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"お陰さま"と"お互いさま"の心を大切にする〜一般社団法人京都ジェンヌの会 中村菜穂〜

京都の今を生きるU35世代の価値観を発信するメディアです。
次期京都市基本計画(2021-2025)を出発点に、これからの京都、これからの社会を考えます。


歴史の中で紡がれてきた京都の文化を、後世にも繋げたい。そんな想いで、一般社団法人の立ち上げなどさまざまな活動をされている中村菜穂さん。

今回は、中村さんが大事にされている価値観「どんなときも"お陰さま"と"お互いさま"の心を大切にする」「生きとし生けるものを慈しむ」「思いやること・共感することで、あらゆる分断を取り除く」に迫ります。

文化を知ることは、自分たちのルーツ・アイデンティティを知るということ

─── 普段どういうお仕事や活動をされているのか、教えてください。

中村菜穂(以下、中村):現在、私はライフワークとしてお商売と活動の2つの取り組みをしています。1つはレッスンスタジオの経営です。ヨガやフラダンス、着付け教室などのインストラクター・先生にお教室を継続的に運営するための場所を提供しています。

また、はじめは皆さん小規模でレッスンをはじめて、やがて教室を大きくしたり、独立されるお客様も多くいらっしゃいます。そういった「夢を叶える、お役に立てること」が仕事のやりがいで、約10年ほど続けています。

2つめの活動は、自分が創業者であり、代表をしている一般社団法人京都ジェンヌの会です。

京都ジェンヌの会は、主に「女性のQOL(Quality Of Life)向上」「郷土文化やサステナビリティを体現する心の育成」「若い世代の地域参画や社会参画の促進」の3つを実現するために活動しています。

具体的な活動内容は、社会課題をテーマにしてみんなで理解を深めるセミナーをしたり、着物の良さを理解するためのお着物を着る会、メンバーが個人で取り組んでいることをみんなでサポートしたり、京都市に住む女性のための防災ノートの制作に携わったりしています。

───すごく幅広く活動されているんですね!立ち上げを決意するきっかけは何だったんですか?

中村:私は京都の街なかで、生まれ育ちました。お家は代々お商売をしていて、いわゆる生粋の京都人なのですが、16歳の頃、1年間海外留学で京都を離れたことがありました。

そのとき、生まれてはじめて外から自分の郷土を見て、京都の尊い価値に気が付きました。また同時に、目に見える側面での街づくりの課題、目に見えない側面での「暮らす文化」の喪失という課題を肌で感じ、やむにやまれぬ気持ちになったんです。

そこから、京都に暮らすこれからの世代として、何ができるのかを考えるようになりました。規模は小さくても、等身大の自分たちだからこそできる文化創造や発信の仕方があるのではないかと感じたんです。誰も何もかもはできないけれど、誰でも何か一つはできることがあると思います。そんな想いで現在も活動をしています。

今の時代、京都に関わらずですが、「郷土」の文化をあまり知らないまま大人になる人がたくさんいます。これは就職や就学を機に京都に来られた方も然りです。知らないことは悪いことでも恥ずかしいことでもないのですが、私は一人の市民として今の状況をもったいないと思うんです。

"京都ジェンヌ"の"ジェンヌ"は、フランス語で「女性」を表す言葉です。お母さんから学生さんまで、京都に生まれ育ったかに関わらず、京都にゆかりのある女性たちへの「自分の個性を生かしながら、未来へ誇りを持って京都を紡ぐ大和撫子になろう」というメッセージを込めています。

───たしかに普通に生活していると、京都ならではの文化を教わる機会がなさそうですよね。

中村:そうなんです。私たちも初めは、お着物を楽しんだり、互いのお商売や活動を応援し合う女子会から始まったんです!

