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出版のお知らせ 「地道に取り組むイノベーション」

2020年9月、私たちUCI Lab.の実践を題材にした本が世に出ます。
タイトルは「地道に取り組むイノベーション ーー人類学者と制度経済学者がみた現場」(ナカニシヤ出版)です。

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(現在、予約受付中。10月中旬にはお手元に届くはずです)


この本が世に産み落とされるまで、構想3年、執筆2年。
昨日「念校」のチェックも完了し、やっとこうして公の場で発表することができます。


最初は恐る恐る手探りで始まり、そこに信じられないような偶然の導きがあり、とはいえ次々に訪れる想像以上の思考的な課題に、ときに力を合わせて、ときにひとりで踏ん張って乗り越える必要がありました。
この場を借りて、共著者のお二人、執筆過程や実践で関わった多くの方々に(本当に心の底から!)感謝します。


実務家が携わる、イノベーションについての学術書?



さて。

イノベーション・エージェントのUCI Lab.が題材とは言え、実はこの本は「人気コンサルタントがノウハウを惜しげも無く公開!」といった宣伝やマニュアルを意図したものではありません。


イノベーションという言葉の響きからは,斬新で綿密な事業計画,カラフルなオフィスや活発なブレイン・ストーミング,何かが降りてくるような気づきの瞬間といった華やかで知的な印象がつきまとう。しかし,実際の現場でなされていることは,その都度訪れる新たな局面に対して,立ち止まって静かに思索し,ねばり強く対話を続ける地道な営みではないだろうか。本書では,そういった決して洗練されてはいない側面にこそ光を当ててみたい。(本書「まえがき」p.iiより)


3名の著者、UCI Lab.所長の渡辺隆史と比嘉夏子(北陸先端科学技術大学大学院 知識科学系 助教)と北川亘太(関西大学 経済学部 准教授)※執筆担当順 が、それぞれ異なる専門とUCI Lab.との関わり方から、今日のイノベーションの実践と仕組みについて、エスノグラフィックに(丹念で緻密に、参与しつつ中立的に)記述し、そこからまた対話的に思索していくことで、独自の結論にたどり着こうとした"探究の書"です。


三者三様に切り取られた「イノベーションの現場」


本書の構造を概念的に表すと以下の通り。
この本では、3つの視点から「イノベーションの現場」が描かれています。

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●イノベーションの現場①

第1部のタイトルは「イノベーションに隠された現場の格闘」

本書のフィールドであるUCI Lab.を社内起業した当事者の渡辺隆史によって、ラボとクライアントとの間で行われる商品開発プロジェクトを通じた対話的な協働の「現場」を描きます。
第1部では、私たちが過去8年間の中で実際に行った4つのプロジェクトについて、発達心理学で用いられる「エピソード記述」の形式を参考にした詳細な記述と考察から、イノベーションが成就するまでの試行錯誤の過程を公開していきます。その上で、UCI Lab.がまるで研究のようにプロジェクトに取り組み、方法論に頼らずその都度柔軟に対応しようとするあり方を、総合的や統合(synthesis)、身体性、一貫性といったキーワードから表明していきます。

●イノベーションの現場②

第2部のタイトルは「UCI Lab.と人類学者による対話と協働」

比嘉夏子さんはオセアニアの島嶼地域へ長期のフィールドワークをおこなってきた人類学者です。そんな研究者である彼女と実務家であるラボの渡辺が、プロジェクトで協働する試行錯誤の「現場」を描きます。
第2部では、一般にイメージされる参与観察のエスノグラフィではなく、ラボの協力者として、実際の調査で共に手を動かしながら思考し対話する様子を、人類学者ならではの視点や思考から"実践しつつ語"っています。そこでみなさんは、一般的に想像される産学の共同研究とは少し異なる手触りを感じるでしょう。

●イノベーションの現場③

第3部のタイトルは「制度としてのUCI Lab.」

制度経済学者の北川亘太さんは、経済活動に潜む「規範」の変化を現場で追い、「今日の資本主義の趨勢」というマクロな概念を、ミクロな実践レベルで検証しようとしています。第3部では、ここまでに比べ一歩引いた視点で、ラボとさまざまな人々・集団で起きる相互作用という「現場」を描きます。
北川さん自身による、UCI Lab.の職場への1週間連続のフィールドワークと、その後も3年以上断続的に続けられた関係者へのインタビューから、組織としてのラボの生成変化を描き、制度経済学的に考察していきます。


さらに終章では、3名それぞれの「現場」の考察を踏まえて、そこからさらに対話していくといったい何が導き出せるのか、3名の"協著"作業で独自の思索へと収斂させていきます。

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そうした歩みの先に、ふと気がつくと、一般的なイノベーション論のような、成功事例集やそれらのエッセンスを抽出したモデル化とはまったく違った本になっていました…。

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(書き終わって初めてわかった)本書の特徴

このように、本書は「従来の多くの書籍のように新しい概念、フレームワーク、方法などを示してイノベーションを実現の確率を高めることを目指して」いません(まえがきpⅱ)。
その特徴は、(あくまで著者側の主張として)主に5つです。

