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【6月号 特別企画】大会場はあなたの中に…妄想プロレス観戦記その3 掟ポルシェ【コラムフェスティバル②】

世界中が未曾有の事態となったコロナ禍にあって、それまでに再びブームとなって活況を呈していたプロレスも大会開催の自粛、中止を余儀なくされた。「ステイホーム」が叫ばれ、プロレスファンは家で過去の動画を観てプロレス欲を発散するしかない日々が続いた。しかし、もう我慢できない。
プロレスが観たい。
今回の「コラムフェスティバル」は、執筆者の頭の中で繰り広げられたプロレスを、活字で展開するものである。
第3回は、TV Bros.連載陣の掟ポルシェが執筆。第2回までの正統派とは明らかに一線を画すプロレス観を持つ彼だからこそのファンタジーが、今ここに現出する。
今回は特に強く断っておくが、本企画は執筆者の「妄想」であり、「ファンタジー」である。

文/掟ポルシェ

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<プロフィール>
掟ポルシェ(おきて・ぽるしぇ)●1968年北海道生。'97年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド『ロマンポルシェ。』のVo.&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』他、8枚のCDをリリース。音楽活動の他に男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも多数執筆。著書に『男の!ヤバすぎバイト列伝』『豪傑っぽいの好き』『出し逃げ』『説教番長 どなりつけハンター』『男道コーチ屋稼業』等がある。その他、俳優、声優、DJ、アイドルイベント司会等、活動は多岐に渡る。


こういうのが見たかった
W★ING再々旗揚げ戦


茨城清志がバイトする群馬県伊勢崎市のコンビニのバックヤードでは、日夜人体実験が行われていた。ウルトラ科学者・尾内淳博士によるウルトラ心霊手術により、地元の水道屋(島田宏が経営)のガタイのいいあんちゃんをガラ攫ってきてノー麻酔で頭蓋骨をこじ開けてビクター・キニョネスの脳を移植しようと試み、今日もウルトラ大失敗。茨城清志の夢はW★INGの再興であり、そのためには是が非でも名マネージャーにしてプロモーターのビクター・キニョネス復活が必要と考えたのである。

尾内淳博士はタイのチャイヨー・プロダクションから医師免許と調理師免許を2000バーツでセット購入した医学博士である。なので、手術は常にフィーリングでこなしていた。茨城に命じられてなんとなく脳移植に着手してみたのだが、医学知識が「サロンパスは貼るやつとスプレーのやつがある」ぐらいしかない尾内博士にはまぐれであろうと成功の余地は一欠片もなかった。1カ月が過ぎ、島田宏の水道屋にはもう若者がいなくなった。若者が突然現場に来なくなるのはよくあることとして、捜索願を出されなかったのはラッキーだった。

「そろそろ出来た?」と廃棄弁当を3つ平らげた茨城清志が言うので、条件反射的に「出来ましたぁ」と返事してしまう尾内博士。茨城は真・大宮スケートセンターでの再々旗揚げ戦を見切り発車的に決めてしまい、既に大宝リングアナに近隣のマイナー系コンビニを中心に割引券を置かせていたのだ。尾内淳博士は思った。
「あれやるしかねえか……」

その昔、SGPの旗揚げ数日前、対戦相手のゼットンのレスラーの中身に困ってどうしようもなくなり、柔道やってる近所の中学生を「この子ゼットンにします!」とでっち上げて関係者全員の度肝を抜いたことがあった。尾内淳博士のいう「あれ」とはそれのことだ。というわけで恰幅のいいヒゲ長髪のプエルトリカン着ぐるみを作成、ダブルのスーツを着せれば、あっという間にビクター・キニョネス復活。多少のVシネ感も欲しかったため、頭に余ったスカパーのアンテナをくっつけて少しメカっぽくしておいた。これで「手術しましたよ」感も出ているだろう。これで死んでいった島田宏の水道屋の若者も浮かばれるんじゃないかなぁと思いながら、くり抜いて不要になった頭蓋骨を利用して作った灰皿でタバコの火を消した。
「中身は……また柔道やってる中学生適当に見繕って入れとくか。アポロ菅原さんに頼んだらまた怒られそうだし」
尾内淳博士は、ちゃんとした大人からの説教を何より恐れている。


そして迎えたW★ING何度目かの旗揚げ戦当日。真・大宮スケートセンターにはどうしようもなく酷いものが見たくて集まった中高年男性の群れ。どこを見回してもハゲ白髪ハゲ白髪。現代のプ女子が入り込む隙など1ミリたりともない完璧に腐ったマンズ・マンズ・ワールド。ちゃんとした試合なんかしたら許さねえ! という歪んだ気持ちを抱えた死んだ目の紳士たちは、この日のために仕入れたカールのチーズ味と、ダーティ大和の露店で買ったレモンサワーで試合開始前から出来上がり、便所で軽く吐いていた。

