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スパイ映画かよ

大学のある町は、どこも大学生が異常な密度で生活しているだろう。
私もその異常な密度を構成する一人だ。

大学周囲の半径数キロ圏内に多くの知り合いが住み、全員が同じスーパーやドラッグストアや飲食店を利用する。さらには近所の日常的に利用するほとんどの店で知り合いがバイトしている。

こんなプライバシーが脆弱な、互いに互いを監視しあっているような場所では、一般人がふつう口に出すことがないであろう台詞が必要性を持って使われてしまう。

「今、私たちに人権ある?」
「ここって言論の自由ある?」
「今ここ安全?」

これらは私や友人の間で、その場に知り合いがいないかを確認する際に使う言葉である。

大学の人間関係に関すること全般は、その場に知り合いがいてしまうと自由に話すことができなくなってしまう。だから話を始める前に、その場所はその話をするのに適しているかを確認する。

以前友人と二人で回転寿司に行った。話題は自然と大学生活に関するものになり、先輩や友人の話をしていた。ふと思い立って、友人に「今ここに知り合いいないよね?」と聞いてみた。友人は周囲を見回し、言葉は発さず私を見つめて、何とも言えない表情で笑った。「どうした?」と聞いたところ、私たちがいた席のレーンを挟んだ隣の席に、よく知っている後輩が3人でご来店していた。もうこの席では自由に話すことができないと分かって、私と友人はすぐに帰ろうと決めた。二人ともとりあえず茶碗蒸しを頼んで、食べていたところだった。茶碗蒸しを黙々と間食し、滞在時間10分で静かに帰った。
このことがあってから、特に大学の知り合いの話をするときは周囲に聞こえても問題ないかを絶対に確認するようになった。

知り合いが狭い範囲に密集して暮らしていることが本当に恐ろしいなと思ったことがある。

あらゆる買い物の中で、スーパーとドラッグストアでの用事は特に生活感が強い。スーパーはさらに買い物に行く頻度が高いので、知り合いと遭遇する確率も高い。
ある女性の先輩で、これから同棲予定の社会人の彼氏がいるにもかかわらず後輩と浮気してしまった人がいる。その手の噂はすぐに広がってしまうものだ。
その先輩が大学近くのスーパーで、彼氏と仲良く買い物をしているところを友人がたまたま見たらしい。その友人は「どの面下げてあそこで買い物してるんだよ」と言っていたのだが、たかが買い物で「どの面下げて」と言われてしまうことなんて普通あるだろうか。状況に対して非常にミスマッチなフレーズだと思う。

大学の近くで生活している限り、とにかくこの手の危険と隣り合わせである。
今までで学んだことは、宅飲みがいちばん安全で自由に話ができるということだ。


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