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『E.T.』 ひたすら面白い映画に会いたくて 〜79本目〜

 「午前十時の映画祭10」。2本目に観たのが本作だ。1本目の『未知との遭遇』の次に観る作品として本当に最適な1本であった。スピルバーグ監督は、子供と宇宙人との交流を描くのがめちゃくちゃ上手い。『未知との遭遇』のバリー、そして本作のエリオット。2人とも「未知」との遭遇を経験したのだが、極度に恐れることもなく、むしろとっても嬉しそうに接していたのが印象的である。「未知」との遭遇も「E.T.」との遭遇であったなら、私も喜んで受け入れるだろうなあ。

『E.T.』(1982) 

脚本:メリッサ・マシスン / 監督:スティーヴン・スピルバーグ / 音楽:ジョン・ウィリアムス

【キャスト】 
エリオット(ヘンリー・トーマス):主人公、メアリー(ディー・ウォーレス)、
マイケル(ロバート・マクノートン)、ガーティー(ドリュー・バリモア)、
キーズ(ピーター・コヨーテ)、グレッグ(K・C・マーテル)、
スティーブ(ショーン・フライ)、タイラー(トム・ハウエル)

【アカデミー賞】
 作曲賞、視覚効果賞、音響賞、音響効果編集賞を受賞

                 「E.T. phone home」

物語の概要

 父親のいない主人公の少年エリオット(ヘンリー・トーマス)が地球外生命体のE.T.と出会い、友だちになる。2人の仲は日に日に深まっていく。しかし、E.T.は仲間のいる星に帰りたがっていた。仲良くなったE.T.との別れは悲しいものであったが、エリオットは自分の意思でE.T.が故郷に戻れるように協力する。そんなエリオットの成長を描いた物語だ。

 「スピルバーグ監督は当初、地球外生命体が、ある農家を襲って恐怖に陥れるという実際に起きた事件を基にした映画をつくろうとした」(1)

という話をパンフレットで読み、非常に驚いた。そして同時に、もしかして本作の冒頭シーンは、この当初の構想の名残があったのかもしれないと感じた。E.T.が地球に訪れるこの冒頭シーンだけ切り取ると、まるでホラー映画のような音楽と演出であったから余計にそう感じたのである。このシーンは、スピルバーグ監督なりの遊び心で作ったのかな。

 本作も音楽の演出が光っていた。ジョン・ウィリアムズの音楽には映画の魅力を何十倍にも膨れ上がらせる力がある。有名な自転車で空を飛ぶシーンは、「フライングテーマ」があったからこそ、映画史に残る名シーンとなったのだろうなと容易に頷ける。映画の中に登場する音楽はときに主役級の働きをすることがあるということがよくわかった。

(出典 : 【YouTube】Movieclips Across the Moon - E.T.: The Extra-Terrestrial (7/10) Movie CLIP (1982) HD)

本作の魅力

 スピルバーグのユーモアセンスはかなり高い。彼は観客を楽しませることに余念がないのだ。例えば、E.T.がお酒を飲むシーンやE.T.の観ていた映画とシンクロさせたエリオットのキスシーンなど、観客を飽きさせないテクニックがふんだんに使われている。

 その中でも特に、エリオットが誰にもばれないよう家にE.T.を匿うシーンがホントに面白かった。兄のマイケルや妹のガーティーが初めてE.T.の姿を見たときに、「ぎゃー」と悲鳴を上げる。このシーンは予想できる展開なのに、ついつい笑いに誘われてしまう。そして、その悲鳴に驚いて「ぎゃー」となっちゃうE.T.の姿に笑い転げてしまうのだ。E.T.の見た目とは裏腹にビビりなところがとっても可愛いらしい。周りの観客たちと一緒になって笑ったことをよく覚えている。

 E.T.のことを「実際に遭遇したらビジュアル的にもかなり怖い」といった警戒心を抱きながら最初は見ていた。しかし、物語が進むごとに徐々に可愛くE.T.の姿が自分の目に映し出されていることに気づく。そしてラストシーンで、E.T.はエリオットを優しい父親のような温かさで包み込んでくれる。このラストシーンに観客たちは涙を拭うので大忙しとなるのである。E.T.自体は変化していないのだが、主人公エリオットの成長を観客に見せることで、E.T.の見え方が変化していく。これは、スピルバーグが観客たちに魔法をかけたのではないかと疑いたくなるぐらい上手い見せ方であった。

1番好きな場面

 E.T.が「トムとジェリー」のアニメを見て、ゲラゲラとかなり悪い笑い方をする場面が私は大好きだ。このシーンは、E.T.の人間臭さをよく表したいい場面であると思う。そして「トムとジェリー」の笑いは、なんと宇宙レベルであったかと思うと面白さに拍車がかかる。

 「トムとジェリー」は、地球が誇る最高峰のアニメーションの1つであることに異論はないはずだ。なぜなら、E.T.があんなにも楽しそうに笑っていたのだから。2020年で「トムとジェリー」が誕生してから80年が経つ。E.T.の笑いのツボを見事に掴んだ「トムとジェリー」の偉大なる業績の数々を久しぶりに観返したくなったものだ。

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(『E.T.』の鑑賞後、「トムとジェリー展」に訪れることを決心し、実際に行ってきた。「トムとジェリー」の魅力や輝かしい業績たちをこの目で見ることができるかなり貴重なイベントであった。「トムとジェリー」の感想もそのうち書きたくなってくる。上の写真は、そのときに撮ったお気に入りの1枚。)

おわりに

 映画館で観ると、周りのお客さんの反応を直に感じることができるのがいい。笑いを随所に散りばめたスピルバーグの茶目っ気に大笑いし、エリオットとE.T.の別れに涙する。多くの人が同じ場面で笑ったり、泣いたりしていることに気づいたときには、スピルバーグの計算高いテクニックの凄さに驚いたものだ。『E.T.』は、笑いと涙が止まらない作品。映画館で観ることで、そんなイメージが私の中でグッと高まることになった。

 映画館の大きなスクリーンの前で、いまを生きる人たちとともに2時間ほどの「名画への旅」に誘われる。まるで放映当時の映画館にタイムスリップしたかのような気分になれるのが幸せだ。これが「午前十時の映画祭」鑑賞者への素敵な贈り物なのだろうか。

(1) キネマ旬報社編 (2019)『午前十時の映画祭10-FINAL プログラム』キネマ旬報社 p,24より引用

予告編

↓映画『E.T.』の予告編です↓

(出典 : 【YouTube】Movieclips Classic Trailers ET The Extra-Terrestrial (1982) Official 20th Anniversary Trailer Movie HD)

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