向かいの席で繰り広げられる離婚調停の話について真剣に考える

向かいの席で繰り広げられる離婚調停の話について真剣に考える

中村悠悠



最近の楽しみといえば、もっぱら営業先で見つけた洒落てるカフェで紅茶を飲みながら、これみよがしにSurfaceを開き、心なしか大きめにキーボードをカタカタ鳴らして仕事している風を装うこと、これにつきる。ご無沙汰しております、無気力の塊です。



何をそんなにカタカタしてるのかといえば、18時ピッタリに定時退勤ボタンをひたすらクリックしているだけなのでもはや仕事でもなんでもない。もう帰りたすぎる。帰りたすぎて17時55分から定時18時までの5分間、白目向きながらよだれを垂らし、何なら意識が混濁している。毎日生命の山場。





昨日も例のごとくパソコンを開き、エクセルの今日の業務報告というファイルに「本日の業務報告、新キャンペーンの情報をお伝えしああああああああああああああああああああああああああああああああ」というダイニングメッセージ的な怪文書を書きなぐってしまい、意識を取り戻した頃には本日の活動内容がひらがなの「あ」で埋め尽くされていた。ひらがなドリルでもやってたのかと思った。





俺はどうやら実直さと集中力を母親の子宮に置いて産まれてきたらしい。



あれなんかな、ローマ字覚えたてなのかな?パソコンに文字書けたから嬉しくなってんのかな?「a」を入力することでひらがなの「あ」に変換されることに今日気づいたのかな?



そんなことを思いながら、自分自身のあまりの無気力さに嫌気がさしていると、ふと斜め向かいの席に二人の中年女性が座ろうとしているのが見えた。




片方が40代、もう片方が60代くらいだろうか。少しセレブな雰囲気、羽振りの良さそうな衣服に身を包んでいる。ここで表現のしやすさから60代の女性をババア大、40代の女性をババア小とさせていただくことをご容赦いただきたい。失礼突き抜けて一周回って尊敬の域に達しているが故の表現です。ホントです。




ババア小「私ここのシフォンケーキ楽しみにしてきたんです。テレビでも紹介されたことあって、本当に美味しいって色んな人言ってたんですよ笑」



ババア大「あ、店員さんすいません、注文お願いします、ハンバーグプレートください。」





強靭なメンタル。




オススメとか関係ない。人は皆、空腹という状況下においてはハンバーグプレート一本勝負なのだ。



正直俺だったらハンバーグプレートにはいかない。だってあんなに目を輝かせてシフォンケーキの話してくる相手を無下にしてまでハンバーグプレート選ばなくったっていいもの。ババア小の言葉一つ一つに熱こもってたもん。何かの信念に沿って言葉紡ぎだしてたもん。




ただババア大は違う。




彼女のメンタルを持ってすれば、ハンバーグプレートを頼まないという選択肢など端から存在すらしないのだ。



サッカー代表戦、決めればワールドカップ出場決定という重圧がのしかかるPKでど真ん中に蹴りこみゴールを決めたケイスケホンダに匹敵するメンタル。なんということだ。ババア大a.k.aケイスケホンダが小洒落たカフェの一角に鎮座している。



相対するババアもババアである。シフォンケーキの話ガン無視なのはなんのその。そこそこ大きな声で口を開いたかと思えば、




ババア小「この間の離婚調停の話なんですけどね〜、、、」





強靭なメンタル。




何回言わせれば気がすむのか。店内に響き渡る声量×センシティブな話題という決して交わることのない組み合わせが、彼女の持ち合わせる強靭なメンタルのおかげで引き起こされてしまった。キャンドル・ジュンと公務員ぐらい交わることがない組み合わせだ。



ACミラン在籍時、味方を黙らせ奪い取った直接フリーキックでゴールを決めるケイスケホンダに匹敵するメンタル。なんてことだ。こっちもケイスケホンダなのか。ケイスケホンダにケイスケホンダが相対している。つまりKeisuke Honda is in front of Keisuke Hondaであるし、個人的見解ですがきっとこの文章は今年の早稲田の入試に出ます。根拠はもちろんないです。



というか離婚調停の話が唐突に始まってるこの状況一体全体何なのか。この世に存在する4文字熟語の中で、Best ofカフェにそぐわない言葉といえば何を隠そうこの離婚調停という単語だと俺は思うわけで。たった漢字4文字でここまでの修羅場感、泥沼感を孕んだ言葉そうそうない。離婚調停以外だとあと袴田吉彦ぐらいしかない。




いいのか、こんな小洒落たカフェのテラスでそんな話をして。俺もいいのか、聞いてしまって。いやでも唐突に店内で耳塞いでる光景も違和感でしかないから聞く以外の選択肢ないけど。もう大人しく聞くけど。気になって仕方ないからガンガン聞いていくけど。言葉は選んで慎重に喋ったほうがいいような気が、、、





ババア小「旦那さんが会社に火の粉かからないようにしてるから、奥さんも中々話が進まなくて困ってて〜」






当事者じゃなかった。



なんなんだ貴様ら。そんなことあるのか。パブリックな空間で他人に聞かれる可能性が無いとはいえないのに、ていうか実際聞こえているのに、他所の家庭内のゴタゴタを流失させるなんてことがあっていいのか。個人情報保護法は何してんだ。こいつらだけ治外法権持ってんのか。




ババア大「それは大変ね〜カズキも言ってたわ。今度カズキと奥さんと私達で話聞きましょ。」





カズキ。





何者なんだカズキ。





あとババア達はどういう立ち位置なんだ。





ババア達と奥さんで話するのもなんかどういうことかいまいち分かってないのにそこにカズキ。息子さんか?でも息子さんを名前で呼び捨てもなんか変な気がするよな。誰なんだカズキ。正直ババアなんかよりもカズキお前が気になってしょうがない。ホントに何なんだお前は。分からない状態をさらに分からなくするなよ。もうこれ以上処理しきれないよカズキ。結果として分からないことに変わりはないんだよカズキ。





一つの些細なきっかけから、ここまで膨らんだ謎を解決する糸口を掴めないまま、定時なんかとっくに過ぎ去った。時刻は閉店時刻数分前。今日も一日が終わる。「もう祈るしかないわね」と1言呟いたのち、険しい顔の前で手を合わせる中年女性二人とそれを凝視する俺を残して。




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中村悠悠
23歳新社会人。駄文製造機。なかむらゆうゆうと読みます。活動名が木村カエラの髪型と同じくらいの頻度で変わります。そろそろしっくりくるの見つけたいです。