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お店の備品にこだわっていたら、業界で最も重厚感のある「プライス」を作ってしまった話

「山下さん。プライスの文字ってかっこよくできませんか?」

そんな言葉をツイッター上でアパレルメーカーの方からかけられて、真っ先に「なぜ私にきくんですか?」と反射的に思った。
プライス。
つまりはお店の商品の価格なんかを表示する道具の文字をかっこよくできないかどうか……そう訊かれているのだ。

そんなことは備品メーカーにきくもんじゃないのか?
反射的に思ったけれど、その言葉を頭の中で反芻していると、ああ言われて当然だと気づいた。

うちは一応文具屋だ。
でも、巷に溢れる「駐輪禁止」や「駐車禁止」の看板がしっくりこないので、オリジナルの三角コーン看板まで作って販売してしまっている文具屋だ。

いわば三角コーンも店舗備品のようなもの。
そのデザインのオーダーまで受けているのだから、プライスを作れたとしてもおかしくはない。
というか全然サイズも用途も違うけれど、自分もお店をやっている以上、価格を表示する道具についてはずっと思い悩んできた。

思えば三角コーン看板だって、自分のお店の看板として作ってみたのがはじまり。
ならば、プライスもかっこいいのを作れるかもしれない。
そんなふうにまんまとアパレルメーカーさんの術中にはまり、プライスを作れないか試行錯誤しはじめた。

それから半年以上の時間をかけて、ついにうちなりのオリジナルプライスは誕生した。
今回はそんな不思議なカテゴリのアイテム「DIN MAGNET SHEET」と「iron bar」をご紹介したい。

小さいマグネットが作れない

さあプライスを作ろう!
そう思い立ったものの、世の中なにかモノを作ろうとすれば「何個作るのか?」という壁に必ずぶち当たる。

完全オリジナルなプラスチック製品を作ろうものなら金型代だけでも数十万円かかってしまう。
なので、うちのお店のオリジナル商品は既製品をいかに活用して新しいものを作るのか……ということに常に注目することになる。

そんな時に見つけたのがこのマグネットシートタイプのプライス商品。
金色のゴージャスさで、高級感を演出してくれるようなフォント(文字の形)が採用されている。
一つ一つの数字は、軽い切れ目がマグネットシートに入っているので切り離すことができる。これなら、印刷する文字の形を変えるだけで、全く違った印象を出せるプライスが作れるのではないか。

しかしながら、マグネットシートなんて「水道のトラブルなら○○」みたいな宣伝用マグネット(ポストによく入っているやつ)を作るところで依頼したら作れるんじゃないか……と考えたのは甘かった。甘々だった。
この切れ目はそもそも一般的なマグネットシートを切るだけでうまくいくような構造で作られていないし、文字1つずつのサイズでマグネットシートを作ろうとすると「そのサイズは作れません」と突っ返された。

考えてみればそれもそうで、A4コピー用紙を入れて印刷するプリンターに切手さいずの紙を給紙できないように、サイズが小さすぎるものを加工するのは、ひと手間ふた手間必要になってくる。

でもそんなことぐらいで諦める自分ではない。
数々のお店に備品を提供する大手である河淳さんに、ダメ元で相談した所、既製品のマグネットシート製造のノウハウを使って、オリジナルのマグネットシートを作らせていただくことになった。

今回初めて作るプライスのフォントには「DIN」を採用することにした。
ドイツの工業製品の型番表記などに使うために生まれたフォントであるDINは、よく販売されているゴージャスなイメージのプライスに使われるフォントと違ってシンプルでインダストリアルな空気を持っている。
デザイナーさんに文字配置の調整もしっかりしてもらって、マグネットシートの製造は進んだ。

途中、印刷方式が細めのフォントを再現できないなど、技術的な問題で何度も細かい修正を重ねることになったけれど、河淳の担当者さんの粘り強いアシストのおかげでなんとか形にすることができた。改めて担当者さんには感謝を申し上げたい。

