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みーちゃんとママ8 ごはん


みーちゃんは野菜を食べない。お皿の上の野菜はすぐによけてしまって、お肉とごはんだけを食べる。お肉も食べずに、ごはんにふりかけや生たまごをかけて食べることもある。そしてすぐに遊び始めてしまう。
みーちゃんに、ママはそれほど口うるさくは言わない。前はよく怒っていた。でもそうすると、ごはんのたびに怒らないといけなくて、このままではみーちゃんが食事の時間をはっきりと嫌いになると思い、怒るのをやめた。
とはいえ仕事から帰ってきて、けして好きではない夕食作りをし、みーちゃんがごはんしか食べないのを見るとママはどっと疲れるのだった。ママ自身、食事へのこだわりや食欲がそれほどなかった。
ママは怒るかわりに、
「ごはんを食べてくれたらとっても嬉しいけどな」と、よく言った。
ある日の夕食時、みーちゃんは食べ始める前に宣言した。
「今日はごはんをぜーんぶ食べてあげる!」
ママは冗談だと思ったけれど、みーちゃんはごはんを食べ、お肉を食べ、添えていた野菜を食べ、野菜が入った味噌汁の具を食べ、残ったお汁をきれいに飲み干した。
ママはびっくりした。
「ぜーんぶ食べたよ! ママ、嬉しい?」
みーちゃんは誇らしげだった。ママはもちろん嬉しかった。みーちゃんが四才になって、成長したのだと思った。
「すごいね! お野菜も全部食べたね!どうしちゃったの?」
ママはみーちゃんをぎゅっと抱きしめて、みーちゃんは満面の笑顔だった。
みーちゃんはそれからよく食べるようになった。
ある日、みーちゃんと弟がおもちゃを取り合ってケンカし、ママが大声で怒ったとき、みーちゃんは慌てて、
「ママ、今日もみーちゃん、ごはんぜーんぶ食べるからね」と言った。
また、ママとパパがちょっとしたことから口論になったときに、みーちゃんは泣くのをこらえながら、
「ママ、怒らないで。ごはんぜんぶ食べるよ。そしたらママ、嬉しいんでしょ」
と一生懸命言うのだった。
あるとき、みーちゃんははっきりと言った。
「みーちゃんはね、ママが喜ぶから、ごはんがんばって食べるんだよ!」
他人を思いやる気持ちができてきたと思えば喜ばしいが、ママは少し心配になった。ママは、みーちゃんにそんな風に気を使わないでほしかった。「ママが喜ぶから」というのは、「自分が我慢すればママが怒らない」ということで、それはママに、ママ自身の小さい頃の気持ちを思い出させた。大人の顔色をうかがい、おどけてみせ、我慢する。そんなことをみーちゃんにさせたくなかった。
ママは時おり、瞬間的に爆発する怒りを止められなかったし、そうしてみーちゃんに怒ったことを後悔した。
ママは、ママのママを思い出した。ヒステリックに怒るママ、不機嫌にテーブルに肘をつき考え込んでいるママ……。
「今日もみーちゃん、ごはんぜーんぶ食べるよ!」
ママはみーちゃんがすくすくと成長しますように、悲しい思いをすることがありませんように、と祈る。

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