「建築家宮本恒靖」2020 Jリーグ第1節 横浜F・マリノスvsガンバ大阪
皆様こんにちはちくわです!ようやくJリーグ開幕ですね。先週はルヴァンカップでしたがやはりJリーグの開幕は一味違います。DAZNの中継デザインもお色直しされてて、新生活が始まった時のワクワク感があります。春ですね。まだ全然寒いけど。
ガンバが開幕戦を戦う相手は前年王者横浜F・マリノス。「全然勝てない日産スタ」「全然勝てない開幕戦」「対戦相手は優勝チーム」(いい感じに韻踏みながら読んでね)と三重苦からスタートした開幕戦ですが、結果は2対1でガンバの勝利。
昨年終盤、圧倒的な強さを見せて優勝した王者マリノス。試合開始前は期待よりも不安が大きかったですが、キックオフの笛が吹かれてからは時間とともにチームの戦いに勇気づけられていくような90分でした。早速振り返っていきましょう。
スタメン
マリノスのスターティングメンバーはミッドウィークに開催されたACLとほぼ同じ。GKのみ、ACL限定の外国人枠の影響で登録外になっていたパクイルギュが入っています。中3日とはいえホームでの連戦ですし、ターンオーバーという対応は取らないという判断だったのでしょう。
ベストメンバーをぶつけてきて、やるサッカーの形も昨年と大きくは変わらないであろうマリノス。というわけで、マリノスのサッカーをイメージしやすくするために、わかりやすくまとめていただいている記事を以下に引用させていただきます。
(横着をしているんじゃない。俺は巨人の肩に乗ってるんだ)
対するガンバのスターティングメンバー。まず気になったのはフォーメーションが読めないところでしょうか。スタメン発表直後は4バック?3バック?と頭を混乱させるサポが多かった印象です(私もその一人)。
ルヴァンカップでスタメンだった福田と新里がベンチに回り、代わって入ったのがヤットとFC東京から復帰した前節ベンチ外のオジェソク。
ルヴァンカップで存在感を見せたヤットはともかく、ここまで音沙汰なかったオジェソクの起用には驚きました。しかし、彼の起用は宮本監督が敷いたマリノス対策のキーポイントでもありました。
ガンバの2つの顔
ところで、私は宮本監督の長所は"彼我のパワーバランスを見極めた上で、的確なゲームプランを引ける"部分だと考えています。言い換えればキャスティングがうまい、プランAはしくじらない。今節ではそんな宮本監督の長所が遺憾なく発揮されていたと感じます。
宮本監督は、前年チャンピオンをしっかりリスペクトしたゲームプランを作ってきました。マリノスにボールを持たれることを前提に、ボールを持たれる位置によって「2つの顔」を使い分けていました。
まずはマリノス陣内。ここで出てくるガンバの顔は「勇猛果敢なプレッシング」。
癖なのか、狙いなのかは分かりませんが、マリノスの攻撃は左サイド偏重のきらいがあります。そのため、左サイドの伊藤とティーラトンがビルドアップの起点としてボールを保持する時間が長くなります。
この位置に宮本監督が配置したのが小野瀬と矢島。この2人、昨年は色々な使われ方をしましたが、どこで使われてもタスクを理解して表現するのが抜群にうまかった選手たち。
そんな彼らに宮本監督は重要なタスクを渡しました。それは「プレッシングのスイッチを入れる」こと。タスクを理解し、判断する力に長けた2人が相手の状況を見て的確なタイミングでプレッシングをかけることで、マリノスの選手たちから選択肢を奪っていきます。
その2人を後ろで支えるのが、井手口・ヤットのコンビ。井手口はその圧倒的な守備範囲、ヤットは長年の経験を活かした読みの速さで2人が狭めた網に追い込みをかけていきます。
マリノスのビルドアップ隊を狭く狭く追い込み、高い位置でボールを回収して攻撃に転じる。先制点はそんな流れからのゴールでした。
一方、マリノスに中盤までボールを運ばれた際のガンバの顔は「強固なブロック」。5-4-1の守備ブロックに移行し、分厚く人を並べて中央のパスコースを消します。
結果、外へ外へと誘導されていくマリノスの攻撃。ここ数年、ガンバ戦での活躍が印象深い遠藤渓太にボールが渡ります。ここでこの日スタメンに抜擢されたオジェソクが利いてきます。アジリティ高いドリブラーの対応に慣れているジェソクは安易なアタックをせず、陣形が整うまでディレイ。