1)実際に関わった実践や対話から思考を立ち上げている
登場するのは、すべてUCI Lab.の事例であり、そこから思考を立ち上げています。
何かの主張や理論を説明するために、自分たちが関わっていない海外の事例や、担当者に一度インタビューしただけといった事例を紹介してはいません。
2)それぞれが異なる専門の3名によって書かれている
本書は、ビジネスと人類学と制度経済学という、すべてに興味がある読者はまずいないだろう3名によって書かれています。それは、同じ関心の仲間による共同研究といった書かれ方とはまったく異なるものです。
いっけん離れた専門の著者が「UCI Lab.の実践」というひとつの組織のみを研究対象に、2年間にわたる対話を通じて地道に編んでいきました。
読んでいただければ、表層的な専門の違いとは異なる、深いところにある共通性を見出していただけるはずです。
3)本書自体が著者間の対話的協働の産物である
イノベーションの現場を題材に対話的な協働、地道な取り組みの大切さを主張する本書ですが、実は本書自体がそのような地道で対話的な協働を経て完成しています(それは、まったく最短距離でも効率的でもありませんでした!)。
その営みは、一読してはわからないかもしれません。しかし、本書の構造を紐解いたり、巻末の索引を見ていただければわかっていただけると思います。
4)わかりやすい安易なまとめに流されずに思考する
本書はイノベーションを題材にしていますが、ビジネス書ではありません。ですので、チャート化や◯つのポイントといった、「誰にでもわかる」意味での平易な説明を目指していません。
細部の違和感も切り捨てることなく、きちんと思考して、不要な修辞でごまかさずに書くことを目指しています。
多読乱読には向かない本だと思いますが、その代わり、様々な角度からじっくり"シガめる"(何度も楽しめる)本だと自負しています。
5)「売りやすい」と「User Centered」は同じではないことの実践でもある
ユーザー起点を掲げるラボが読みにくい(≒売りにくい)本を書くことに矛盾を感じる方がいるかもしれません。
しかし、「誰にでもわかりやすく説明すること」がUser CenteredではないというのがUCI Lab.及び著者たちの主張です。この本の重層的な書かれ方もまた、そのような実践の一部でもあるのです。

(そのような協働的な執筆過程のエピソードや、緻密で偏執的なUX(読書体験)の設計も、またいずれかの機会に種明かしできればと思っています。)


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ぜひ、ご感想をお寄せください

本書は出版することがゴールではなく、ここから始まる対話のためにひらかれた本です。
これから、多様な立場の方からの応答をいただき、さらに思考を深めたり、新しい実践が始まることを期待しています。
ぜひ読んでいただいた際には、ご感想をお寄せください。

また、このnoteでも発売の前後で様々な観点からこの本を紹介する企画を公開していきますので、興味を持たれた方はどうぞマガジンをフォローしておいてください。

さらに、今後いくつかの著者と誰かを交えた対談型イベント(オンライン…でしょうね)を予定しています。
このnoteでも随時告知していきますので、興味がある方はぜひ対話の輪にご参加ください。お待ちしています!

(渡辺)

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ナカニシヤ出版」の紹介ページはこちら

「地道に取り組むイノベーション」著者略歴

北川亘太(きたがわ こうた)
1986年生まれ。関西大学経済学部准教授,博士(経済学)。国家公務員として二年間働いた後,京都大学大学院経済学研究科博士課程に入学し,制度経済学の理論や調査方法を研究する。それと並行して,学んだ調査方法を自分なりに応用しながらドイツ労働組合やコンサルティング・チーム(UCI Lab.)の現地調査を実施し,現場での出来事を,制度経済学が提示するマクロ経済の趨勢と関連づけて解釈する研究を続けてきた。
比嘉夏子(ひが なつこ)
1979年生まれ。北陸先端科学技術大学院大学知識科学系助教,博士(人間・環境学)。学部時代から文化人類学を学び,オセアニア島嶼社会の経済実践や日常的相互行為について継続的なフィールドワークを行う。並行して企業等の各種リサーチや共同研究にも携わり,人類学的な調査手法と認識のプロセスを多様な現場に取り込むことで,よりきめ細かな他者理解の方法を模索し,多くの人々に拓かれた社会の実現を実践的に目指す。
渡辺隆史(わたなべ たかし)
1977年生まれ。UCI Lab.所長,経営修士(専門職)。学部で国際関係学を専攻し学際的なものの見方を学ぶ。株式会社ヤラカス舘(現 株式会社 YRK and)へ入社し,消費財のプロモーション企画や調査を手掛ける。また社会人学生として立命館大学大学院経営管理研究科経営管理専攻(専門職大学院)で得た研究的な思考態度は現在にも大きな影響を与えている。UCI Lab.設立後は,ユーザーの生活と企業の技術,ビジネスと学術的知見といった相反しがちな事柄を対話的に統合していくような実践を追求している。

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