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横浜中華街の外れで、おじさんから言われたこと【岩井秀人 連載 9月号】

岩井秀人がワークショップ参加者や劇団員に「ひどい目に遭った体験を教えてほしい」と取材して聞いたエピソードを、体験者自らが脚本化し、自ら演じる「ワレワレのモロモロ」という企画がある。この連載は、岩井がライフワークとしているその企画の番外編として、岩井が経験または収集したエピソードを、岩井のフィルターを通して文章化したものである。


今回も私、男岩井自身の「ワレワレのモロモロ」でございます。

かれこれ20年近く前に、川崎にいたお坊さんに算命学(占いね)によって叩きつけられた「おまえ先祖からの恩恵が全くないぞ」という言葉。当時、演劇の大学を卒業したばかりで「自称・俳優」だった男岩井が、その言葉にもう絶望しかなく、それでも必死こいて生き抜いてきたわけだが、なんと、その話の続編となる事件が先日起こったのだ。つまり今回は「先祖」の話である。

会社の事務所の引っ越しが終わり、社員ちゃんと共に「片付け終わり打ち上げ!」として、横浜中華街にご飯を食べに行った。引越しとともに、動画配信などのこともひと段落したので、これまでのことやこれからのことを話しながら、夜風に当たりつつ中華街をうろうろしていたところ、占いの館の前を通りかかった。中華街にはいくつもの占いの館があって、それぞれの館には4~5人の占い師がブースを持っている。

我々が通りかかったところは結構広めの館で、8人分くらいのブースがあったが、そのときは中央にこちらを向いて座っている黒い服のおじさんが1人座っているのみだった。我々はそれを見るともなく通り過ぎていくところだったが、おじさんがこちらに向かってしきりに何かを話している。

雑踏にかき消される、おじさんの言葉。多少気にはなったが、どうせ呼び込みだろう。僕一人だったら通り過ぎたと思う。が、社員ちゃんがふわりとおじさんに近づいていった。これが意外だった。

普段、社員ちゃんはこういった「スピリチュアル系」に興味がない、どころか、嫌悪しているくらいのレベルだ。誰かが「運命だと思った」的な話をしたレベルでも、「相手がいる前でそこまで目を平べったくできますか?」くらいなリアクションを取るし、直接話していても、自己啓発系にも無条件でNO!を突きつける社員ちゃんだ。

おじさんは手相を見るよ、と言っていた。やはり呼び込みである。ただそこの看板に「算命学」と書いてあったのが気になったので、「手相と算命学の合わせ技で何か教えてくれるんですか?」と聞いたところ、「それとこれは別。僕は手相ですね」とのこと。手のシワで何がわかるかいな。と、男岩井よりも社員ちゃんも思ってるだろう、と横を見れば、手のひらを素直~~におじさんに見せている社員ちゃん。おい!

ここから、社員ちゃんの現在と未来を語る占いおじさんが凄かった。諸々がドンピシャすぎて、「仕事専用人間」とか「結婚高望みするな」とか、まあ確かにタイムリーなことなどが多く、結局気がつけば男岩井も手のひらを見せていたというわけだ。

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