抜かれても常にカバーリングがある状況を作り、マリノスのストロングポイントであるウイングのアイソレーション(1対1)からのチャンスメイクを極力機能させないように試みます。
そのほかにも、ティーラトン・松原の中に入る動きには矢島・倉田が対応、頻繁に顔を出すマルコスには数的優位のDFラインから人が飛び出して対応、仲川にはべったり藤春がついて使わせない、などの仕込みもあり、徹底してマリノスの良さを消しにかかったガンバ。
ボールを奪えれば、ロングボールをCB脇に蹴ります。マリノスが敷くハイラインの裏には広いスペースがありますが、宇佐美1人で走り勝つのは難しいはず。どちらかといえば滞空時間の長いボールを蹴って陣地回復し、先述のハイプレスの形に移行することを目的としていたと思います。
敵陣でプレス⇒自陣でのブロック守備⇒ロングボールで陣地回復⇒敵陣でプレス……というサイクルで、五分以上の戦いを演じていくガンバ。
とはいえ、当然全てがうまくいっていたわけではありません。プレスを剥がされたり、ルーズボールが相手に渡ったりなど、「局面の移行中にできたオープンな状況」からボールを運ばれ、チャンスを作られることも多々ありました。
そうしたオープンな状況で輝くのがマルコス・ジュニオール。各誌報道で報じられている「ヤットの直談判によるポジション変更」は、このマルコスの振る舞いが気になってのものだったと思います。
「横によく動くので、それに付いて行ったらスペースが空く。最初は(マルコス・ジュニオールを見るのが)僕だけだったんですけど、(井手口)陽介もいたほうがいいという形になって監督に了承を得てシステムを変えた」
システム変更の影響か、マルコスのボールタッチ位置は下がっていき、チャンスメイクへの関与を少なくできていたように感じます。
統率されたチームだからこそ
ガンバの2点目はセットプレーが起点。CKのクリアを回収した藤春のバックパスに反応してラインを上げるマリノスDFラインの裏に東口がロングボールを蹴りこみ、2列目からの飛び出しでオフサイドを免れた倉田の折り返しに合わせた矢島のゴール。
(グラウンダーのミドルって思わず溜息が出る。ふつくしい)
これもガンバとしては狙っていた形だったと思います。セットプレー後にラインを上げるディフェンダーの裏を突くボールは、試合冒頭の三浦の決定機など再現性がありました。
1点目・2点目のどちらも、マリノスの統率された動きを逆用した結果生まれたものでした。強いチームは統率されているものですが、「統率されているからこそ動きの法則性が掴みやすく対策も立てやすい」のもまた真だと思います。
ガンバとしては、「自分たちのやり方」にこだわるマリノスに、「対策の対策」を作られる前の開幕戦で当たれたのは幸運だったと思います。
交代カードに込めるメッセージ
後半からガンバは割り切って守るようになったのか、前半と比較するとプレッシングの開始位置が下がります。4-4-1-1で中盤に厚く人を配置し、ミドルサードでボールを奪おうとするガンバ。
ただ、ボールを奪った時の出しどころには課題がありました。前を向いてもコースがないので、チャレンジングなパスを出して奪われ、相手が望んでいるトランジションの局面を作られていたように思います。
奪った後は一旦戻して、ビルドアップをやり直してみても良かったように思います(マリノスのプレッシャーを搔い潜らなければならないので、なかなか難しい要求ですが)。
得点が欲しいマリノスはエリキ投入で扇原アンカー、マルコス・エリキがトップ下の4-1-2-3に変えてきます。マルコスがビルドアップを助けるために左の深い位置まで下がってくることがあったため、バイタルへの圧力を強めるための変更だったと推察します。
アタッキングサードでの怖さは増した一方、前がかりの選手が増えるので裏を取ればカウンターで有利な局面に持ち込めるようにもなります。
攻撃時には高い位置を取る松原の裏を起点にできていましたが、疲れからかなかなか攻めを完遂できないガンバの攻撃陣。シュートを打てずにターンオーバーされ、次第にブロックが間延びしていきます。
