第3回.プラットフォームをつくるということ
1.プラットフォームとは何か?
アイデア創造におけるプラットフォーム
いったい何のこと?と思われるかもしれません。
今回の場合、プラットフォームとは全体のプロセスのうち、ビデオゲームワークで作成した問題構造化MAPのことを指します。
それまでは、7家庭個別で見ていた事象を構造化しテーマの全体像を把握すると言うもの。「〇〇家の朝食」という個別のシーンから「子育て家庭の朝食」というように抽象化するワークを経たものです。
この問題構造化が意味するものは、この調査の概観の説明。
「要はこういうことがあったよね」ということを一覧にしています。
このまとめは、その後のプロセスでもプラットフォームとして活躍します。では、なぜこのようなプラットフォームをつくるのか?
それには「共通認識のベース」と「判断基準」という役割があることが分かりました。
2.「共通認識のベース」としての役割とは?
多様な現場
通常、アイデア創造におけるインプットには生活者のリアルな情報(インタビューデータ)を用います。
今回の場合はビデオのデータが主なインプット情報でした。
しかし、プロジェクト関与者全員が同じフィールド(現場)を見られるわけではありません。
今回も7家庭を分担して学生さんたちに分析してもらいました。
そうすると、前回(第2回)でも触れましたが、どうしても個人の持つ情報量にバラつきが出てきます。
また、それぞれがもつ思い込み(先入観)も存在します。(「朝食はみんな揃って食卓についているだろう」というようなもの)
そのバラつきを整えていくのが、ビデオカードゲームの作業です。
個別の家庭について言及するのではなく、全体像としてどんなことがあったかを客観的にまとめあげていくワークを通して共通認識のベースを作り上げていくのです。
また、このワーク自体もディスカッションをしながら行っていくので、個々人の情報量・理解度のバラつきがなくなっていきます。
3.「判断基準」としての役割とは?
こうして完成した「共通認識」はその後も何度も役割を果たします。例えば、アイデア創造のプロセス全体を通じて、方向性が正しいかどうかのジャッジが必要なシーンが多々あります。
アイデアブレストでのシーン
アイデアブレインストーミング(以下:アイデアブレスト)とは、前半のプロセスで出てきたニーズの構造化のテーマに対し、商品やソリューションにつながるようなアイデアをブレインストーミング(以下:ブレスト)によって出していくワークです。
通常のブレスト同様、「否定はNG!」で、誰かが出したアイデアに乗っかって、「それ面白いね!だったらこういうのはどうだろう」というようにアイデアを拡げていきます。
自由な発想をするフェイズなので、様々なアイデアが出てきます。
今回ブレストで出たアイデアは、その場で参加者によって投票された後に櫛先生・畔柳先生というコアメンバーによって統合されました。
そして、このアイデア統合時に”筋の良いアイデア”として残ったものが、必ずしもその場の投票で多くの票を獲得したものではなかったというのが面白い現象です。
先ほども、お伝えした通り、アイデアブレストで出てくるのは非常にラフなアイデアです。
しかも、しりとりのようにどんどん拡げていくのでそもそものテーマからそれたものも出てきてしまい、その場では面白さから支持されたりもします。
そんなときに拠り所になるのが、プラットフォームの存在です。
もう一度テーマや現場に戻り、これから作り込んでいくアイデアの方向性が、今回の文脈(動画で見られた具体的に困っていることや、実際の状況)に沿っているか、判断する材料となります。
プロトタイプでのシーン
プラットフォームがアイデアの展開に貢献したわかりやすいシーンをご紹介します。
『もぐもぐカップ』のアイデアの大元は「子どもが手でポイポイ口に入れられる」というものでした。
当初は、のり巻きや春巻きのように”巻く”系の食べものにするというアイデアが有力で、実際に色んな食材で巻く(包む)食べ方を検証していました。
しかし、平日の朝食という忙しいシーンに立ち返ると、わざわざ巻く・包むという工程は手間が多く適しません。
素材もライスペーパーのようなものだと、一度水に浸さないといけないので、ちょっとハードルが高い。
実際の文脈(状況)を参照しながら、プロトタイプを行うことで、よりリアリティのあるものに近づけます。
(結果的に「食器ごと食べられる」というカップタイプに落ち着きました。)
このように、明確な基準があることで、単に「好き・嫌い」「面白い・面白くない」ということではない判断ができるようになります。
4.プラットフォームをつくることの意味とは?
なぜプラットフォームを作るのか?
今回のまとめは以下の2点です。
・共通認識のベースの役割
・判断基準の役割
個人の主観ではなく、明確な基準(プラットフォーム)を共有しているからこそグループでの進行もしやすくなるのではないでしょうか。
次回は、「言葉選びのセンスを磨くということ」についてご紹介したいと思います。
大石瑶子 プロフィール
UCI Lab.所長補佐(株式会社 YRK and)。
チーム内では「共感する人」として主に定性調査やワークショップを担当。
■全米・日本NLP協会認定マスタープラクティショナー、LABプロファイルプラクティショナー、ワークショップデザイナー、リフレクションカードファシリテーター
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