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名前のない鍋、きょうの鍋

大きな器に水を張り、食材を入れ火を通す。このシンプルな調理法は古今東西、世界のどこに行ってもある。高級食材を使い、贅沢に出汁をとりたくさんの材料を入れて皆で食べるご馳走から、小さな鍋にお豆腐だけを温める常夜鍋もある。

この本は後者に焦点を当て、日常の鍋とそれを作る人たちを取り上げている。御馳走鍋はレシピが公開され、なんとなく「こうあるもの」と言うイメージがあるけれど、個人でこっそり作るなべは、実はこんなものを入れている、だったり、人には言えないけれど、こんなふうに食べている、といった驚きがある。そう、「目玉焼きに何をつけて食べる」の少し豪華版?

日々の献立で少しだけ残ってしまう食材を一気に使い切る週末鍋。小さいけれどしょぼくならないように、少し奮発した鍋を使って作る一人鍋。わざわざ出汁を取るのではなく、入れる食材(餃子、鶏肉だんご、かき)で旨みを出すことで手間を省いた鍋など、さまざま。

こうした鍋を作るのは皆、外食で済ますのではなく、作る時間、思い出の味の再現、もしかしたらこうしたら美味しんじゃないかと言う好奇心と、様々なものを大事にしているのだとわかる。

つけダレも大切な所。これも、個人の好みの分かれるところ。ポン酢、黒胡椒、ゴマだれ、柚子胡椒、ナンプラーなど、少し味変できること、人ごとで好みを調節できるところも、鍋の楽しさを広げてくれる。個人的にはゆずポン派。

口にした箸で鍋を突くのが気になる人もいて、そのために鍋用の菜箸を用意するようになったり、コロナのせいで、そもそも一つの鍋をみんなでつつくと言うことがやりにくくなった。が、「同じ釜の飯を食う」と言う表現があるように、同じ場所で、同じものを食べると言う体験は、人のコニュニケーションの基本だからこそ、古来から続く料理として残っているのだろうと思う。
これからリモート鍋なるジャンルが出てくるだろうか?物理的に離れた人とのコニュニケーションとして成り立つ?でも、鍋奉行は成立しないな。しかも、同じもの食べるとなると食材の調達しやすいレシピじゃないと難しい。海外の人も含めるとこれは難易度が高い・・・・

と、気温30度を超える真夏に鍋の本を読んでみた。暑いからといって冷たいものばかり食べると体に悪い、暑い中熱い鍋もおいしそうだ。

街歩きがさらに楽しくなるものがあるといいな