旗揚げの挨拶は茨城清志、のはずだったが、どこにも姿は見えない。うっかり会場に姿を現したが最後、借金取りに拉致されることは会場にいる客の誰もがわかっていた。なので、リー・ガクスーの親父らしき人物が出てきて適当になんかしゃべって終了。W★INGに関係ないが、客席は「親父だ!」「親父単体だ!」「すげえ!」と盛り上がったので問題なさそうだった(リー・ガクスー本人は地元で経営するプルコギ屋が忙しいため来ない)。

第1試合。聞き覚えのあるユーロビートの曲が流れてくる。徳田だ! 徳田光輝の入場テーマだ! W★ING同窓会的なイベントでもことごとく呼ばれずしばらく姿を見なかった徳田の登場か!? と色めき立つ客席。そこで運ばれてきたのはコンビニの冷凍ボックスに入った冷凍状態の徳田光輝。見ないと思ったら面白半分で平成6年からずっと冷凍保存されていたのだ。冷凍状態で無言のリングイン。大宝リングアナがマイクを持った。

「えー、冷凍人間デスマッチをやろうと茨城が言いましたので、徳田選手を長年に渡って冷凍いたしておりましたが、団体崩壊やらなんだでその存在をずっと忘れておりました。で、今日試合があるって言うんで前日から水道水をかけてちょっとずつ溶かしていたんですけども、ご覧のように、えー、解凍間に合いませんでした。本日ここに来ていない……茨城も、『冷凍人間なんてそんなことできるわけないよね!』と申しておりました。なので、この試合、徳田選手の不戦敗といたします!」

対戦を予定されていた覆面太郎(4代目・中身はミスターデンジャーのバイトの学生)の不戦勝が告げられた。冷凍状態の徳田はそのままロビーに放置。来場客にメチャメチャ撮影され、格好のインスタ映えを提供した。

第2試合は女子プロレス。関綾子VSキラー岩見。腰に巻いたロープでマイクロバス(中には角掛とブッタマンが乗ってる)を引っ張りながら関綾子入場。1990年代末、全女の道場で大量の弁当を食って「気持ち悪い、気持ち悪い」とずっと言っていたかと思うと全部吐いてしまい、恥ずかしくて翌朝脱走したままになっていた関綾子が帰ってきた! 大好きな葛西純のTシャツを着用、脇をカポーンと鳴らし気合十分。対してキラー岩見は頭に大魔神のようなカチューシャをつけ顔面を深緑色に塗り原人化した状態で登場(本人が本気で嫌がったため当時2回ぐらいしかやらなかったスタイル)。意味不明の言葉を発し暴れてどうしようもないため首に鎖を繋がれ、その鎖をナース中村が持って制してなんとかリングイン。

試合開始のゴングとともに関綾子はマイクロバスに乗り込み、キラー岩見を軽く轢く。かつて当たり屋としてならしたキラー岩見は激しくのたうち回り、痛がり方が堂に入っている。地元で「示談の岩見」として名を成しただけのことはある。関綾子はバスのカーステで葛西純の入場テーマ曲であるココバットがカバーしたバージョンの「DEVIL」を大音量でかけて絶好調。♪ウォー! オオオー! オオオー!! と一緒に歌いながら葛西純への熱い思いを新たにし、もう1回岩見を轢く。流石にピクリとも動かなくなるキラー岩見。これはマズイと叩き起こし、気付けのブスコパンを注射するナース中村。が、間違えて馬に打つ興奮剤のアンナカを馬に打つ分量でぶっこんでしまう。

「へdbkysfdbcjDSGV<cjNDSZKxcbっvcfcfvgyhb―!!!!!!!!」
大声で意味不明の言葉を叫びキラー岩見は絶命。関綾子がスクランブルバンクハウスデスマッチ(公認凶器はバス)で復帰戦を勝利で飾った。5分14秒、フィニッシュホールドはバスでの体当たり。

第3試合でもうメインイベント。大宝リングアナから「まずはスクリーンにご注目下さい」とのお知らせが。そこにはギリシャ彫刻のような後ろ髪の長い不思議な長髪+ヒゲ+サングラスで葉巻をくわえた男を模した着ぐるみが映っていた。

「俺ダヨ、ビクターダヨ、キニョネスダヨ」
明らかに日本人が悪ふざけでやっているようなインチキ外国人風スピーチを始めた真・キニョネス。頭の上に乗ったスカパーのアンテナが、タイガーマスクに出てくる虎の穴の刺客Mr.NOの頭部のようにコックッ、コックッと動いてとても鬱陶しい。
「ビクター・キニョネスカラノ“オ祝イ”ダヨ… W★ING復活ダッテナ」

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お祝いの言葉が、週刊プロレス1000号記念の紅夜叉の表紙の文言をトリビュートしたらしいのは地味すぎて誰も気付かなかった。誰もが失笑した、次の瞬間。
「ズゴーーーーンッッ!」という巨大な爆発音とともにカワサキZ2に跨り手に持った日本刀でスクリーンを切り裂いて、恰幅のいいダブルのスーツでキメたプエルトリカンが入場。キニョネスだ! ビクター・キニョネスが帰ってきた!