ティーラトンに替わって入った高野の投入も利いていたと思います。ガンバは徐々に4-4-1-1から5-4-1への変換がままならなくなり、場合によっては5-3-1-1のような形になることもありました。そうした中で空きがちになる小野瀬-オジェソク周辺のスペースをうまく使っていたのが高野でした。
1点差に迫られたゴールは、上記の流れでバイタルエリアの管理がおろそかになった文脈から。正直、マルコスでなければ決まらなかったスーパーなゴールだったと思いますが、選手交代を経て「サイドを経由して空いた中央のスペースを使う」という意識を持ち直したマリノスの対応でこじ開けられた1点とも言えそうです。
この日見せ場が少なかったオナイウが最後まで使われることになったのも、中央でマーカーを引っ張ってスペースを作る動きを最後まで勤勉にやってくれるという見立てがあったからだと思います。
失点後にガンバが切ったカードは、矢島に替えてアデミウソン。ブロックの組み方を改めて5-3-2ではっきりさせ、かつ、前で時間を作ってもらう意図の交代だったと思います。
ですが正直この修正はそれほど機能していませんでした。原因はアデミウソンのポジションにあったと思います。交代直後は右にポジションを取っていましたが、左偏重のマリノスのビルドアップ隊とぶつかる形に。
結果、周りに人が多くスペースの無い状況でアデミウソンにボールが渡ってしまい、奪い返されるということが多かった。ハイプレスを機能させられなくなった以上、本来であれば攻略したいのはマリノスの右裏のスペースだったはず。
倉田⇒福田、宇佐美⇒渡邉千真と、逃げずに前で時間を作ろうというメッセージを出していく宮本監督でしたが、マリノスの圧でなかなかボールを前進させられず。
交代カードで明確なメッセージを出しチームを改善していったポステコグルー監督とは対照的に、なかなかモメンタムを引き戻せない宮本監督。カードの切り方、というか交代カードを介してどうメッセージを伝えるのかは、引き続き宮本監督の課題になってきそうです。
それでも最後には三浦をはじめとしたDF陣が体を張り続けます。最後に遠藤渓太にきわどいシュートを打たれますが藤春がゴールラインで防いでクリア。最後まで守り切りガンバの勝利で試合終了。
まとめ:「建築家」宮本監督と"Tier2"のサッカー
最後は冷や冷やものでしたが、総じてゲームはガンバのコントロール下にあったと思います。「建築家」宮本監督の面目躍如といったところではないでしょうか。
「建築家」って二つ名は今僕が付けました。精度の高いゲームプランを組める!というリスペクトの気持ちと、建てた後の運用中に想定外の事象が起きた場合の対応まではなかなか………というご愛嬌が混ざった良い二つ名だと思いませんか?どんどん使ってくれて大丈夫ですよ(良い建築家は想定外まで考えて作るとかいうマジレスはご勘弁ください)。
ゲームプランのとっかかりが作りやすい、型のはっきりした相手だと宮本監督の強みが出しやすい一方で、「対策」の寄与する範囲が小さい試合をどうこなせるかが宮本監督の課題なのかな~と思ったりもしました。試合結果が選手のメンタルに左右されやすいのもその辺に要因があるのかなと。
勘違いしちゃいけないのは、チャンピオンを倒したとはいえ、あくまで"Tier1"のマリノスを徹底的にメタった"Tier2のサッカー"だったわけですよ(オンゲー用語)。マリノスがたまたまTier1のサッカーに胡坐をかいてる時間が長かったからなんとかなっただけで(オタク特有の早口)。
自分たちのゲームプランを信じ、完遂し、前年のチャンピオンに勝ち切った今日の結果は間違いなくチームの自信になったと思います。
が、「強いガンバ」を求めるサポーターの1人としては、できればガンバには常にトップメタで、Tier1でいてほしい。色々あって次の試合はだいぶ先です。ケガ人も戻ってくるでしょう。Tier1のサッカーをガンバが作れるかどうか、次の試合にも期待したいと思います。
雑談BOX
・ま、ツネ様の見た目は圧倒的にTier1やけどな!
(ガッツポーズの瞬間、江口洋介かと思った)
(ツネ姉様方の嬌声が画面の向こうから聞こえてくる)
ちくわ(@ckwisb)
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