駄菓子屋で泣いた21歳の夏 #2
葉で隠された入り口の扉。人の気配もまるで無い。幼かったあの頃、おじちゃんが綺麗に整備していたあの頃を思い出すと、手入れすらされていないその入り口をみるたけでなかなか心が苦しくなる。けれど、「もう空いていない」という確信はなかった。だから、扉を開けようと思った。
東京で買ったおしゃれな服を着ていたけど、それを汚してでも草木をすり抜け、駄菓子屋の扉に手を伸ばした。右腕についた蜘蛛の巣を振り払い、ガラス張りの扉を左に押す。しかし、開かない。店内の様子はガラスの汚れでよく見えないが、人の気配は感じられない。
「これはもう閉まっているのか。」
しかし、ずっと左に力を入れていた扉が急に、耳を塞ぎたくなるような金属音と共にスライドした。砂が詰まって開きづらくなっていただけだったっぽい。
こうして約8年ぶりに足を踏み入れた思い出の駄菓子屋。しかし、店内のレイアウトは恐ろしいほど変わっていた。
昔は、扉を開けてすぐ右に冷蔵庫があった。そこに、瓶のコーラ、瓶のジンジャーエール、瓶のオレンジジュースが売っていた。全て1本90円。まずこれを片手に、「とりあえずビール」的なノリで奥にいるおじちゃんのとこへ。そして、10円のお釣りを受け取り、友達同士で乾杯。夏の暑い日に喉を通るジンジャーエールのあの刺激を、私は今も忘れることは出来ない。
しかし、もう冷蔵庫の姿はない。そのスペースは物置のようになっていた。店内に入っていき、冷蔵庫の隣にはアイスが入った冷凍庫が。冷凍庫の中にはアイスが入っていた。冷凍庫の扉にアイスの値段表が。それを見て、この駄菓子屋がまだかろうじて稼働しているということが分かった。アイスの値段はどれも、あの頃から30円くらい高くなっていた。
冷凍庫の隣には、大きな3段くらいの棚がある。昔はここにいろんな種類の駄菓子が置いてあった。昔はまるでお宝探しのようにその棚を見ていたものだ。しかし、棚の上にはもう何もない。ただの大きな棚。当時のお菓子の並び順まで鮮明に覚えている私にとって、どこか胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
木材でおじちゃんが手作りした椅子や机も、店内のど真ん中でみんなが宴会のように盛り上がれるセットだったのに、端の方に追いやられていた。
全てが切なくなる。けれど、どこか懐かしくて嬉しいような複雑な感情に自身も困惑していたら、店の奥の奥の方から物音が聞こえてきた。人の気配。
出てきたのは、弱りに弱った様子で歩くのがやっとの老婆だった。
#3へ続く。
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