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『鵞鳥湖(がちょうこ)の夜』『ヒットマン エージェント:ジュン』映画星取り【9月号映画コラム④】

今回の星取作品、漢字が読みづらい作品もありますが、大変な高評価となりました。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:〈ナイトランド・クォータリー〉#22でインタビューを受けました。エド・ウッドの短編小説も紹介しています。
ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。言いたい放題最新映画情報番組「CINEMA NOON」を配信中。次回は9月29日(金)20時からhttps://m.twitch.tv/noon_cafeで。YouTubeにもアップしてますので検索を。
地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:【『死霊魂』ヒット記念】オンラインレクチャーに参加。王兵監督の研究者、土屋教授の講義、非常に興味深かったです。

『鵞鳥湖(がちょうこ)の夜』

鵞鳥湖

監督・脚本/ディアオ・イーナン 出演/フー・ゴー グイ・ルンメイ リャオ・ファン レジーナ・ワンほか
(2019年/中国・フランス/111分)
●2012年の中国南部の鵞鳥湖周辺でギャングたちの縄張り争いが激化する中、刑務所を出所してバイク窃盗団に舞い戻った裏社会の男チョウは、抗争の中で誤って警官を射殺。指名手配されたチョウは、自らにかけられた報奨金を妻子に残そうと画策するが…。

9/25(金)全国ロードショー
©2019 HE LI CHEN GUANG INTERNATIONAL CULTURE MEDIA CO.,LTD.,GREEN RAY FILMS(SHANGHAI)CO.,LTD.,
配給:ブロードメディア・スタジオ

柳下毅一郎
ムードたっぷりのノワール
しのつくような雨の中、うらぶれた駅にあらわれる赤いブラウスの美女というあまりに石井隆的なオープニングが素晴らしいチャイナ・ノワール。鵞鳥湖には水中の見えないところでいけないことをするという「水浴嬢」という聞き慣れない風俗があるという。そんなディテールも、グイ・ルンメイのなまめかしさも抜群なのだが、いかんせん大作化したせいでちょっと長いのが気になる。やはりノワールは短く余韻を残してこそではないか。
★★★★☆

ミルクマン斉藤
虚構性と土着の割合いが心底たまらん絶品ノワール。
『薄氷の殺人』で新たなノワール映画誕生か?と思わせたディアオ・イーナン。こりゃこの路線を突き詰めるつもりだな。前作以上にとんでもないシチュエイション続出。講習会する窃盗団やら「水浴嬢」なるアクロバティックな娼婦やら、ビニール傘、光るサンダルと小道具も笑わせどころ多し。鈴木清順や三池崇史や王家衛やD.リンチの影響は明らかにあるが、中国の地方映画独特の泥臭さもいい味。
★★★★★

地畑寧子
飛躍し続けるグイ・ルンメイに釘付け
ウォン・カーワイ作品で知られる、黄志明の照明も素晴らしい、傑作ノワール。前作『薄氷の殺人』で魅せた陰鬱なトーンに加え、今回は、ドラマ部分とアクションシーンの緩急、カット割りのセンスの良さに北野武作品やキム・ギドク作品に通じるものを感じ、監督ディアオ・イーナンの才能を堪能。幕切れのかすかな爽快さ、エンドタイトルに流れる「ブンガワン・ソロ」(中国語版)も効果的。このクオリティでまだ2作目。さらなる伸びしろに期待。
★★★★半

『ヒットマン エージェント:ジュン』

ヒットマン

監督・脚本/チェ・ウォンソプ 出演/クォン・サンウ チョン・ジュノ ファンウ・スルヘ イ・イギョン イ・ジウォン ホ・ソンテほか
(2020年/韓国/110分)
●孤児だった少年は国家情報院に拾われ、ジュンという名を与えられて有能な暗殺要員として活動していたが、漫画家になる夢を捨てきれず、死を偽装して行方をくらます。15年後、漫画家にはなったものの作品はまったく売れず、妻の稼ぎに甘んじていたジュンは、自暴自棄になって暗殺要員時代の話を描き、大人気を博してしまう。国家情報院はジュンの生存を知り、抹殺に動き出す。

9/25(金)よりシネマート新宿・心斎橋他全国順次ロードショー
© 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
配給/アルバトロス・フィルム

柳下毅一郎
脚色ぐらいはするように
最強のヒットマンが売れない漫画家に転身!という一発ギャグのコメディなのだが、その割には血生臭くて人もどんどん死んで、笑いも引きつってしまう。底抜けお笑いのくせにアクションとか残酷シーンとかは韓国映画特有のハードさなので、冷酷非情に心なく人が死んでゆく印象だ。それにしても、自分の経験した実話をそのまま描くのって、それ実は漫画の才能ないんじゃないのか。
★★☆☆☆

ミルクマン斉藤
ワン・アイディア映画の潔さはある。
僕としては久しぶりのクォン・サンウ映画なのだが、彼の風貌もハーフ・シリアスな持ち味も15年前の『マルチュク青春通り』あたりと変わってない。基本となるプロット自体はさほど新味はないがそれなりにユニークではあり、最後まで一直線に駆け抜けるプログラム・ピクチャー的潔さで楽しめるんだけど、後に何も残らないのも確か。途中ずっと手錠で繋がれつつ絶妙な台詞の応酬を交わすチョン・ジュノと、サンウの娘を演じる子役はしっかり笑わせてくれます。
★★☆☆☆

地畑寧子
コミカルなチョン・ジュノも活きてます
凄腕暗殺者が古巣の組織と悪人双方から狙われるスカッと単純明快なアクションコメディ。元祖モムチャン(もはや死語?)俳優、クォン・サンウは、早くから香港映画界も目をつけていたほどの抜群のアクションセンスの持ち主で、メロドラマよりもコメディのほうが活きる役者で、加えて美術系の出身だったりするので、そのあたりの監督のあて書きが功を奏している作品。ドラマ「未生」で知られるウェブ漫画の配信事情も垣間見れるのも嬉しい。
★★★☆☆

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