そういうカジュアルな会から始まって、徐々に文化を知ることは、自分たちのルーツ・アイデンティティを知るということだという意識が芽生えていきました。

そして、継続すればする程、「命の尊さ」「まちづくり」「サステナビリティ」などに興味が広がり、自ずと考えが深まっていきました。

決してみんな何者でもない“普通の”暮らし手の女性なのですが、そんな一人一人の意識や心が育まれていくことがやがて街の一番の財産になると私は思っています。

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「どんなときも"お陰さま"と"お互いさま"の心を大切にする」「生きとし生けるものを慈しむ」

───中村さんが、お仕事や活動のなかで「大事にされていること」や「こだわり」があれば教えてください。また、そのきっかけがあれば教えてください。

中村:私は「どんなときも"お陰さま"と"お互いさま"の心を大切にする」ことを意識しています。

これはお商売だけに関わらず、様々な場面でも言えることですが、これからの私たちは"WIN"ではなく"GIVE"の掛け算を大事にするべきだと思います。

"GIVE"を日本語にするなら、「与える」よりも「恵む/恵まれる」がしっくりきますね。

1人と1人の繋がりの中で、互いに恵み・恵まれる存在であることを知ることができたら、関係性はより豊かなものになるはずです。

またこの話は、人同士の関係性に限ったことではないと思います。

そもそも、私たちはこの大きな自然界の中で生かされている存在ですよね。

なので私たち人間は、生きとし生けるものを慈しむ心を大事にすることで、自分の暮らす郷土やそこに暮らす人たちとの関係性も、本来あるべき姿に自ずと還ることができると信じています。

───素敵な考え方ですね。確かに、僕たち人間は自然界に生きる一つの種に過ぎません。中村さんはどうしてそういう考えを持つようになったんですか?

中村:それは四季の移り変わりや暦に寄り添い育まれてきた暮らしの文化や、伝統工芸、年中行事など、触れるモノ、感じるコトのすべてから生まれたのだと思います。京都は街そのものがアートだと言われるように。学生時代から触れる機会のあった茶道や、大人になって始めた華道を通じての影響は強いと思います。

その中で気づいたことは、“本来の姿”へ戻ることは、進むことなのかもしれないということです。

部分的な最適化をイノベーションだと賞賛するよりも、もっと大きな視点で、全体を最適化する心や魂を取り戻さないと意味がないように感じます。

日本は八百万(やおよろず)のものに神さまが宿ると信じ、自然の恵みへの感謝や祈りを人の暮らしの営みの軸にしていました。

自然を「自(おの)ずから、然(しか)り」と書くように、作為も搾取もない、あるがままの命が生かし生かされる。そこに美しい調和が生まれ、また命が循環する。それが、きっと"ほんまもん"のエコシステム。

私たちにとって、そういった原点に戻ることが、逆に進むことなのではないかと感じます。

お商売の利害関係の部分だけで繋がるのではなく、本当の意味の人間力や文化力、地域力、子どもたちへの無償の愛を、大人皆で一緒に育み合える。そんな未来予想図を描いています。

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はこの買い物で、いったい何を買っているのか。本当の豊かさを考える

───今の社会に対して「違和感」を感じていること、またそう感じるシーンについて教えてください。

中村
:これまで、行き過ぎた資本主義や工業社会が、様々な問題を地球や日本にもたらしてきました。

私たちは、時代の転換期を生きています。

生活水準や所有物を人生の価値とする時代から、生き方の豊かさを追求する時代へ、人の価値観が変化していると思います。

この転換期において大事になってくるのは、すべての人が「私はこの買い物で、いったい何を買っているのか」という本質的な問いと向き合うことだと思っています。

「お買い物は未来への投票」という言葉のように、私自身も何かモノを買う時は、生産工程で「何かの命やエネルギーが搾取されていないか」という判断軸を大事にしています。

地球規模で起こっている気候変動や社会課題を解決するために、日本でも多くの議論が行われています。

立派な言葉を掲げるだけでは意味がなくて、私たちが"暮らし手"として日々の中で「実際に、どう行動しているのか」が大切なのではないかと感じます。

たとえば、隣にいる人さえ思いやることができなかったり、自分が暮らす地域の市政や福祉、教育などに何も参画せず暮らしているのに「世界平和」を叫ぶ人がいたら、少し違和感がありますよね。

