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『星の王子さま』The Little Prince英語絵本を全文音読した

Book Offで先日、たいへんな掘り出し物を見つけた。
The Little Prince
Antoine de Saint-Exupery
 
サン=テグジュペリの『星の王子さま』英語版である。
それも、たいそう美しいイラストに彩られた絵本だ。
 
1995年、UK only.
A new translation by Alan Wakeman
Illustrated by Michael Foreman とある。

よく見つけた、私

古本らしい汚れがあるものの、自室に20年眠っていたような、愛着がわく感じがする。
370円。
買うしかない。
 
家に連れ帰った。
読んだ。泣いた。
買って大正解だった。
 
※以下、『星の王子さま』の内容に立ち入ります。
内容を知りたくない方はここでバックを!

 
(いわゆる「ネタバレ」というやつだが、
どうもこの作品にその4文字はそぐわない気がする)

https://amzn.eu/d/8yjeSDS(アマゾンも中古だね)
 

邦訳は、読んだことが、あるはずだ

『星の王子さま』はたぶん、ここ20年以内に読んでいる。
ところが、記録がない。2009年に音楽座の舞台を見に行った記録しかない。
私は1998年から読書録をつけている。1回目はそれより前に読んだとしてもだ。
今度、読書録の話もnoteに書こうと思っていたのだが、あてにならないことが早速露呈した。
 
まあ、日本語では読んだことはある。記録になくても記憶にある。
でも今回、英語で読んで、
 初めてこの物語を読んだ 
そんな気がした。

英語音読で特別な回路が開いた?

全文、音読した。
自分に読み聞かせるように。
心をこめて。
それがよかったのだ、きっと。

If someone loves a flower who’s unique among all the millions and millions of stars, that’s enough to make him happy when he looks at them. He can think to himself: “My flower’s out there somewhere...” But if a sheep ate the flower, for him it would be as if all the stars had suddenly gone out. And you don’t think that’s important!

The Little Prince 

声に出して読みながら、私は王子さまといっしょに怒り、いっしょに泣いた。
 
英語を通したことで、私の中の特別な回路が開いたのか。
日本語よりは英語の方がオリジナルに近いはずなのだし。
物語の中に、私は入り込んでいた。砂漠の砂の上に、二人といっしょに座っていた。

日本語だと、「読んだつもり」でサラサラーっと読み飛ばしてしまったりする。
英語では、それはできない。
ネイティブ並みに英語を読みなれていればできるのだろうが、幸か不幸か私にはできない。
さらに音読する場合、一語一句をきちんと拾い、読みあげることによって、目と耳で受容するのだから、
日本語の黙読で「読んだつもり」なのとは雲泥の差になる。
 
音読するとスピードは落ちる。
でも、『星の王子さま』は時間をかけて音読することこそふさわしい本なのだった。

パイロットの姿が描かれている意味

まず、絵の美しさ。
なんという色合いだろう。
私は美術に詳しくないし、一枚のイラストも描けないが、
これはきれいだ、好きだ、と思った。

The Little Prince (Pavilion Books ltd. 1995)  pp.14-15

このバージョンの特徴は、「パイロットが描かれている」こと。
オリジナルの作者による挿絵を8割がたなぞっているからこそ、その差異が際立つ。
私のおぼろげな記憶では、オリジナルのイラストには、語り手=パイロットが登場しなかったはずだ。
なので、語り手の姿が王子さまとともに描かれていることに違和感を覚える人はいるだろう。
 
しかし、王子さまを抱きしめるパイロットの姿には、
何か訴えかけてくるものがあった。
 
王子さまは、小さな自分 子どもの自分 
大人にわかってもらえなくて、悲しかった自分……
その自分を愛して、抱きしめる。
 
これは、王子さまと、大人になった「ぼく」、二人の物語なのだ。 
 

私の小惑星に他人を住まわせる余地はあるか

王子さまは星々を渡り歩いて旅をしてきた。
小さな惑星にはそれぞれ、一人だけ住人がいる。
地球にやってきた王子さまは多くの人がいることに驚くが、
砂漠ではやはり、パイロットが一人いるだけ。
 
「星の王子さま」では、会話は常に1対1で行われているのだ。
 
“No man is an island”
かつてJohn Donneは書いた。
人は誰も孤島ではない、みなつながった一つの大陸なのだ、と。
 
しかし、「星の王子さま」には、孤島になってしまった大人たちが描かれているのではないか。
彼らは他人を自分の星に住まわせることができないのだろうか。
私は、誰かを、私の星に住まわせることができるだろうか。

あの地平線 輝くのは……

‘What makes the desert beautiful,’ said the little prince, ‘is that there’s a well hidden somewhere...’

王子さまの言葉から想起されるのは「ラピュタ」のテーマソングである。
 

あの地平線 輝くのは
どこかに君を かくしているから

「君をのせて」

宮崎駿監督がサン=テグジュペリの愛読者であったことは間違いないらしく、
『人間の土地』のカバー絵も宮崎監督が描いている。
遠く離れて、今は会えない君。
いつかきっと出会うぼくら。
 
あの音楽も深く深く、下りていくようなメロディになっているが、
砂漠に隠された井戸を求めているから 
なのかもしれない。
 

『星の王子さま』は大人が読んでこその本

他にも、谷川俊太郎の「朝のリレー」を思い出したり、
“tame”という語の使われ方に驚いたり、
短い物語だが随所で発見があった。
 
この本の献辞には
For Leon Werth
when he was a little boy とある。
 
「子どものころの」Leon Werth(友人)にささげられているのだ。
かつて子どもであった大人に。
 
だから、やはり『星の王子さま』は大人のための本である。
かつて子どもであった、すべての大人のための本である。
 
私自身の今さらな理想を言えば、
・12歳までに一度
・18歳までにもう一度
・25歳を過ぎてからもう一度  
このような読み方ができれば最高だろうと思う。
あとは何度でも読めばいい。
 
今回、期せずして『星の王子さま』に再会できたことはたいへんな仕合わせであった。
私は薄情者で、手もとに長くおく本は少ないのだが、
この宝物のような美しい絵本は絶対に手放さないようにしようと思う。

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