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2020年にもなって「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を読んだ(2009年のライトノベル)

本作品には死ネタが含まれます。センシティブな方はご注意下さい。

よく来たな。お望月さんだよ。読んだ人は多くても評判を聞いたことがない作品というのは大量にあるもので、そういった作品が10年を経過して新たに語られなおすというのは非常に幸福なことです。今回はそのような幸福の輪を広げるためにあのベストセラーに挑戦してみました。

NOTE CEOが編集を務め、ハケ水車を開発した人が記したというNoteの設立に大きくかかわる歴史的な名著。それこそが「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」というライトノベル。

社会現象になったとかならなかったとか。作品に対する評判は聞いたことがないので一部界隈で盛り上がっていたのだと思う。それが無料コーナーに落ちていたので拾ってきました。10年を経過してもコンテンツとして耐久力は衰えていないのか。耐久試験を行いたいと思います。

なお、比較対象は名著「小説 開脚もできないやつが何かを成せると思うな」となります。改めてよろしくお願い申し上げます。

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本記事は鑑賞順にリアルタイムで記述を重ねたものです。展開予測等をお楽しみください。

プロローグ

みなみは野球部に縁もゆかりもない高校二年生だが突然「チームを甲子園へ連れていく」という使命に目覚め野球部のマネージャーとなった。マネージャーという言葉の意味も知らず、ただそうせねばならぬという使命を悟ったのだ。

第一章 みなみは『マネジメント』と出会った

野球部のマネージャーになることを決めたが、マネージャーとはいったいどういう意味なのだろう?マネージャーの業務とは?無知性体であるみなみは書店で目に付いた『マネジメント』という本を買ってきます。

淡々とした文章で車輪の再発明が語られていくが車輪の再発明は無駄な時間とは言い切れない。理論を身をもって理解するために必要な時間でもあるのでHOWTO本には必要な場面だと思われます。

いったん主人公の知性をリセットしてから、原義に取り組む姿勢。小説としてのプロット骨が何本も骨折している気がしますが、面倒くさい考証は捨ててテンプレ導入でさっさと本題に入るぞ!という姿勢は近代ラノベ文学の祖として堂々たる土俵入りだと思います。プロットは手負いのほうが強いんだ。

本作に取り組む際の難点として、文章の末尾がすべて「した。」「だった。」の「た。」で終わっていることが挙げられます。一見あからさまに文章力の低いスカスカの文章になっています。その代わり可読性は非常に高く目を横に滑らせていくだけで内容を追えます。おそらくこれはダイアモンド社の読者層に合わせた意図的なものであり作者と編集部の技巧がうかがえます。

なお、「小説 開脚もできないやつが何かを成せると思うな」に関してはプロのライターの仕事であり、不快感や違和感を極力減らした文章で青汁のCMくらいのプロットを流し込んでくる技巧を味わうことができます。サンマーク出版の技術の粋を見せつけられた気がします。

第二章 みなみは野球部のマネジメントに取り組んだ

野球部の「顧客」とは誰なのか。みなみは思考の袋小路に落ち込むが部員の正義の助言によって「全人類」「感動を与えること」であることに気が付く。全人類に感動を与えることが野球部という組織の使命!! それはそれとして理由は分からないけど甲子園へ出場させる!それが私の使命!!

みなみは感動ポルノの鉱脈を引き当てる。病弱なマネージャーを抱える弱小高校が甲子園を目指すという目的はすでに手段と化した。ご家庭やお茶の間に感動を呼び起こすことに野球部という組織の命題はある。そしてみなみは「マーケティング」に取り組み始める。マーケティングとは部員の心を開き会話をするということだった。

文章力に関しては慣れてきた。登場人物が増えて会話が成り立ち始めたことも大きい。

第三章 みなみはマーケティングに取り組んだ

みなみは入院中の真マネージャーである夕紀を利用して、部員がお見舞いをしながらワンオンワンミーティングをする機会を作り出す。部員の要望やモチベーションの元を探る「マーケティング」業務だ。

文章力が急激に高まり読みやすくなってきたが、これでも問題点が散見される。例えば、夕紀が優等生マネージャーのコンプレックスを刺激するハラスメントギリギリアウトの挑発で泣かす。結果的に結束したがパワハラ手段なので参考にするのは辞めたほうが良いだろう。

そして、野球部は結束を強めるが、エースピッチャーが予選で押し出し7連発をやらかして敗北する。エース以外の野球部員は「ピッチャーがわざと四球を投げ続けた」と思い込んでいるらしい。そんなことあるか?

