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【5日連続!佐野元春40周年記念特集】 DAY4:若き野心で疾走した80年代から成熟に向かう90年代

 今年、デビュー40周年を迎え、タワーレコード「NO MUSIC , NO LIFE」のポスターに登場するなど、何かと話題の佐野元春。10月7日には40年のキャリアをまとめたベスト・アルバム『佐野元春グレイテスト・ソング・コレクション 1980ー2004』と『ジ・エッセンシャル・トラックス 佐野元春&ザ・コヨーテバンド 2005ー2020』がリリースされる。そこでTV Bros. note版では「佐野元春ウィーク」と題して5日連続で佐野元春のインタビューを配信する大特集を組むことになった。

【佐野元春40周年記念 ベスト盤2パッケージ 2020年10月7日 同時発売】

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 佐野元春の第2章を告げるアルバム『VISITORS』で日本の音楽シーンに新鮮な驚きを与えた佐野元春。1983年に発表されたそのエポックメイキングなアルバムを中心に、80年代後半までの佐野元春にスポットを当てた昨日に続き、3日目は90年代以降に話を進めていこう。
 さて、前日のインタビューの最後に彼は「自分はこういうミュージシャンであると規定してしまうと、そこから逃れられなくなって、クリエイティブな幅が狭まってしまう恐れがある。だから、僕は自分はこうなんだと規定せず、常に自由でいようと思っている」と語っている。これは佐野元春というアーティストが一貫して持ち続けている基本的な、そして揺らぐことのないスタンスを物語っているのだと思う。自由であれ。何物にも囚われず、何物も恐れず、心のおもむくままに進め。カッコいいではないか。

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ーー佐野さんが始めてテレビブロスに登場したのは1992年、アルバム『Sweet16』のリリース時でした。その時の雑談で佐野さんが近鉄バファローズのファンであることを知り、とても納得がいったのを覚えています。常識に囚われない、個性的なチームでしたからね。

「そう、いいチームだった」

ーー何でそんな話を持ち出したかというと、先日、佐野さんは某スポーツ紙で近鉄バファローズからメジャーリーグにチャレンジした野茂英雄さんについてのインタビューを受けていたからなんです。その中で佐野さんは、自分で道を切り拓いていくことの重要さを語っていました。それは野茂さんのことであり、佐野さんのことでもあると思うんですが、様々なリスクを負い、膨大なエネルギーを費やしてでも自分の道を切り拓いていこうとする、その原動力は何なのでしょうか。

「単純に、ロックンロール音楽が好きだ、ということだと思う」

ーーう~ん、かっこいい! で、その92年のインタビューで佐野さんが語ったことについて、いくつか改めて質問させていただきたいんですが、よろしいですか?

「はい」

いいロックンロール曲というのは、その音が鳴り出せば楽しい気持ちになる。そういう音楽のことだ

ーーまず、お聞きしたいのは、素晴らしいロックンロールとは? その質問に佐野さんは「16の頃に鋭い直感で3分間で出来てしまうものと、成熟した男の子がいろんな経験を積んで、それが成熟したところで生まれるものの2種類がある」と語っているんですが、そこからさらに20年近くが経った今、その考えに変化はありますか?

「いや、変わらない。10代が書いた曲も大人が書いた曲も、いいロックンロール曲というのは、その音が鳴り出せば楽しい気持ちになる。そういう音楽のことだと思う」

ーーでも、そういう楽しさの中に心にひっかかる表現を忍ばせる。違いますか?

「それは聴き手による。僕がゴキゲンな曲を書き、気の利いた表現をしたとしても、聴き手がそれを発見してくれないと、ただの駄作で終わってしまう。そういえば『Sweet16』というアルバムは当時、レコード大賞(第34回日本レコード大賞の優秀アルバム賞を受賞)を取った。聴き手があのアルバムに価値を与えてくれたんだ。実は受賞したことを僕はしばらく知らなかったんだけどね」

ーーまぁ、佐野さんは勲章を欲しがるような人ではないでしょうから。

「ずいぶん経ってから、事務所の片隅にトロフィーがあることに気がついて、これ何?ってスタッフに聞いたら、“優秀アルバム賞を受賞したんですよ”だって。一応知らせて欲しかった(笑)」

ーーははは。次に「レインボー・イン・マイ・ソウル」について尋ねたところ、佐野さんは「ルー・リードが言っているように、僕が今やっていることは、今までになかった大人たちのためのロックンロールなんだと思う」とおっしゃっています。佐野さんはこの時点で30代半ばでしたが、年齢なりのロックンロールというものを考えるようになっていた?

