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ペースメーカーをすること

2016年に引退したあと、練習で選手と走ったり、1500mの記録会でペースメーカーをしたりしていました。そんな中、2019年にANG福井で800mのペースメーカーの機会をいただきました。クレイ・アーロン選手と川元選手が800mで日本記録を狙うというレースでした。久々の緊張感を味わって、「あぁこれこれ。このプレッシャー」と現役のときに感覚を思い出すことができました。それから、日本グランプリシリーズをはじめ多くのレースのペースメーカーをしてきました。実は現役中も僕はいろんなレースでペースメーカーをやっていました。いまはランキング制もあるのでトップの選手がペースメーカーをするのはなかなか難しいかもしれまんが、以下の理由から、選手としてもコーチとしてもシビアな環境下でペースメーカーをすることを推奨します。

選手として
・死ぬほどのプレッシャーを感じられる
・自分でペースをつくる最高の練習ができる

コーチとして
・選手と同じ目線に立てる
・経験を言語化する機会を得られる

そして昨日も金栗記念のペースメーカーをしてきたので、ペースメーカーをすることについて解説をしていきたいと思います!

©️EKIDEN News

死ぬほどのプレッシャーを感じられる

ペースメーカーの役割は、決められたペースで良いリズムを刻めるだけ刻むことです。遅くてもダメ。早くてもダメ。ペースの上げ下げなんて最悪。つまり、ペースメーカーの仕事一つで選手のパフォーマンスは大きく変わるし、大会も台無しになるかもしれない。選手たちがこの大会のためにかけてきた準備をしてきた、大会の関係者もその大会が成功するように準備をしてきた。その準備を台無しにできる!スリリング!それくらいの責任感を持ってペースメーカーをできたらきっと自分1人にかかるプレッシャーにも耐えられると思います。世界大会でここぞで勝負するとき、世界大会を決めに行くレース。そのためにたくさんの準備をしてきたと思います。それに打ち勝つコツは自分にプレッシャーを与え続けることだと思います。楽しく走るとかどうでもいい。本当に勝負するときは死ぬほどのプレッシャーがかかるのです。その予行演習としてシビアな大会でのペースメーカーは最高です。

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自分でペースをつくる最高の練習ができる

一番を取るということは誰の背中も見ないで走る瞬間があるということです。それが一瞬であったとしても。そして日本で一番になってより強くなろうとした時、海外に出て行く時、レース展開のモデルチェンジもしくは引き出しをもっておくことが必要になります。なんとなく金栗の三浦選手も引き出しを増やそうとしてる作業中なのかなと思いました。彼のスタートダッシュから、現状に満足しない彼の気概を感じたので今日は絶対1000mはいこうと決めました。
話が逸れましたが、必要なときに必要なものを身につけるのも大事ですが、フロントで走るのはテクニックもメンタルもかなりきついのでそんな簡単に習得できるスキルではないです。なので、それが必要になる前からそういったスキルを少しずつ習得することができます。フロントで走れるのは海外レースでも大きな武器ですし、フロントランでも日本選手権を勝てるくらいの選手しか中長距離で世界大会に出ること、ましてや戦うことは不可能です。しかし、フロントで走るのは風の影響を受けたり、ペースコントロールの難しさから、簡単ではないです。だからこそペースメーカーという環境を使って、プレッシャー環境下でフロントランの練習をすることが大事になります。なので、正直僕じゃない現役バリバリの選手がペースメーカーをすることが良いと思ってます。とはいえ、出てこないので必要であれば当分僕がやります笑

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選手と同じ目線にたてる

コーチにはコーチのプレッシャーがあります。でも走るのは選手です。責任の多くは選手にのしかかります。どんなに僕らコーチが綺麗な言葉をかけても、責任もプレッシャーも多くは選手にかかってしまうのです。ウォーミングアップ中の研ぎ澄まされている感覚も、招集所の落ち着かない感じも、スタート前の逃げだしたくなる気持ちも、ゴール後の吐き気も全部思い出せます。なによりそんなプレッシャーと戦う選手たちへ最大限のリスペクトを送ることができます。「お前ら本当すげぇな!」って心から思えるし、言えるのです。コーチになると忘れてしまう、あの逃げたくなるプレッシャーも全部全部思い出せるので、選手の目線に少しでも近づくことができると思っています。

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経験を言語化する機会を得られる


こうやって集中力高めてたな、動きのイメージつくってたなと、現役の時にやってたことを暗黙知から形式知に変えることができます。現役の時にだれかに教える必要はそんなにないので、走るの細かいところまで言語化する機会はほとんどありません。いまは、コーチとしてアスリートになっているので、一つ一つの動きや感覚を言葉に変えることをたまにします。僕は大学一年生から引退するまでのほとんどの期間、コーチがいませんでした。今までの日本の中距離選手の中で自分の感覚や感情と一番向き合ってきた自信があります。感覚的に理解してるスキルをもう少し言語化できたら選手に伝えられる幅や深さも広がっていくと思うのです。

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最後に

今回の本題とは少し離れますが、僕はずっとずっとプレイヤーであり、開拓者でありたいと思っています。自分はなんて力がないんだろう、なんで何もできないのだろうか、他人と比べてなんてちっぽけなんだろう、毎日そんなことを考えながら生きてます。家族や仲間や応援してくれる人に支えられてなんとかやっていけてます。でも、そんな自分は嫌いじゃないです。自分がダメなやつだと思って自分を奮い立たせる。現状に満足しはじめたら、喜んでこの業界を去ります。コーチとか選手とかそんな概念にとらわれることなく、その時の自分の最適解を常に追い求めて、動き続けたいと思います。なので、いまはペースメーカーという役割を与えられたら、そのときにできることを全力で、その中から得られるものを最大化する努力をしたいと思います。

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