通常は数字だけしか存在しないプライスだが、マグネットシートだけでも使用できることから色々試してみたくなり、アルファベットも初めて作成した。
地味に業界でも珍しい取り組みとなり、プライスだけにとらわれず、手にとった人の感性のままに様々な使用方法が生まれてくれたらと考えている。

工場にころがってる鉄送ります

「面白いものつくってますねえ」

マグネットシートで新しい試みを行っていると聞くと、黙っていられないフォロワーさんがうちのアカウントには複数名いる(誇張抜きで)
そのうちのお一人が、日本有数の刃物の産地である岐阜県関市で、鉄を使ったアイテムを作っておられるテツクリテさんもその一人だ。

うちのお店で使わせてもらっているこのアイテムのシリーズは、大ヒットしたドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」のインテリアにも登場していて、うちのお店でも問い合わせを頂くことが少なくない。

そんなテツクリテさんは、今回作成したマグネットシートに採用されているフォント「DIN」が大好きということもあり、「工場にころがっている鉄を何個か送ります」というパワーワードとともに、実際に鉄を送ってくださった。
確かにマグネットシートを貼り付けるなら鉄は相性抜群だ。
とはいえそんな都合よく、工場にころがっている鉄がいい感じでマッチするなんて……
そんなふうに考えている時期が私にもありました。

送っていただいた鉄の棒が、なんとマグネットシートと雰囲気ぴったり。
しかも2面に分けてマグネットシートを貼ることで、商品名と価格を両方見せる際にも便利なことにきづけたのだった。

さすがにこの黒く錆びた風合いは出せないものの、このプロトタイプのエッセンスを受け継いだ形で「iron bar」は商品化されることになった。

黒皮材と呼ばれる無垢の鉄の棒を、一本ずつ手作業でカットし、カットしたままだと尖ってしまう角をきれいに面取りすることで、ひとつひとつ違った表情を見せてくれている。

黒皮材とは表面が黒皮(酸化被膜)で覆われた鋼材のことだそうで、その表面も凸凹具合は様々。プラスチックの均一な仕上がりを好む人には向かないかもしれないけれど、均質に魅力に負けない個性の魅力に満ち溢れた仕上がりになっている。

なんとひとつあたりの重さは約215g
重厚感があるのは当たり前で、根本的に重厚なのだ。
5本早速買ってくださった知り合いがいたけど、5本だと1kgを超えてしまう。
しっかりとした紙袋に入れてお渡しした。
ちなみに上の写真の左下に100本入った状態でお店に納品されたのだけど、持ってきた運送会社の方に「これは机に置いたら駄目です。床に置きます」と問答無用で宣言されたぐらい重たかった(100本で21.5kg……)

ただ、予想以上にこの重みも人気の一つになっている。
屋外出店をするお菓子やカフェの人に言わせれば、風の強い天候だとプライスやテーブルに敷いている布が飛んでしまいそうなことも多いらしく、予想外の重さがそのまま布の押さえとしても機能してくれるというのだ。
この鉄をベースにしたのは本当に様々な偶然と縁からくるものだけど、改めてものづくりというのは面白いなあと感じた経験だった。

さらなる予想外の反応としては、「ペーパーウェイトとしてもいいね」とか、「特に使う予定も見つからないけどほしい」という声を頂いたことだった。
ここまで無骨な鉄の塊というのも、たしかに日常で目にすることは少ないのかもしれない。
テツクリテさんによれば、ここまでシンプルで、それでいて手作業で手をかけたものは、作ってくださる工場もほとんどないとのこと。
改めていただいたご縁に感謝したいとともに、別にお店をやってない人にもぜひ手にとってもらいたいと思えた。

小さくても存在感(物理)のあるオリジナルのプライスができました

そんなわけで、この世にも珍しい、そして他を寄せ付けぬ重たさをもつプライスは誕生した。
必要とする人はきっとこだわりの深い人だけかもしれない。

でも、正直それでいい。

自分自身、プロダクトとしてこの商品をお店で使いたいし、同じ様にこだわりの商品を売る方に少しずつでも使ってもらえれば大変嬉しく思う。

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