DM


 少し前にTwitterで、フォロワーの一人からダイレクトメッセージが来たんです。
「小説全部読みました。あなたの書く文章が好きです」
「ありがとうございます、光栄です」
 そんな会話から始まり、取り留めもないやりとりを続けていくうちに親しくなり、彼女の素性を尋ねたところによると、都内に住む女子高生だということがわかりました。
 彼女のツイートは、精神的に不安定なツイートが多く「また薬たくさん飲んだ」とか、そんな投稿が連日に渡って続いておりました。そして、そういったツイートに必ずと言って良いほど登場するのが、彼女の兄でした。

 どうやら彼女は兄妹仲が良くないらしく、大抵深夜に、兄に対する愚痴を起点とし、リストカットやオーバードーズを行ったという旨のツイートが投稿されていました。
 そんな中でも、私は不安や嫌悪といった感情を抱くことはありませんでした。何故なら私とやりとりをしている時の彼女は、どこにでもいるごく普通の女子高生といったような印象でしたから。
 ところがある日、彼女からのダイレクトメッセージがピタリと止んだのです。
 ほとんど毎日のようにやりとりをしておりましたから、私は一抹の不安を覚えながら数日を過ごしました。そして返信が止まってから四日後、ようやく返事が来ました。しかしそれは、彼女の母親を名乗る人物からのものでした。

 その内容は、彼女が自殺したことを告げるものでした。
 そのまま無視することも出来ましたが、親しくしていた相手でしたし、私は躊躇いながらも、
「お悔やみ申し上げます。投稿内容を見られたらお察し頂けると思うのですが、●●さんはご兄弟のことで悩みを抱えてたみたいですよ」と、そう返信をしました。
 しかし、しばらく経って返ってきた文章は、私の予想に反する一文でした。
「うちの娘は一人っ子ですけど」

 えもいわれぬ感情が私を襲い、数々の恐ろしい考えが瞬時に脳裏を駆け巡りました。
 仮にこの母親を名乗る人物が書いた一文が真実であるならば、今まで彼女が投稿していた「兄」とは何者なのか、そもそも実在する人間なのだろうか。更に言えば、今私がやりとりをしている母親と名乗る人物が本当に母親かどうかも怪しく思えてくるのです。仮にこのメッセージの送信者が、自らを母親と偽っている彼女の兄だとすれば、彼女の死因が自殺かどうかも定かではなくなってきます。
 そういった恐ろしい憶測に突き動かされるように、私は彼女のアカウントをブロックしました。なので真相の程はわかりませんが、今になって思い返すと、彼女の自殺を告げていたあのメッセージには、不可解な部分が一つありました。
「●●は苦しまずに逝きました」
 という最後の一文。
 これは死ぬ瞬間を見ていなければ出てこない言葉ですから。

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