2024 J1 第36節 ジュビロ磐田 × ガンバ大阪 レビュー

スタメン

 ガンバは天皇杯準決勝から1名のスタメン交代。負傷交代の山田康太がベンチ外となり、代わって入ったのは劇的ゴールの立役者である坂本。顔ぶれが変わったのはベンチ。ジェバリ・アラーノが負傷から復帰してベンチ入り、そして中野伸哉が9/22京都戦以来のベンチ復帰。

 ジュビロは完敗を喫した神戸戦から4名のスタメン交代。ボランチが上原とレオゴメスのコンビに、右のWBには松本昌也が入った。そしてシャドーを務めるのは渡邊りょうとクルークスのセレッソからの移籍組。プチ・大阪ダービーである。



レビュー

 序盤はガンバがボールを握りジュビロが構える展開が続いた。

ガンバ保持+ジュビロ非保持の際の基本配置

 ガンバがボール保持において活用していたスペースはジュビロのシャドー周り。ジュビロはミドルプレスの際はDFライン+5角形を形成する5-2-3のような形で守備を行っていた。この守り方の相手として思い出されるのは東京ヴェルディだが、ジュビロがヴェルディと異なっていたのはプレスの掛け方。ヴェルディがシャドーをCBにぶつけていたのに対してジュビロはCFのジャーメインがCBにプレスを掛けに行くことが多くなっており、シャドーは主にSBを観る役目になっていた。ヴェルディの守り方だとWBがSBをマークしに縦ズレし、それを受けて全体がスライドするので後方の同数を受け入れなければならない。ジュビロはリーグテーブルの状況を考えてリスクを取らない守備のプランを採用していたのかもしれない。

 そんなジュビロのプランに対するガンバの対応はSBとWGの2人を大外に立たせること。中央を固める意識の強いシャドーとSBの距離は遠くなっているので外で受ければプレスがかからない。そうなるとジュビロはWBを上げて対応したいが倉田が張ってWBを固定することでその手も打ちづらい。

 最初のプレスをズラすことができれば、あとは空いているところを使えばいいだけ。シャドーが動けばその背中の中央、WBがWGを捨ててくるのであればその裏、といった形で後の先を取って前進していくガンバ。特に前残りの傾向があるクルークスの周辺が前進の起点になっていた。

 左サイドを使って押し込んだところから得たコーナーキックでガンバが幸先よく先制……したに見えたが、倉田がオフサイドポジションでプレーに関与したとの判定でノーゴール。

 そこからようやくジュビロもペースを握ることができるようになる。ジュビロの前進はほぼロングボール。ジャーメインが流れてターゲットとなり、セカンドを拾ってサイド深くまで運んでクロス、といった形。セットプレーから半田のハンドを誘うも、こちらもOFRの結果ノーハンドの判定。

 守備ではガンバの狙いどころになっていたクルークスだが、攻撃では猛威を振るっていた。1対1→縦突破を見せる→切り返してクロス という定型のパターンで試合を通して何度も精度の高いクロスを蹴り込まれてしまう。クルークスの基本ポジションはシャドーだったが、このクロスの威力を最大化するためかジュビロは保持の際はWBを内側に走らせ、クルークスを右の大外に張らせる形をとることが多かった。

 先制点もそのクロスから。ミドルゾーンでのヘディングの応酬がジュビロ側に収まり、外に張っていたクルークスに届けてクロス。ガンバの選手にかすってズレたボールをダイレクトで捉えたのは渡邊りょう。セレッソコンビの活躍でジュビロがリード。

 しかし、試合構造が変わったわけではないのでボールを持てばジュビロを押し込めていたガンバ。ジュビロもクルークス周りをカバーするためにレオ・ゴメスの位置を上げたり、ハッサン・ヒルを迎撃に出したりと処置を施してはいたが、基本的には遅れてプレスに出るシーンが多かった。そうなると宇佐美のようなボールプレイヤーを御するのは難しくなる。

 押し込んでいくなかで獲得したセットプレーで追いつく。6分のゴールが取り消されたシーンではファーのダワンを狙ったが、ここではニアの半田。セットプレーのパターンが豊富になってきていることは、来る天皇杯決勝に向けてもポジティブな要素だろう。

