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庵野秀明 「シン・エヴァンゲリオン」、「ラブ&ポップ」「彼氏彼女の事情」

2021年 庵野秀明(総)監督のエヴァンゲリオン劇場最新作であり最終作になる「シン・エヴァンゲリオン」が公開された。
そして公開から少し後にNHKの人気ドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀 」の「庵野秀明スペシャル」が放送された。
「プロフェッショナルの流儀」に個人的に気になる点が3点あった。カメラアングルのこだわり、大人になれない男であり少女的な要素があると評されていること、そして、1995年のエヴァンゲリオンTVシリーズのあと(心が)壊れたということだ。

庵野秀明監督の作品はどれも素晴らしいが、個人的に特に重要だと思ってる作品が2つある。
旧エヴァンゲリオン(TVシリーズ(1995年-1996年)、旧劇場版(1997年))の後の、実写映画「ラブ&ポップ(1998年)」、TVアニメシリーズ「彼氏彼女の事情(1998年-1999年)」だ。

社会現象にまでなるほど人気を博したTVシリーズ「エヴァンゲリオン」だったが、庵野監督は心を壊してしまう。いろいろな原因はあるだろうけど、当時、流行っていたパソコン通信に書き込まれていた「庵野秀明をどうやって殺すかを話し合うスレッド」を読んでショックを受けたそうだ。2度ほど自殺寸前まで追い込まれたが「死ぬのはいいけどその前に痛いのは嫌」と思いとどまった。
庵野監督はこの時だけではなく何度か壊れてしまったことがある。TVシリーズ「エヴァンゲリオン」の前の「ふしぎの海のナディア」の途中と終了後、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の3作目 「Q」の完成後も壊れた。しかしTVシリーズ「エヴァンゲリオン」の時のショックは自身の作風を大きく変えてしまうほどの影響があったように思える。

そんな時に作られたのが実写映画「ラブ&ポップ(1998年)」、TVアニメシリーズ「彼氏彼女の事情(1998年-1999年)」だ。この2作品は原作がある作品で物語自体は原作を忠実に再現している。しかし演出によって庵野作品としか思えない出来になっているのが特徴だ。
「ラブ&ポップ」はカメラアングルを、「彼氏彼女の事情」では少女漫画ならではの心情表現の表現方法を追求したように思える。

「ラブ&ポップ」は村上龍の小説が原作だ。女子高生の援助交際をテーマにしている。庵野監督は小型ビデオカメラを駆使してさまざまなカメラアングルに挑んだ。アニメでは難しい表現だ。
例えば朝食で電子レンジで食事を温めるシーン。電子レンジの中にカメラを置き、扉を開く主人公を撮影した。また、2人の役者が対面で演技するシーンでは、役者自身にカメラを持たせ、もう一人の演技を撮影した。この映画では浅野忠信さんの演技が素晴らしかったのだけど、特に重要な長いセリフのシーンは主人公の女性俳優がカメラを持ち撮影した。
「プロフェッショナルの流儀」では、「シン・エヴァンゲリオン」において、実際の役者に演技させ、ビデオカメラで撮影し、それを3Dのモデルに展開して絵コンテの代わりにする手法が紹介されていた。絵コンテの代わりに動画を使うこと自体は昔からある手法だが、何度も何度も撮影し徹底的にカメラアングルを追求する姿には驚いた。このこだわりは「ラブ&ポップ」から続いているものだと感じた。

「彼氏彼女の事情」の原作の漫画は言ってみれば普通の少女漫画だ。少女漫画らしく主に独白による心情表現の積み重ねになる。
原作のストーリーとセリフを忠実に再現している。それにも関わらず、実写の電柱、電線、信号機、夕日、などの庵野監督の特徴的なオブジェクトを取り入れ、ピアノベースのBGMを使っているためか、「エヴァンゲリオン」のドラマパートを見たような感覚になる。
思えばTVシリーズ・旧劇場版の「エヴァンゲリオン」の心情表現はストレートでむき出しだった。登場人物の人間性が掘り下げられた言葉というより、庵野監督の中にある感情の一部をそれぞれのキャラクターが代弁しているかのようだった。そういったホンモノの感情だったからこそ共感を呼んだと思う。
しかし「シン・エヴァンゲリオン」の心情表現はより深みを増して一段上のものだった。庵野監督の生の感情というより、それぞれの登場人物に人格と人生と想いが込められていた。「彼氏彼女の事情」で培った人物の表現方法が活かされているのかもしれない。
割と庵野監督・エヴァンゲリオンファンから軽視されがちな「彼氏彼女の事情」だけど、「シン・エヴァンゲリオン」の劇中曲に何曲も「彼氏彼女の事情」の曲が使われていることから分かるように庵野監督にとっても重要な作品だと思う。
「プロフェッショナルの流儀」でスタジオジブリの鈴木敏夫さんは「(庵野監督は)大人になれない少年」と表現し、声優の一人は「少女もいる。少女少年」と表現した。そんな庵野監督だからこそ、「エヴァンゲリオン」後のTVアニメシリーズの原作に少女漫画を選んだのかもしれない。

2000年には伝説的な女性漫画家の萩尾望都さん(ポーの一族、トーマの心臓)と対談している。

また、庵野監督の奥さんは女性漫画家の安野モヨコさんだ。

庵野監督との結婚生活を描いた漫画「監督不行届」はとても面白い。

また2人の対談が「安野モヨコ対談集 ロンパースルーム」に収められている。

対談前の事前アンケートで「2人が似ている部分は?」という問いに、2人とも「孤独だと思っているところ」と答えているところが興味深い。


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