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#01 エストニア① “世界最先端の電子国家”へ

いま注目すべき取り組みを行っている街を訪れ、街づくりの未来を探るプロジェクト。
最初の訪問先は、“世界最先端の電子国家”として発展を遂げたエストニア共和国。
バルト3国に位置する小さな国が驚くべき電子化を遂げた理由とは? 世界遺産の旧市街を皮切りに「テクノロジー×街づくり」の関係をリサーチしていきます。
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世界が注目するテクノロジー国家、エストニア共和国

2018年、第1弾の訪問先はエストニア共和国。
海を隔てて北にフィンランド、東はロシアと国境を接し、ラトビア、リトアニアとともにバルト3国として知られる北ヨーロッパのEU加盟国。その国土は日本の九州の約1.2倍ほど、人口はわずか130万人という小国に、いま、世界中から熱い視線が注がれています。

その理由は、この国が世界で最も進んだ「電子国家」として成功を収めていること。日本のマイナンバーカードにあたるeIDカード(国民識別番号カード)制度を世界に先駆けて導入し、15歳以上の国民に対する普及率は実に約95%。運転免許や健康保険証、医療記録、銀行のキャッシュカードなど多くの機能がこの1枚に集約され、さらに投票や納税をはじめとする公的サービスの99%がオンラインで完結するというのです。

また、世界的なシェアを誇るインターネット通話サービス「Skype」をはじめ、IT系の先進スタートアップ企業が続々と誕生。さらにエストニア政府は、仮想移民政策ともいうべき「e-Residency」の取り組みを推進。希望者はエストニア国外からオンライン上の手続きだけで同国の電子居住者として認定され、なんと最短20分でエストニアでの会社設立や銀行口座の開設が可能になります。

電子国家、そして電子上の仮想移民――デジタルテクノロジーがあらゆる側面から私たちの生活や社会のあり方を根本から変えていくなかで、人々の身体を取り巻くフィジカルな(物理的な)都市空間に求められるものとは何でしょうか。
私たちが向かうべき「テクノロジー×街づくり」のヒントを求めて、エストニアの首都・タリンを訪れました。

世界遺産として有名なタリンの旧市街。石造りの広場に教会や商館、それらを取り囲む城壁など、13〜18世紀の建築物が美しい姿を留めている。



<都市名>     タリン(エストニア語/英語:Tallinn)
<通称>    「バルト海のシリコンバレー」
<人口>※1     約45万人(首都圏人口)
<気候>※1     亜寒帯湿潤気候
          7月の平均気温 15.7℃(2017年)
          2月の平均気温 -2.5℃(2017年)
<通貨>      ユーロ
<住民構成>※  エストニア人 53.2%
        ロシア人   38%
        ウクライナ人 3.4%
        その他    5.3%
<言語>    エストニア語、英語、ロシア語ほか
<宗教>    キリスト教(ロシア正教、ルター派)ほか
<特徴> エストニア共和国の首都で最大都市。バルト海に臨む港湾都市として発展を遂げており、世界遺産「タリン歴史地区」に指定された旧市街の街並みが有名。

出典
(※1)「VisitTallinn公式都市ガイド」(2018年10月末時点)
   https://www.visittallinn.ee/jp

首都タリンにて、“電子国家”の実態を探る

エストニアの首都タリンは、「タリン歴史地区」としてユネスコ世界遺産に登録された旧市街の美しい街並みで世界的に知られています。13世紀の城塞に端を発するこのエリアには、石壁に木あるいはレンガ造りの建物が軒を連ねる一方で、自動車の通行が制限され、電線などのインフラも石畳の地下に埋設されるなど、現代的なライフラインの存在を感じさせないような配慮がなされていました。

それとは対照的に、幹線道路沿いに高層ビルやショッピングモールが立ち並ぶ新市街は、旧ソ連時代の面影を残す質素な近代建築にデジタルサイネージなどが組み合わされ、旧市街とは対照的な印象を与えています。しかし、どちらの空間にも、電子国家から連想される最先端テクノロジーを感じさせるものは見当たりません。また、エストニア独自の美意識やデザインを感じさせる際立った要素も感じられないのが実状です。

リサーチメンバーの気づき:

エストニア/タリンらしさとは何か

市民にとって、この街のアイデンティティーー“タリンらしさ”と呼ぶべき要素はいったいどこにあるのか。タリンという都市を理解するためには、他国の支配を受け続けながら形成されてきた旧市街の街並みだけでなく、その背後にある彼ら固有の歴史や文化性、そして旧ソ連から再独立後に目覚ましい発展を遂げたITインフラとの関係まで、この土地を彼ら固有の場所たらしめている目に見えない要素について、注意深く観察していく必要があるだろう。

→ 次回  01 エストニア
② 「Skype」を生んだ“スタートアップ都市”


リサーチメンバー (エストニア取材 2018.8/12〜14)
主催
井上学、林正樹、吉川圭司、堀口裕
(NTT都市開発株式会社 デザイン戦略室)
https://www.nttud.co.jp/
企画&ディレクション
渡邉康太郎、西條剛史(Takram)
ポストプロダクション & グラフィックデザイン
江夏輝重(Takram)
編集&執筆
深沢慶太(フリー編集者)


このプロジェクトについて

「新たな価値を生み出す街づくり」のために、いまできることは、なんだろう。
私たちNTT都市開発は、この問いに真摯に向き合うべく、「デザイン」を軸に社会の変化を先読みし、未来を切り拓く試みに取り組んでいます。

2018年は、いままさに注目を集めている都市や地域を訪れ、その土地固有の魅力を見つけ出す「Field Research(フィールドリサーチ)」を実施。訪問先は、“世界最先端の電子国家”ことエストニアの首都タリン、世界の“食都”と呼び声高いデンマークのコペンハーゲン、そして、アートと移住の取り組みで注目を集める徳島県神山町です。

その場所ごとの環境や文化、そこに住まう人々の息吹、地域への愛着やアイデンティティに至るまで。さまざまな角度から街の魅力を掘り下げる試みを通して、街づくりの未来を探っていきます。

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