 その後もガンバのモメンタムで試合は続き、前半9分となったアディショナルタイム終盤に試合は動く。一森が蹴ったロングボールのセカンドを宇佐美が拾い、レオ・ゴメスをボディフェイントで手玉に取る。そのままドリブルで運びながら切り返してカットインを見せながら意表を突くヒールキック。オーバーラップした黒川がフリーで受け、しっかり中を見て放ったクロスは大外の山下へ。山下のリーグ戦初ゴールはまさかのダイビングヘッド。相手の視野の外から飛び込めば、身体の大きさに関係なくフリーで合わせられることが分かるゴールだった。




 ジュビロは後半松本に替えて植村を投入。左サイドを蹂躙されていたのでそのケアを図ったのかもしれないが、後半もモメンタムは変わっていなかった。しかし47分にジュビロが決定機。ここでは宇佐美が戻れないところを全体でスライドしてカバーしようとしたが、運んで剥がされてSBの裏を使われてしまった。スライドして同数になってしまったので黒川はあそこまで出たなら潰し切らなければいけないシーンだったが、形が崩れていることを認識しているならあえて奪いに行かずにコースを切って時間を稼ぐ方針でも良かったように思う。失点が嵩みつつあるここ数試合。守備のディテールには課題が残っていそう。ただ、そうしたガンバの守備のエラーからでないとジュビロはなかなかチャンスを作れない状況でもあった。60分、ガンバのセットプレーの流れから半田のシュートがグラッサのハンドを誘いPK獲得。このPKを宇佐美が落ち着いて決め、2点差にリード。

 試合展開を踏まえるとセーフティリードかに見えたが、ここから「磐田の反撃」が始まる。ジュビロは70分に選手交代でCB伊藤・左WB松原を下げ、ペイショットと高畑を投入。CBの枚数を削り、4-4-2のような形に変更。ターゲットマンを増やしてクルークスをはっきり右サイドに張らせ、ロングボールからのスクランブルでチャンスにつなげようとしていた。

 この修正で起こしたカオスからジュビロは2点を追いつくが、急造の4-4-2ではプレッシングの振る舞いが整備されているわけもなく、ガンバには保持で「ボールを守る」余裕があったのも事実だ。ジュビロは同点弾の直後にがら空きの中盤を運ばれてガンバに再逆転を許している。同点に追いついたところで勝ち点1をもぎ取るプランもあったはずだが、あの展開でイケイケになってしまうのも無理からぬところだろう。

 改めて坂本のゴールを見返してみると、ジュビロのボランチは完全に動きを止めてしまっており中盤にはぽっかりとスペースが。そのスペースを見つけていち早くスプリントしてボールを引き取った美藤が運びながらグラッサを引き付けてジェバリへ、2人を引き付けたジェバリは優しいパスを落とし、坂本が落ち着いてゴール。全員の意図が噛み合ってスペースを繋いでいけた見事なゴールだった。鉄火場が続く終盤戦の中で、坂本や美藤といった若いタレントが台頭しているのは本当に頼もしい。

 その後も脳震盪疑いによる福田の交代などのアクシデントはありつつも(脳震盪ルールによる6人目交代は初体験?)、ボールを守りながら時間を進めていったガンバ。最後のセットプレーでは相手GKの川島もエリア内に入ってきたが何とかしのぎ切り、公式戦5戦負けなしの3連勝とした。



まとめ

 2点差を追いつかれたことを考えれば拙い試合運びだったことは間違いないのだが、相手を見ながら後の先を取っていくところなどチームの成熟を感じる部分も多く、なんとも不思議な後味の試合だった。終盤の2失点については降格が目前に迫る相手の底力をリスペクトすべきなのかもしれない。

 札幌戦・名古屋戦・天皇杯横浜戦・ジュビロ戦とここ5戦で4回もの劇的逆転勝利を果たしているガンバ。長いリーグテーブルのことを思えばもうすこし安定して勝ち点を積む試合を観たいところだが、もう今シーズンは残り3試合なのでこのまま最後まで走り切ってもらいましょう。しかし、ヤマハの画角は横パスが映えますね。一度は足を運んでみたいスタジアム。

 次は天皇杯決勝。現地でお会いしましょう!




ちくわ(@ckwisb

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