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BAG ONEイベントレポ #06 | 『ヒッピーのはじまり』刊行記念 阿部大樹×星野概念 音楽について語る


音楽大好き!編集部 saです。毎日フジロックTシャツを着用し、苗場に思いを馳せながら出社しています。


今回は6月29日に行われた、「『ヒッピーのはじまり』刊行記念 阿部大樹×星野概念 音楽について語る」という、好きな音楽についてストレートに愛を語り合うイベントの模様をお届けします。


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(左)阿部大樹さん (右)星野概念さん


阿部さん、星野さんはともに精神科医として働くかたわら、阿部さんは翻訳者、星野さんは音楽家としても活動。(一体一日何時間あるんですか……?) そして、生粋の音楽ラバーでもあります。
「概念さんの知らないところは一個もないぐらいの気持ちです」と阿部さんが言うほど、かねてから親交のある二人。それでも「好きな音楽を語る」ことに対する認識には相違があったり、互いに意外な音楽が好きであったりと、音楽の懐の広さを改めて感じられるトークとなりました。
なお、本トークの海外の人名・バンド名はカタカナで統一し、表記しています。


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阿部大樹(あべ・だいじゅ):精神科医。松沢病院、川崎市立多摩病院等に勤務。著書=『翻訳目録』(雷鳥社) 訳書=H・S・サリヴァン『精神病理学私記』(日本評論社、第6回日本翻訳大賞)、R・ベネディクト『レイシズム』(講談社学術文庫)


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星野概念(ほしの・がいねん):精神科医など。病院に勤務。音楽活動はさまざま。単著=『ないようである、かもしれない』(ミシマ社) 共著=『ラブという薬』『自由というサプリ』(以上、リトル・モア) 連載=「本の診察室」『BRUTUS』、「「ない」ようで「ある」」『みんなのミシマガジン』、「ヤッターの雰囲気」『群像』、「フーディの憂鬱」『エル・グルメ』



「好きな音楽」について話すことが気恥ずかしい(阿部)

阿部:音楽について語る……気恥ずかしいなっていうのが、僕自身あるんですけど、そういう感じはありますか?

星野:気恥ずかしいどころか……っていう感じで、自己紹介に戻ってしまいますが、僕は高校生ぐらいからずっとバンド活動をしていて。大学でもライブハウスで活動して、CDを出したりツアーをしたりしていたんです。そんな風に、音楽で身を立てることを希望していたんですが、挫折をして。だから言ってしまえば、「ああいう音楽をしてみよう」という試行錯誤とか、「フレディ・マーキュリーみたくライブをやってみよう」とか、10代後半から30歳過ぎまでの「恥ずかしさ」が全て音楽に直結してますね。誰が見ても「これは恥ずかしいな」と思うライブ映像がいっぱいある(笑)。
阿部くんが「音楽を語るのが恥ずかしい」と言っているのはなんで?

阿部:読書って一人で完結するように感じるんだけど、一方で音楽って人にどう見られるか、どう見られたいかってことと結びついてる気がするんですよね。 

星野:「この作家を読んでいる」っていう自負によって、自分を大きく見せることもあると思うんだけど、そういうのはない?

阿部:「難しい本読んでるぜ、俺」みたいな?

星野:そうそう。

阿部:僕はそんなになかったかな。

星野:音楽はあった?

阿部:音楽にはあった。
…実を言えば、読書に対して、今でもどこかカッコ悪いイメージがあるんですよね。頭の片隅に。楽しいとかハッピーということでいったら、友達と集まってお酒飲んだり、歌ったりする方が、って気持ちはあります。自分がそういうことをできないから、たとえば200年前のロシア人が書いた文章を読んでる、っていう感覚がどこかにあります。だから、「難しい本読んでてすごいだろ」みたいな外に向かってアピールするような感じは、とてもじゃないけど持ったことがないです。

