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『フルーツバスケット –Prelude–』 ひたすら面白い映画に会いたくて 〜88本目〜

 大切な人を亡くしてしまうと、私は一体どうなってしまうのだろう。現実を受け止めきれずに、何が起こったかわからないまま、ただいたずらに時間だけが過ぎていく。そんな毎日を送ることが目に見えてしまう。もしも、大切な人がこの世界からいなくなってしまったら。想像したくはないけれど、現実に起きる可能性は十分にある。そのような状況になったら、どんな気持ちになって、そこからどう前を向いて人生を歩き始めたらいいか。「それでも私は前を向いて生きていく」。本作はそう優しく語りかけ、観る者の心を支えてくれる素敵な作品であった。

『フルーツバスケット -prelude-』(2022)

脚本 : 井端義秀
監督: 岸本卓
アニメーション制作: トムス・エンタテインメント

             「泣きたくなるほどの倖せ」

物語の概要

 『フルーツバスケット』とは、1998年〜2006年に『花とゆめ』に連載されていたマンガだ。全世界の累計発行部数は、なんと3,000万部を超えている。2001年に1度テレビ東京でアニメ化された (全26話)。こちらの『フルーツバスケット 』を目にした方は多いのではないか。

 しかし、本作は2001年版『フルーツバスケット 』の続編ではない。2019年からテレビ放送を開始した新しい『フルーツバスケット 』の続編なのである (全63話) 。この2019年版は、新スタッフ&新キャストによって、原作漫画を「再構築」する形で最終回まで制作したという大きな特徴をもっている。そして、本作はこのTVシリーズ全63話に収まりきらなかった大切なエピソード、「今日子と勝也の出会い」と「透の誕生」を描いた物語である。

 物語前半はTVシリーズの総集編、そして中盤から後半にかけて今日子と勝也の物語が展開されていく。それだけでなく、原作者高屋奈月さん描き下ろしの透と夾のその後も観れるというフルバ好きにとって大満足な1作として仕上がっているのだ。

本作の魅力

 物語の全体を通して、『フルーツバスケット 』は、疲れた心への処方箋となる作品だなと強く感じている。毎日頑張って生きる人たちに、癒しをお届けしてくれる。そんな素敵な作品となっているところが、大好きなところだ。本シリーズは登場人物たちが、透と関わることで癒されていく物語だが、それは画面の向こう側の心まであっためてくれる。物語に触れると、自分自身・周りの人に対して、いつもよりちょっぴり優しくなれる。そんな一歩を踏み出させてくれる大きな力が、この作品には備わっているのだ。なんて優しい作品なのだろうか。

 前半のTVシリーズ総集編部分で既に号泣した。このままエンディングまでずっとマスクを濡らし続けるのか、ワタシよ…と思うほど『フルーツバスケット 』の世界にのめり込んでいた自分に気づく。今日子と勝也の話になってからが、ようやくpreludeの始まりなのだが…。

 そして今日子と勝也の物語に、ただただ、泣いた。マスクは涙の海になっていたんじゃないかな。「泣きたくなるほどの倖せ」を今日子さんと一緒に噛み締めていたからこそ、物語が進むにつれてこんなにも涙が溢れてきたのだろう。だけど、悲しい物語で終わらないのが『フルーツバスケット 』のとっても大好きなところだ。最後には、登場人物はもちろん、観る者にも「笑顔」をお届けしてくれる。そう、それが本田透という最高の主人公が成せる業である。本作を観て屈託のない「笑顔」は、人を生かす魔法になることを改めて思い知った。私も笑顔を無条件に分け与えられる透のような素敵な人になりたいな。

私の1番好きな場面

 勝也の普段の喋り口調は物腰柔らかい敬語なんだけど、大事な場面では突如「俺様口調」になるところが1番好きだ。今日子が惚れてしまう気持ちがめちゃくちゃわかる。敬語から荒い言葉遣いへの急ピッチすぎる切り替えがたまらない。あんなの誰でもドキッとするよね。透は勝也の喋り方を真似しているのだけど、この俺様口調はさすがに修得できなかったのだなあ。

 最もドキッとさせられたのは、次のセリフ。これは、勝也の教育実習期間の最終日に「もう二度と勝也と会えないかも」とセンチメンタルな今日子へ放ったセリフだ。

「ガキ 会う場所なんて他にいくらでもあるんだよ あんなちっぽけな学校が世界の総てと思ってるならまだガキの証拠だ …それに 1人で勉強を続けるのは大変ですよ」

 個人的には、このセリフこそ勝也の喋り方の魅力が凝縮されてるんじゃないかと思っている。まず、普段温厚な人から出てくる最初の言葉が「ガキ」ってところが、ものすごくドキッとくるよね。私も今日子さんと一緒に驚いたものだ。次に、中学生に大人の視野の広さをねじ込む強引さも最高だ。そして、極め付けは最後の敬語締めだろう。冒頭での荒々しい口調がまるっきり存在してなかったかのように、普段の本田先生として振る舞っているのである。この教育実習生が本気出すと、誰でも恋に落ちてしまうんじゃないか。そんな魅力的すぎる勝也の怖さを存分に味わうことができたので、控えめに言って最高のシーンばかりであったなあ。

おわりに

 『フルーツバスケット 』の原作を読んだよ、2019年版TVシリーズ1st〜Finalまで完走したよという方全員に手放しでおすすめできる1作であった。そして鑑賞後には、「原作を読み返そうかな」「旧アニメも見返したいな」など『フルーツバスケット 』の世界観に浸りたい気持ちが高まること間違いなしである。

 「フルバは人生の教科書」。巷でそう言われている理由が私にもようやくわかってきたように思う。最近疲れてるな、毎日しんどいなと思う人たちへ。栄養ドリンクよりも遥かに効き目たっぷりの「フルバの世界観」に癒されてみるのはいかが?

予告編

『フルーツバスケット -prelude-』の予告編です。

(【YouTube】avex pictures「フルーツバスケット  -prelude- 」本予告<2022年2月18日公開>)


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