「命を大切に」といいながらも、日本では10〜20代の若者の死亡原因の一番は自殺です。そして税金を使って年間数万匹以上の動物を殺処分しています。

活動をすればするほど、こういった現実に対して、真剣に自分事として向き合っている大人は決して多くはないと感じるようになりました。

何か困った時だけ嘆いたり怒ったりして、それで終わるのではなくて、地球市民であり京都市民である自分たちだからこそ、何ができるかという視点を持つことが大事になってくるなと思います。

「思いやること」「共感すること」は、分断を取り除く大事な要素

───では「これからの時代・これからの京都」でシフト(変化)することやシフトさせたいと思った出来事を合わせて教えてください。

中村
:目には見えないけれど、あらゆる場所で生まれている“分断”を私はなくしたいと感じています。

わかりやすいところで言えば、ジェンダー、国籍、肌の色、貧富の差、地域格差などですが、それだけではありません。

小さなコミュニティの中でも、思想や価値観、自分から見て正しいかそうじゃないか、何者かという肩書きなどで、人は無意識に隔たりや壁を作ってしまいます。

京都においてもその壁は少なからずあると思います。

これからは、違うことやわかり合えないことを出発点に調和や対話を紡ぐ力が、大切な価値になっていくと思います。そこから新しい価値観が生まれ、活動や事業にもつながっていくのではないでしょうか。

私たちはどう頑張っても、他者と同じ気持ちになることはできません。でも、
相手を思いやる想像力があれば、他者を批判することは減ると思います。そして、その経験は智慧となり、自身を成長させてくれます。

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みんながみんなのファンである"チームKYOTO"をつくりたい

───最後に、このメディアは共創*を目的としています。このメディアの読者、U35-KYOTOメンバーと中村さんが共創したいことを教えてください。(※共創=相手の横に並び同じ未来を見て、共に創ることとU35-KYOTOは定義します)

中村:大きく分けると2つあります。
1つめは、いろいろな垣根を越えて、みんながみんなのファンで在るような仕組みを京都で産み出したいです。

そして2つめは、京都ならではのルーツや文化を再考した「KYOTOスタンダード」に、グローバルを基準とした新しい価値観を育んでいく場をつくりたいなと思います。

行政、民間企業、学校、町衆、伝統工芸や文化に携わる人たち、あらゆる産業に関わる人たち、あらゆるセクターの人が交わりながら、新しい時代の「本当に、豊かな生き方」にみんなで向き合う取り組みをしたいですね。

最終的には、本当の意味での"チームKYOTO"・"オールKYOTO"をつくりたいですね!

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インタビューを終えて

中村さんは「世の中をよくするためには」という問いに対して、深く考えられている方だなという印象を受けました。今回、僕にも「世の中をよくするために、できることはある」と思わせてくださりました。

今回集まったU35世代の価値観は下記の3つです。

「#どんなときも"お陰さま"と"お互いさま"の心を大切にする」
「#生きとし生けるものを慈しむ」
「#思いやること・共感することで、あらゆる分断を取り除く」
<中村菜穂さんプロフィール>
京都市中京区出身。京都で生まれ育ち、学生時代はオーストラリア、韓国、アメリカに留学。巫女や日本髪のモデル、京都市消防団、少年補導学生班リーダーなど幼い頃から街の人たちと関わりながら同世代との架け橋として文化・地域貢献をすることがライフワークとなる。アパレル企業勤務を経て幼児教育・生涯学習機関での講師や教材開発に従事。その後スタジオオーナーとしての自営業の傍ら「京都ジェンヌの会」を立ち上げる。信頼資本財団 A-KIND塾生。
京都市発行の女性のための防災ハンドブックの制作プロジェクトメンバーとして参画。「KYOTOわたしの防災ノート」の普及に貢献すると共に、郷土のソーシャルリーダーを育む取り組みも行う。それぞれの個性やアイデンティティを生かした取り組みを通し、性別や個性、働き方や生き方、価値観や文化などそれぞれの違いを学び”生かし合う力”を育む。「京都ジェンヌの会」の代表と事務局を兼任しボランティアでの運営を約10年続け、今後はより多くの人たちと共有出来る活動へとシフトしていく予定。

<中村菜穂さん関連UPL>

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(取材:中馬一登(株式会社美京都)、長村伊織 / 編集:長村伊織)


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