星野:音楽はそれがあるのが面白いね。

阿部:そうですね。音楽は、どういう人がそれを聴くかというのを含めて作られるからですかね。一人語りの、純粋に日記的な音楽ってのが想像しにくいみたいに。たとえばレオン・ラッセルの音楽を聴いて、そこで受けた衝撃を誰にも一言も言わないで人生を過ごすってのはちょっと想像しにくい。


LEON RUSSELL/STRANGER IN A STRANGE LAND (LIVE PERFORMANCE 1972)


その人が「かっこいいかどうか」って、「その人が何をかっこいいと思ってるか」ですよね。(阿部)

阿部:僕はボブ・ディランをずっと聴きつづけてるんですけど、彼みたいにひとつのことをずっとやり続けるのでなくて、スタイルを変え続ける人が好きですね。

星野:アフリカ・バンバータもそうだよね。

阿部:そうですね。「その時その時に好きなことをやってるけど、ずっとかっこいい」みたいなのが好きだったし、「そういう人が好きだ」って態度をとっていたのは、思い出すとただただ恥ずかしいですね。

星野:全然気恥ずかしいエピソードっぽくないけどね。

阿部:自分の内面がどうかっていうよりも、「人にどう思われたいか」っていうところが恥ずかしいかな……。
高校生ぐらいのときから思ってるんだけど、その人が「かっこいいかどうか」って、「その人が何をかっこいいと思ってるか」ですよね。

星野:なるほど……確かに。

阿部:「かっこ悪いものを好きな人はかっこよくなれないよな」という。そして逆に「俺こういうのかっこいいと思ってるんだぜ」って名のある人を挙げてる状態はかっこ悪いよな、っていう。

星野:そういう意味では僕めちゃくちゃかっこ悪いですね(笑)。

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ビートルズの『The Beatles』(通称 ホワイト・アルバム)
で原曲を聴いて、頭を吹っ飛ばされるぐらい衝撃を受けたな。(阿部)

星野:邦楽はあんまり聴いてない?

阿部:……初めて買ったCDはDef Techのデビューアルバムだったかな。初めてテレビで流れてる音楽を意識したのが、椎名林檎の「本能」。あと宇多田ヒカルの「traveling」のPVを見てすごくかっこいい映像だな、と思った。多分小学校3、4年生ぐらいかな。それが最初のJ-POP体験。​


宇多田ヒカル/traveling



星野:じゃあ日本の音楽はいわゆる「J-POP」と言われるものしか聴いてない?

阿部:そうですね。ヒットチャートに入るような音楽しか聴いてなかった。中学生くらいまで、音楽にそれほど強い興味というのはなかったし。当時はRIP SLYMEが一番好きだったんだけど、彼らがかっこよすぎたというのがあったかもしれない。そこからエミネムとか聴いてみても、「楽園ベイベー」の方がいいじゃんってなって、それ以上進まない、ということだったので。
洋楽に初めて頭をたたかれるような経験をしたのは「Helter Skelter」を聴いたときですね。友達のもってたU2のライブアルバムでカバーされてたのを聴いて、その時はふーん、というくらいだったのを、何かで原曲を聴いて、ぶっ飛んだ。

星野
:いわゆる「クラシックなロック」をずっと聴いてた?

阿部:そう。

星野:へー!

阿部:「死にそうな音楽聴きたい!」っていう。

星野:(笑)

阿部:洋楽が好きっていうより、作った人が今にも死にそうな音楽が好きなんですよね。「In My Life」とか。一方で、そういうのと対極にあるけど「黄昏サラウンド」とか聴くと、めちゃくちゃかっこいいライミングだなとも思いますね。柳瀬尚紀(*)くらい日本語の枠を広げたんじゃないかって。


RIP SLYME/黄昏サラウンド​
(*)柳瀬尚紀(やなせ・なおき)……英文学者・翻訳家。キャロルの「不思議の国のアリス」のほか、実験的な文体で知られるジョイスの「フィネガンズウェイク」など、多くの翻訳を手がけた。(コトバンクより)


音楽に寄りかかるものが多かった割に、全然聞いていなかったとも思う。(阿部)

阿部:大学生くらいまでは仲いいわけでもない同年代のひととどう付き合ったらいいか分かんなくて、ずっと音楽でしたね。すごく好きだった。繰り返し聴けるし。でも大学卒業して多少は人づきあいができるようになったころから、ひとつの曲を繰り返してずっと聴くってことがなくなった。

星野:僕も、ずっと聴いてた昔と比べたら聴く時間が減ったな。音楽がなにかのツールだったのかな?

