対抗したのが今回のイスラーム帝国たちという認識を得た。
また、異なる民族、宗教のなかで優秀な人材を登用し続けたことも素晴らしい。

オスマン帝国を舞台にした歴史小説
ちなみに、これまで読んできたオスマン帝国スレイマン1世の時代を舞台にした歴史小説には面白いものが多かった。読み返してみようかと思いました。

「緋色のヴェネツィア/塩野七生」、ヴェネツィア元首の庶子アルヴィーゼはオスマン帝国の宮廷に食い込み、オスマン帝国の一員としてヨーロッパ諸国へ挑戦をする、、。庶子というだけで生まれながらヴェネチィアで出世することができなかったがオスマンではチャンスがあった。アルヴィーゼは実在の人物で、他にもさまざまなスレイマン1世の時代の小説・ドラマなどに登場する

「シナン/夢枕獏」イェニチェリ出身でオスマン帝国最高の建築家になったスェナン(シナン)の物語。


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