「この『レインボー・イン・マイ・ソウル』は失くしたものについて歌っている。喪失感というのは大人が感じるものだ。そういう意味では大人向けのポップ/ロックかもしれない。僕が好きなジーン・チャンドラーというR&Bシンガーのある曲の一節に、“レインボー・イン・マイ・ソウル”というラインがあって、そこからインスピレーションを受けて書いた曲だ」

ーーそうだったんですか。佐野さんの音楽のベースにあるロック/ポップに、R&Bやソウル・ミュージックの要素が加わっていったのはこの頃からだったでしょうか。

「ブラック・ミュージックの要素はもともと僕の中にあったんだけど、最初はあまり表に出さなかった。自分のアルバムでは『VISITORS』と『The Circle』がどちらかというとその影響がある」

ーーその一方で「ボヘミアン・グレイヴヤード」という曲は、いわば“さまよう者の墓場”。これはボヘミアニズムの終焉、さまようことの終焉を意味していたのでしょうか。

「『ボヘミアン・グレイヴヤード』は、自分が編集していた『THIS』という雑誌を通じて、アレン・ギンズバーグ氏に会ったころの曲だ」

ーービートニク文学の象徴的な存在である高名な詩人。貴重な経験ですね。

「アレン・ギンズバーグ氏と話すことで、10代の頃から影響のあったビートニク・カルチャーを一旦、清算することが出来た。そんなところから生まれたのが『ボヘミアン・グレイヴヤード』という曲だ」

ーーそうだったんですね。まぁ、僕のような立場の人間はこうやってほじくり返したり、あれこれ詮索したりするわけですけど。

「いいですよ。言われて初めて気づくことだってあるからね」

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ザ・ハートランド、そしてザ・ホーボーキングバンドのこと

ーーところで、90年代の半ば、具体的に言うと94年にそれまで活動を共にしてきたバンド、ザ・ハートランドを解散してますよね。これは、ザ・ハートランドではやり切ったということだったんでしょうか。

「ハートランドとは何度かクリエイティブなピークを経験した。でも僕もメンバーも、もうこれで精一杯だろうと感じていた。だから解散ということになっても、僕らはそれを自然に受け止めていた。その後2年間ほどブランクがあって、新しいミュージシャンたちとの出会いがあった。アルバム『フルーツ』のレコーディングの時だ。それが後にザ・ホーボーキングバンドになる」

ーーザ・ホーボーキングバンドは、しっかりとしたバンド・サウンドを重視する佐野さんの要求に応える熟練したミュージシャンの集まりですよね。

「Dr. kyOn、佐橋佳幸、井上富雄、小田原豊、西本明。みんなプレイヤビリティーの高いミュージシャンです。なので、彼らを束ねてひとつのバンドにしたらすごいバンドになると確信した。そして彼らをアメリカのウッドストックに連れていってレコーディングしたのが『The Barn』というアルバム。ジョン・サイモン氏がプロデュースを引き受けてくれた」

ーージョン・サイモンが手掛けたザ・バンドの1stアルバムがレコーディングされたのがウッドストック。そして今でもザ・バンドのような最良のアメリカン・ミュージックが息づいている土地でもあります。それは佐野さんの重要なルーツのひとつだと思いますが、最先端とは対照的なサウンドですよね。

「自分がやりたかったのは、マシーンに制御されないヒューマンでダウン・トゥ・アースなロック・サウンド。当時国内のメインストリームで流行っていたエレクトリックなダンスポップ音楽とは真逆だったけれど、僕のファンにはリアルなバンドサウンドを楽しんで欲しかった。アルバム『The Barn』は、はっぴいえんどを代表とした70年代のバンドができなかったことの穴埋めができたんじゃないかと思っている。先をゆくミュージシャンたちへの敬意もあった」

<DAY4 了>

佐野元春(さの・もとはる)プロフィール
1956年、東京生まれ。1980年、レコーディング・アーティストとして始動。83~84年のニューヨーク生活を経た後、DJ、雑誌編集など多岐にわたる表現活動を展開、1992年、アルバム『スウィート16』で日本レコード大賞アルバム部門を受賞。2004年に独立レーベル「DaisyMusic」を始動し現在に至る。代表作品に『サムデイ』(1982)、『ビジターズ』(1984)、『スウィート16』(1992)、『フルーツ』(1996)、『ザ・サン』(2004)、『コヨーテ』(2007)、『ZOOEY』(2013)、 『Blood Moon』(2015) 、『MANIJU』(2017) がある。

※明日配信の最終回はこれまでのインディペンデントな姿勢を貫く意志の根源、そして現在と近い未来についてを語りつくす!

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