「(以下プエルトリカンイングリッシュで)FUCK―――ッッ! バーローテメェ、W★ING復活だっつうから来たけどよ、さっきから徳田みたいなのしか出てこねえじゃねーか! 元W★INGの奴等、どうせイバラギがやってっからギャラ未払いだと思って誰も来ねえんだろ!」
一見キニョネスに見えないこともないその男、島田宏の水道屋にたまたま入ってきたパートのプエルトリコ人だった。金髪の催眠術師川上剛史に催眠をかけてもらったところ、いい感じに自分がビクター・キニョネスだと思い込んでいるようだ。
「ていうかイバラギどこだ!? 借金取りに捕まんの恐れて来ないと見せかけて、売上持ち逃げする気でどこかにいるんだろ!? おい、出てこいよイバラギ!!!」

その時、突然の暗転。ASIA『THE HEAT GOES ON』が鳴り響く。ザ・コブラのテーマだ! 照らし出されたスポットライトの下には若い頃の2.5倍の体重で下を向き何かから逃げるようにいそいそと入場するザ・コブラの姿が。一緒に茨城清志がマネージャーとして帯同しているが、やはり何かに怯えるように辺りをキョロキョロ見回しながらリングイン。茨城がマイクを取った。

「私は! 茨城清志ではありません!」
誰がどっからどう見ても茨城清志だった。
「茨城清志は死にました! なのでいま皆さんが見ているのは茨城の霊か何かです! 霊だから借金は払えません! しかし! W★ING復活は私の使命です! ですが、えー、昔のW★INGのレスラーがですね、えー、何故か誰も出てくれないみたいなので、新エースを呼びました! ジョージさん、お願いします!」
うつむいて誰かわからないようにしているザ・コブラがかぶせるように
「わ、私はジョージではない!」と強く断言。
「コブラだ! 決してジョージではない!」と念を押してマイク。対戦カードが未発表だったのは、ジョージ高野が借金取りが来るのを恐れて止めていたのだ。覆面を被り下を向けばなんとか行けるだろうという心づもりがバリバリにわかってしまうため、客からも「ジョージ!」と声援が飛び、その度「ジョージではない!」といちいち応酬。こういうのを求めていた客たちは(今日来てよかった)と思っていた。

「お前らがイバラギとジョージ本人なのかは借金取りがその場その場で判断する! ていうか俺もW★INGの新エース連れてきたぜ! カモン!」
キニョネスの呼びかけで会場が一瞬暗くなると、「ターミネーター2」のテーマが鳴り響く。スーパー宇宙パワーの入場曲! 中の人が木村浩一郎なら確かにW★ING縁のレスラーだが、一体今日は誰が中に? 照明が点くとそこには丁度ウルトラマンロビンと同サイズの宇宙パワーが。小さい、あまりにも小さい。そしてあの指にハメたグローブの指の先端の余り具合は、誰が見てもサイズ発注ミスのものをそのまま着用し続けるウルトラマンロビンのコスチュームの一部の流用だった。試しに客の一人が「1! 2! 3!」と呼びかけると、反射的に「デスティニー!」と言ってしまう宇宙パワー。期待通りの杜撰な反応に客たちは(こういうのが見たかった)と思っていた。

大宝リングアナがコールする。
「本日のメインイベント、時間無制限1本勝負を行います! 赤コーナー、320パウンドォー、ジョージ高野~」。うつむきながら「ジョージではない!」と言うジョージ高野。お約束とはちょっと違うマジのトーンでの全力否定が魅力だ。
「青コーナー、185パウンドォー、ウルトラ宇宙パワ~」。ウルトラマンロビンでの出場を茨城に断られ、宇宙パワーのマスクの下は仏頂面。だが、やる気は十分だ。
「レフリー、和田良覚」。客席からは「仕事選べ!」という温かい声援。軽い苦笑いで済ます和田良覚は大人だ。
「ファイッ!」カーン! とゴングが鳴った。お互い睨み合い、ロックアップするかと思われた次の瞬間、「はい、そこまで~」と地を這うような怖い声で誰かがリングに入ってきた。借金の切り取り業務でやってきた村上竜司(本職仕様)だった。ヤクいブランド物のジャンパーにサングラス、セカンドバッグを携えて、債権回収業務代行のお仕事で来られたようだ。蜘蛛の子を散らすように全力で全選手が退場。試合は当然の如くノーコンテストとなった。その後、茨城清志とジョージ高野の姿を見た者はいないという。

<以上、わかってると思いますがすべてフィクションです>

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▲1990年代、IWA JAPAN興行でフェリーノと。

【W★ING再々旗揚げ戦】
inさいたま市 真・大宮スケートセンター

第1試合<冷凍人間デスマッチ>
○覆面太郎 [ 解凍不十分による不戦勝 ]  徳田光輝×

第2試合<スクランブルバンクハウスデスマッチ>
○関綾子 [ バスでの体当たり ] キラー岩見×

第3試合 メインイベント<時間無制限一本勝負>
ザ・コブラ(a.k.a.ジョージ高野) [ 借金取り出現によりノーコンテスト ] ウルトラ宇宙パワー

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