阿部:「この歌詞はこういうことだったのか」って気づくことは今の方がずっと多いですね。音楽に寄りかかるものが多かった割に、全然聞いていなかったとも思う。
たとえば、『追憶のハイウェイ61』はほとんどの曲が前衛詩みたいなバース(詩の節)がずっと続いて、最後のところだけ心象風景がでてくるって構造なんだけど、当時は何でそうしてるか考えようともしてなかった。でも今ならそういう構成にしないと伝えられないことがあるなってのがよく分かる。

星野:曲の意味を理解して、楽しめるようになったんじゃないかな。

阿部:概念さんにとって、「聴く音楽」と「演奏する音楽」って違うの?

星野:……「聴く音楽」と「演奏する音楽」の違いを説明するのって難しいな。そもそも音楽活動を長くしているうちに、だんだん音楽を聴くことが楽しめなくなったんですよね。曲を聴いても、「これ参考になるな」とか、「この曲の構造はどうなってるんだ」とか、「この人の歌唱は……」みたいに分析するようになっちゃって。純粋に音楽を聴くことができなくて、それが結構悩みです。時々ディアンジェロの曲をそういう風に聴いてしまって、「うわあ、モンスターみたいだな」って圧倒される。
演奏したり作ったりするのは楽しいんですけどね。


ディアンジェロ/Lady


1965年、1966年って25歳以下がアメリカの人口の半分以上を占めていた変わった時代だったんですよ(阿部)

星野:「ヒッピー」のことを教えてくださいよ。

阿部:1965年、1966年ってボブ・ディランをはじめとして、ロックの歴史のなかでも華々しい時代だと思うんだけど、その時代って25歳以下がアメリカの人口の半分以上を占めていた変わった時代でもあって。今の日本で考えると、どれだけすごいことかわかりますよね。
当時のアメリカは、18歳から26歳の男性は選抜で徴兵される社会でした。いつ自分が死んでもおかしくないし、人を殺すかもしれないという状況下で、とても現実味のあるベトナム戦争への反戦運動が行われたんですね。
そして、人口の半数をその世代が占めているので、それは政治にも票の数という形で直接反映される。

星野:あとは読んでください、ということで。

阿部:そうですね、ぜひ。



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最後に、本イベントで話題にあがったアーティストをご紹介!
アーティストによっては曲名まで記載していますが、曲を自分でチョイスしてプレイリストを埋めていくのもおすすめです。

Def Techの「My Way」は、小さいころ英語のラップがどうしても歌えなくてホニャホニャ言ってごまかしていたのを覚えています(今も歌えません)

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『ヒッピーのはじまり』刊行記念 阿部大樹×星野概念 音楽について語るプレイリスト

・クイーン
・ビートルズ
・ローリング・ストーンズ
・レオン・ラッセル
・ジェームス・ブラウン
・ボブ・ディラン
・矢沢永吉
・Def Tech
・スパイナル・タップ
・RIP SLYME/黄昏サラウンド
・真心ブラザーズ
・宇多田ヒカル/traveling
・友部正人
・U2/Helter Skelter
・岡村靖幸
・ディアンジェロ
・クリーム
・チャゲ&アスカ
・aiko/ボーイフレンド
・平井堅/瞳をとじて
・このよのはる
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写真:編集部

文:sa


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【sa】

入社2年目、4月から編集部配属。新潟出身なので、フジロックに行くことが大人になってからの家族イベントになりつつあります。早く外で大きな音を聴きたいものですね……!


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