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これはもはや「カルト」と言っても過言ではない映像ジャンルだ!〜『とんでもカオス!:ウッドストック1999』〜【大根仁 9月号 連載】

おおね・ひとし●脚本:渡辺あや/出演:長澤まさみ・眞栄田郷敦・鈴木亮平/音楽:大友良英/演出:大根仁/プロデュース:佐野亜裕美によるドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』、10月よりカンテレ・フジテレビ系にて放送です。

1999年に苗場で初開催されたフジロックフェスティバル1999に参加して以来、昨年まで22年間皆勤だったオレだが、今年はドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』の撮影が重なり、不参加となってしまった。毎年フジロックの他にも何らかのフェスには参加してきたが、撮影期間が長いため【NO FESTIVAL,NO LIFE】の信条さえ崩れ、何とも消化不良の夏となってしまった。

そんな不満を埋めるべく、撮影の合間や深夜にYouTubeで生配信やアーカイブでフェス映像を観たが、やはりフェスは行ってこそのフェス。そりゃPCで観ていれば雨も降らないし、ステージ間の移動も無けりゃ、トイレの臭いに辟易することもないが、やっぱり夏はフェスに行かなきゃ終わらんのよオレは……なんてアーカイブ映像配信も終わったド深夜、酔っ払いつつPCを閉じようとすると、Netflixの【あなたにイチオシ!】ラインナップの中に気になるタイトルが目に留まった。それは『とんでもカオス!:ウッドストック1999』というドキュメンタリー作品だった。

1999年といえば、前述したようにフジロックフェスが苗場で初開催された年。1997年の台風直撃による開催中止、1998年の灼熱の豊洲開催という受難を経て、フジロックフェスがようやく苗場という安住の地に行き着き、ラブ&ピース&フリーダムを勝ち得て、日本にロックフェスを根付かせた元年と言われる年である。その同年、フェスの発祥地であるアメリカで元祖ロックフェスと言ってもよい、1969年に開催された愛と平和の音楽の祭典、伝説のウッドストックが30年ぶりに復活したという話は……うーん、なんか聞いたことがあるような気もするが、正直なんにも覚えていない。そんで何?「とんでもカオス!」ってどういうこと? メニュー画面を観ると45分×3エピソードという、ちょうどよいサイズ感&途中で寝落ちしてもよさそうなので観ることにしたのだが……2時間15分後、寝落ちどころか頭がギンギンになり、結局そのまま一睡もせぬまま翌日の撮影現場に行くという不測の事態となってしまった。

それほどまでに惹きつける面白さがあったか?と言われれば、まったくそんなことはなく、観ている間ずっと「わーわー!」「酷い!!」「なんじゃそりゃ!?」「んなわけねえだろ!?」「おいおいおい!!!」「ダメだこりゃ……」の連続で、むしろ観たことを後悔……とまでは言わないが、まあ観なくてもまったく問題はなかったようなシロモノであった。

だがしかし! これが退屈な映像作品だったかと言われれば、むしろ逆で、鑑賞中、常に脳が刺激され、次第に麻痺し、映像内に自分が浮遊しているような気持ちにさせられる……そう! これはもはや「カルト」と言っても過言ではない映像ジャンルの作品であった。

ことの始まりは、フェスマーケットが広がりつつあった90年代のアメリカで「ウッドストックをもう一度!!」と、1969年当時の主催者やプロモーターがウッドストック1999を仕掛けたことだった。しかし、30年前の反戦・平和・愛を訴えていた名もなき若者だった頃とは違い、彼らは音楽マーケットの拝金主義に塗れた老害オヤジと化していて、収益を最優先に場所やアーティスト選定を始める。

決まった場所は、1969年の広大な牧草地とは180度違う、ニューヨーク州郊外にある閉鎖された巨大な軍施設。当然、地面はすべてコンクリート、日陰になる場所はほんの少し、さらには会場の周りをゲートで囲い、入場者は飲食物持ち込み禁止というルールを課し、収容所のような環境を作る。出演アーティストは、1999年当時隆盛を極めていたミクスチャーロックの代表的なバンドであるレッド・ホット・チリペッパーズ、KORN、リンプ・ビズキット、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンを筆頭に、ケミカル・ブラザーズ、ファット・ボーイ・スリムなどのエレクトロやレイブで客を盛り上げる新しいタイプのバンドやミュージシャンが揃った。

しかし、開催初日から天候は猛暑となり、気温は38℃を越え、ライブに盛り上がっていた観客は徐々に疲弊していくが、会場内で買える飲食物はいちばん安いミネラルウォーターですら4ドルという高額。疲弊はやがて不満へと変わり、不満はミクスチャーロックによって煽られ、暴力衝動と化していく……。作品ではこれらの様子を、当時生中継していたMTVのオフィシャル映像、主催者やスタッフや出演アーティストや参加していた観客たちの証言インタビュー、ホームビデオで撮影していた会場内の生々しい映像などで構成している。

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