このようにハケ車先生はマネジメントの紹介に沿うために登場人物の理性や理解度を極端に単純化する悪癖がある。結果的にチームは結束を強めたが、この先が思いやられる。作者の筆先に翻弄されるチームの行く末が。

第四章 みなみは専門家の通訳になろうとした

現場と指導者の行き違いがあることはよくある。お互いの専門用語が理解できず意思疎通が損なわれることが多い。ということでみなみはマネージャーとして専門家(監督)の高度な野球言語を通訳しようと試みるが無理だったので知性派の優等生マネージャーに通訳を丸投げすることにした。

みなみは方針を決定し現場に汗をかかせる権限を持ち始めている。こいつを止めるものはもはやいない。

第五章 みなみは人の強みを活かそうとした

みなみは野球部の練習法を変えた。それに優等生と監督は従いなんか世界はマネジメントの力ですごくよくなった。みなみは他の部活動からも尊敬を集めマネジメントを校内に広めグルとなった。そして望みの生徒をマネージャー見習いとして入部させるようになった。(この辺は、各自でそれっぽいBGMを流してダイジェストで再生しておいてください)

第六章 みなみはイノベーションに取り組んだ

信じられないことが起こった。
みなみには、野球経験がある。少なくとも試合に出てヒットを打ったことがある程度の描写はされていたが、まさか「女性初のプロ野球選手を目指して幼少期から野球バカの父親に鍛え上げられ小学校高学年になるまでトップ選手として活躍するもついに女性はプロ野球選手になれないと気が付いて記憶をすべて失う」という背景があったとは。なるほどねー。だから「野球部のマネージャーという役割が何をするかわからない、そうだ管理職(マネージャー)になろう!」ってなったんだね。

通るかそんなもん!!


では通します。(再開)

みなみは謎の求心力を得て周囲の人間を利用しながら指導力を急激に伸ばしていた。他の部活との合同練習、食糧の供給、試合結果を残せていないもののイノベーションの力により校内全体が向上!新学年!新入部員が増加!オーディションで落とす!他の部活動に斡旋!校内全体が向上!

すごいことになった。

野球部の社会的な地位が向上し校内はバラ色になり家庭科部は毎食の試食を用意し始め、チアリーディング部が舞い踊り吹奏楽部は野球部の練習に合わせて演奏を開始した。私大の甲子園経験者が練習試合を組み、やがて社会全体が向上……!!

この時、みなみはチームの甲子園出場を予感した。(もしかして、こいつは信用できない語り部なのではという予感も強まった)

第七章 みなみは人事の問題に取り組んだ。

夏の予選が開幕。みなみは本作のテーマとなるべき視点に取り組むことになる。つまり「成果よりも過程を大事にするべきか」「成果を至上目的とするべきか」という部活スポーツにありがちな問題だ。

病床の夕紀との対話で「甲子園出場の結果を出せなくても十分に感動している」という言葉を耳にしたみなみは宣言する。

「その通りだけど、管理職(マネージャー)としては結果を絶対的な指標にしなくてはならない。マネージャー自身がそれを言ってしまったら責任感に欠けると思う」

管理職として一皮むけたみなみは予選試合へ向かう。(でもそれは部活マネージャーが抱えるべき責任なのだろうか)

いよいよ夏の甲子園予選が始まった。公式試合の経験がない野球部(春季大会とかはない)は、トップマネジメント(急に出現した用語)を率いて地区予選を勝ち上がる。ミスからの乱調子で崩れることが多いチーム事情を考慮して、ミスの経験を積ませるような人事で試合に臨む。

そして決勝へ、という時点で問題が発生する。ショートの緊張感イップスによるエラー癖だ。『マネジメント』にも答えは書いていない。だが、みなみはトップマネジメント筆頭として宣言する。

「たとえ負けることになろうとも、彼の成長を期待して使うのがマネジメントの責任だと思う」

君子豹変す。その場での最適解を見出す、みなみのマネジメントスキルが光った。

第八章 みなみは真摯さとは何かを考えた。

みなみは感動ポルノの鉱脈を引き当てる。病弱なマネージャーを抱える弱小高校が甲子園を目指すという目的はすでに手段と化した。
このようにハケ車先生はマネジメントの紹介に沿うために登場人物の理性や理解度を極端に単純化する悪癖がある。結果的にチームは結束を強めたが、この先が思いやられる。作者の筆先に翻弄されるチームの行く末が

真マネージャーの夕紀が死んだ。


未来へ

本来は60分あれば読める本ですが、とても読みにくくて1か月近くかかりました。エンターテイメントの解像度や意図をくみ取るために真剣に向き合った結果です。本記事は各章を読むごとに記したものでありリアルタイムに近い感想となっています。

物語の終盤、『マネジメント』を逸脱した感動ポルノが開始され「本当は野球がいやでいやで仕方がない。大ッキライだ!!」と絶叫するみなみに対して部員全員が「知ってた」と告白する場面は底冷えするホラー感がありました。また、夕紀の死に対する叫びも感情移入が難しいもので、信頼できない語り部の面目躍如だと思いました。

最終的に、彼らは甲子園へ行けたのか行けなかったのか。そんなものは関係ない。過程を描くことこそが感動ポルノを提供するための成果物であると、この本で学んだのだから。

作中のマネジメントの教えは、そこそこ役立つものだと思いました。

マネジメント最高!!

おわりです

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