2024 J1 第38節 ガンバ大阪 × サンフレッチェ広島 レビュー

スタメン

 ガンバは勝利した新潟戦とベンチ含めてまったく同じ顔ぶれ。一方の広島は大勝した札幌戦からセンターフォワードのみを変更。ゴンサロ・パシエンシア→ピエロス・ソティリウ。パシエンシアはミッドウィークのACL2東方戦にも先発出場していたためコンディションを考慮したのかもしれない。



レビュー

 東方戦のサンフレッチェは完全ターンオーバーを敷いていたためコンディション面に大きな問題はなかったはずだ。ただ中2日となると問題になるのはゲーム戦術の方。ゲーム戦術を落とし込むための時間はほとんど取れていないだろう。

 何が言いたいかというと、このゲームではガンバとサンフレッチェの「準備の差」が大きく出ていたとみられる。ガンバは攻守に明確なゲーム戦術を持ち込んでいたがそれに広島が対応できない時間が続いていた。

 ガンバのセット守備において気になったのはウイングの配置。前半戦ではウイングを落として広島の大外アタックに対応していたガンバだったが、今節ではウイングはWBではなくCBを見て、SBがWBを見る作りになっていた。ただウイングはCBが見るとはいってもむやみにプレスを掛けに行かずパスコースに制限をかけるスタンス。

 もう一つ気になったのが坂本一彩と山田康太の関係性。この2人は2トップ気味に横の関係を保ってプレスをかけにいくことが多いが、この試合に関しては坂本が前・山田が後、という縦関係を示すシーンが多かった。坂本がプレスのスイッチを入れ、山田は何をしていたかというと中盤のパスコースの制限。坂本のプレスで広島のCBがサイドに誘導される→ウイングと山田で手前のパスコースを消す→ロングボールorリスキーな縦パスに追い込む、といった守備のサイクルを想定していたのだろう。広島はCBを引き出すポケットへのアクションを頻繁に見せたが、山田が中央のカバーに入ってくれるのでボランチがCB-SB間のカバーに入りやすく、CBもボランチのカバーを見込んで迷いなく迎撃に出れるデザインになっていた。

 仮に蹴らされたとしてもロングボールに強みがある広島。空中戦のシーズンスタッツを比較するとガンバの47.6%に対して広島は53.1%(Sofascoreより)。能動的に蹴られればかなりの確率で後手に回っていたはずだが、準備が整っているのであれば話は別。中谷・福岡・ダワンといった選手がボールを弾き返すシーンが何度も見られ、データ的にもこの試合のガンバの空中戦勝率は56%(参照:同上)と広島を上回っている。特に福岡は空中戦に限らず印象的なインターセプトを何度も繰り返していた。

 福岡-黒川の左サイドは空中戦で見ればウィークポイントだったはずだが、逆に言えば中野が高い位置を取ればウェルトンが加速するスペースが生まれる。前半はウェルトンと塩谷のマッチアップがスタジアムを沸かせたが、これもこのオーガナイズにおいて考慮されていたとみられる。

 保持面では後半戦取り組み続けてきた誘引型のビルドアップが効果を発揮していた。点を取りたい広島は両ボランチを動員してGKまでプレスをかけにくるが、そうなると一森のミドルパスが刺さる。更にその効能を最大化させていたのがここに来て凄味を増してきた坂本一彩の存在。スペースに出てくるタイミングとプレスの逆を取るファーストタッチが素晴らしく、リーグ屈指のセンターバックを揃える広島に五分のデュエルでも当たり負けせず前線の橋頭保として機能していた。加えてこの日の坂本は宇佐美が乗り移ったかのようなパスを何本も放っており(24分のロングパスは白眉)、得点以外の面でもガンバの攻撃陣を牽引していた。

 19分・20分と立て続けにビルドアップのミスからピンチを招くが、それでもやり続けるだけのメンタルの強さが今のガンバには備わっているようだった。地上戦に固執しないリスク回避のロングボールも考慮されているのがポヤトスのチームではあるが、この試合のガンバの選手たちはいい意味で簡単にボールを手放すシーンが少なく一人ひとりがボールをキープする時間が長かった印象。広島のプレッシャーをプレーキャンセルを繰り返していなしながらじっくりと前進していくシーンが目立った。

 広島は30分ごろからトルガイがビルドアップのサポートに入る回数を増やしアーリー気味の対角へのクロスボールやセットプレーからチャンスを作るが、一森のセーブなどで粘り強く対応する。




 後半も試合の展開としては大きくは変わらず。広島は得点を決めなければいけない焦りからかプレーが直線的な印象があった。流れが変わったのは60分のゴンサロ・パシエンシア、中島洋太朗の投入から。中島は投入直後のトラップなどプレスを外す、パシエンシアは高さと強さでボールを収めるなどどちらも広島のプレーの方向を変えられる選手で、彼らの投入からモメンタムは広島側に流れていく。70分の加藤のゴールがその流れを決定的にしたかとみられたが、VARチェックによりオフサイドの判定に。この場面ではトルガイを潰しにいった中谷の戻りが中途半端になっており、スタジアムで観ていても「危ない!」と感じる部分だった。そこをしっかり潰しにくる広島の精度は流石で、ガンバは判定に救われる形となった。

 焦りの色が更に強まる広島とゆっくりプレーするガンバの対比が鮮明になるなか、81分にセットプレーからガンバに追加点。鈴木徳真のキック・ダワンの頭での折り返しに合わせたのは中谷。試合展開を踏まえればガンバが決定的な2点目を得る。88分には広島の守備陣を左右に振り回して3点目。バランスを崩して攻める必要があった広島の状況は考慮されるべきだが、美藤の運び、黒川のインサイドでのプレーなど、恐らくシーズンを通して各選手が向上に取り組んできたであろうプレーがゴールに結実する形となった。最後に坂本に二桁得点のボールがこぼれてきたのは、この日圧倒的なプレーを見せていた彼に対するサッカーの神様からのご褒美だろう。

 決定的なリードを得てイケイケになったところでカウンターからクリーンシートを逃すのはご愛嬌。ただこの失点で町田ゼルビアと並んでのシーズン最少失点の座を逃してしまった。現地で観ている筆者ですらめちゃくちゃ悔しかったので、ピッチの中にいる守備陣はもっと悔しかったに違いない。この詰めの甘さは来シーズンの宿題になるはず。強敵相手の最終戦を完勝で締め、ガンバはシーズン4位でのフィニッシュ。




まとめ

 冒頭に「準備の差」と述べたが、ACL2の出場が見込まれる来年は今年の広島の立場にガンバが置かれる可能性は高い。つまり来年は個別対策のゲーム戦術に限界が出てくるはずで、戦略段階で相手を上回っている状況を作らなければならないことになる。立て直しに成功した今シーズンの結果を踏まえてそこから更にどうチームを強くしていくのか、妥協のないオフシーズンの取り組みが求められそうだ。



 さてこれにてリーグ戦のレビューは全38節を完走(1節すごく怪しいのがある気がしますが忘れました)。天皇杯決勝はレビューできてないんですがfootballistaにあまりに濃密なレビューがupされてしまったので正直もう書く気力ありません。ごめんなさい。ほぼ休まずに筆を執れたのはレビューを書きたくなるゲームを毎試合演じてくれたチームのおかげです。本当に1年お疲れ様でした。そして読んでいただいた皆さんもありがとうございました。せっかくの濃密なシーズンをアーカイブしておくためにも、これから個人レビュー・シーズンレビューなど書ければなと思っています。期待しすぎずお待ちください~。



ちくわ(@ckwisb

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